第27話:戦場の決断
さきほど石が当たった肩の痛みがじわじわと広がる。だが、俺は踏みとどまった。
「透、大丈夫!?」
リーナが短剣を振りながら叫ぶ。彼女の鋭い視線の先では、まだ戦いが続いていた。
野党の少年たちは容赦なく攻めてくる。生きるために、俺たちの荷を奪うために——。
(こいつらに情けをかける余裕はない……だが)
俺は鉄パイプを握り直し、一歩前に踏み出した。重い。だが、この武器を使いこなせなければ、俺がやられる。
目の前の少年が再びナイフを振るってくる。俺は意を決して、鉄パイプを横に薙ぎ払った。
ガンッ!
鈍い音が響き、少年の手からナイフが弾かれる。驚いたように目を見開き、彼は後ずさった。
「よし……!」
だが、その油断が命取りだった。
別の少年が後ろから棍棒を振り下ろしてくる。間一髪、俺は体をひねり、その一撃を避ける。
「くそっ、こいつら……!」
奴らは数で押してくる。俺たちは守る側、向こうは奪う側——この戦いは、どちらかが倒れるまで終わらない。
その時——。
「燃え盛れ、炎の槍!」
護衛の一人、ロウガが詠唱を終え、彼の手から巨大な火炎の槍が放たれた。
ゴオオッ!
槍は宙を裂き、突撃してきた野党の一人の足元に炸裂。爆炎が舞い上がり、衝撃に吹き飛ばされた敵が苦痛の声を上げた。
「くそっ、魔法使いがいるぞ!」
敵の陣形が乱れ、焦燥の表情が広がる。
「透、もう少し持ちこたえて!」
リーナが敵を一人倒しながら叫ぶ。
だが、このままではジリ貧だ。俺は考えた。
(今、この状況を打破するものは……?)
俺は息を整え、新たな召喚を試みる。
(頼む……何か使えるものを!)
俺の手が光に包まれる。そして、目の前に現れたのは——。
赤い消火器だった。
「……え?」
俺は思わず唖然とする。
だが、その瞬間、野党の少年たちがギョッとして立ち止まった。
「なんだこの赤い筒は……!?」
「こ、こんな赤い筒がどこから湧いた!? 何をする気だ!?」
俺は迷わずレバーを引いた。
動揺が広がる。チャンスだ——!
シューーーッ!
消火器から白い粉が勢いよく噴射された。
「ぎゃああああっ! 目がっ、目が見えねえ!」
「な、なんだこの白い霧は!? 魔法か!?」
敵は慌てふためき、次々と退散していく。
リーナが目を丸くしながら俺を見た。
「透……今の、何の魔法?」
「うわあああ!」
敵は次々と避け、散り散りに逃げる。
「透、ナイス!」
リーナが叫ぶ。
俺は深く息をついた。
だが、完全な勝利ではなかった。
「荷物が……!」
商人の叫びに振り向くと、護衛たちが荷馬車を確認している。戦闘の最中に一部の食料が奪われていたらしく、袋が破られ、穀物がこぼれ落ちている。
「クソッ……やられたな……」
ガルスが悔しそうに拳を握る。
「無傷で終われるほど甘くはなかったか……」
戦いは終わったが、俺たちが失ったものも少なくなかった。
(何とか、やった……!)
こうして、俺たちは何とか戦場を生き延びることができたのだった。