第32話:魔法鉱石の行方
「それで、どうするつもりだ?」
俺はサーシャを見つめながら問いかけた。彼女は木箱の中の魔法鉱石を見つめ、少し考え込む。
「貴族やギルドが欲しがるって言ってたけど、そんな相手にどうやって売ればいいの?」
リーナは腕を組んで答える。
「鍛冶ギルドに持ち込めば、それなりの値はつくと思う。でも、問題は相手が誠実な買い手かどうか……騙されて安く買い叩かれる可能性もあるし、最悪の場合、奪われることだってある」
サーシャの顔に不安が広がる。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
俺は少し考えてから提案した。
「まずは、この鉱石が本当に価値のあるものか、確かな目で見てもらう必要がある。信頼できる鍛冶師に鑑定してもらうのはどうだ?」
リーナが頷く。
「それがいいかもね。カミカムの鍛冶ギルドには熟練の鍛冶師がいるし、その人に見てもらうのが確実だと思う」
サーシャは少し考えた後、決意したように頷いた。
「……わかった。鍛冶ギルドに行こう!」
俺たちはサーシャを連れて、カミカムの鍛冶ギルドへ向かうことにした。
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鍛冶ギルドは街の隅にあり、重厚な石造りの門が威圧的にそびえていた。入り口には鉄の看板が掲げられ、その奥からは鉄を叩く音が絶え間なく響いてくる。門をくぐると、すぐに熱気が押し寄せてきた。
「ここが鍛冶ギルドか……」
辺りには多くのドワーフやミックスドの職人が行き交い、こちらを不審そうに見ている。彼らの逞しい腕は煤と汗にまみれ、長年の労働の跡を感じさせた。
俺は入り口の巨大な炉を眺めながら呟いた。周囲には金槌やヤスリといった道具が整理されて並べられているが、鉄の粉や煤が漂い、何かが燃える独特の匂いが鼻をつく。中からは鉄を打つ音が響き、灼熱の熱気が漏れ出している。
「この街には腕のいい鍛冶師が多いから、きっといい人が見つかるはず」
リーナが言いながらギルドの中へ入る。俺たちもそれに続いた。
中には屈強な男たちが行き交い、鉄を叩く音が響いていた。炉の近くでは、溶けた金属が赤々と燃え、鍛冶師たちが汗だくになって作業している。地面はぬかるんでおり、足を踏み出すたびに重たく感じる。周囲の建物の煙突からは灰色の煙が立ち昇り、空気をどこか霞ませていた。
「すごいな……」
俺が周囲を見渡していると、一人の老鍛冶師がこちらを見た。彼は白髪で脂ぎった髪を後ろに撫でつけ、浅黒く皺だらけの肌を持っていた。その鋭い目つきが俺を見据えた瞬間、まるで獲物を品定めされているような感覚に襲われた。目は鋭くギラつき、長年の労働で指が何本か失われているのが見える。足を引きずるように歩きながら、こちらに近づいてきた。その迫力に思わず喉が鳴る。俺は息を呑みながらも、なんとか落ち着きを保とうとする。
「お前ら、鍛冶見習い志望か?」
サーシャが前に出る。
「違います! 私は鍛冶師の娘で、これを鑑定してもらいたいんです!」
彼女は木箱を開け、魔法鉱石を見せた。
老鍛冶師は眉をひそめ、鉱石をじっと見つめる。その鋭い目つきが俺を見据えた瞬間、まるで獲物を品定めされているような感覚に襲われた。
「……ほぉ。これは……」
俺たちは息を飲んで、彼の言葉を待った。