第2話:異世界の裏路地
目を覚ますと、そこは薄暗く、湿った臭いが立ち込める裏路地だった。
地面は石畳だが、ところどころ欠けており、泥や汚水が溜まっている。その上を、見たことのない黒光りした虫が素早く這い回っている。まるで巨大なゴキブリのようだが、胴体には奇妙な節がいくつもついている。壁は粗末な木と石で組まれ、煤けた痕跡が残っている。どこからか獣の鳴き声と、人の話し声がかすかに聞こえるが、この通りには誰もいない。瓦礫の間から、長い尾を持つネズミのような小動物が顔を覗かせ、目が合うと素早く闇の中へと消えた。
「……ここはどこだ?」
俺は頭を押さえながら、まず管理人の百合子さんを探した。あの適当なノリのせいで、わけのわからない場所に飛ばされたのかもしれない。だが、周囲を見回しても彼女の姿はない。
俺はゆっくりと身を起こし、あたりを見回した。上空には厚い雲が広がり、昼間のはずなのに薄暗い。建物の隙間から漏れる微かな明かりが、ここがまだ人の住む場所であることをかろうじて示していた。
自分自身に目を向けると服は見慣れたものだったが、周囲の雰囲気は完全に異世界のそれだった。
俺は慎重に膝を折り、地面に触れてみた。ひんやりとした石畳の感触があり、泥の湿り気が指先に伝わる。本物の感触……夢じゃないのか?
次に、壁に手を当てる。粗くて乾いた感触の木材、煤けた跡。明らかに現実の日本とは異なる素材感。俺は深く息を吸い込み、湿った土と獣の匂いが入り混じる異臭を確かめた。
「転移……したのか?」
信じがたいが、これが現実なのかもしれない。立ち上がろうとしたその時——
「うぅ……」
腹の底から鈍い空腹感が湧き上がってきた。そういえば、最後に食べたのはコンビニの弁当だったか。
とにかく、この世界で生きていくためには情報が必要だ。
「まずは人を探さないと……」
それに、百合子さんがこの近くにいる可能性もある。俺を異世界に送った張本人なのだから、説明くらいしてくれないと困る。
慎重に路地の出口を目指し、俺はゆっくりと歩き出した。