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第12話:クセのある中古屋店主

 リーナに案内され、俺は中古衣類を扱う店へと足を踏み入れた。


 店内は思ったよりも広く、壁には様々な衣服が並べられている。革のジャケット、継ぎ接ぎの多いチュニック、洗いざらしのシャツなど、どれも使い込まれたものばかりだ。


 「おい、そこの新顔。何か探してるのか?」


 低くしゃがれた声が響き、俺は奥から現れた店主に目を向けた。


 店主は小柄な老人で、長い白髪と白い髭をたくわえている。まるで鍛冶職人のように逞しい腕をしており、歳のわりに力がありそうだ。


 「透、新しい服を探してるの。この人の服、珍しいから気になるでしょ?」


 リーナが軽い調子で言うと、店主は俺をじろりと見て、腕を組んだ。


 「ほう……確かに、その服は見たことがねぇな。お前、どこから来たんだ?」


 「遠くの国からさ」


 適当に答えると、店主は鼻を鳴らしながら頷いた。


 「まぁ、いい。服が欲しいなら、そこらの安物を漁るか、それともマシなもんを選ぶか、どっちだ?」


 「マシなものって、どれくらいの値段なんだ?」


 「上物なら800バイト、中くらいのやつなら500バイトだな。安物なら200バイトからあるが、すぐダメになるぜ」


 俺は少し考えた。あまり派手な服を買うつもりはないが、ある程度丈夫なものが欲しい。


 「透、試しに何着か見てみなよ」


 リーナに促され、俺は棚から適当なシャツを手に取った。粗い生地だが、しっかりとした作りのものだ。


  棚の奥に目を向けると、妙に異質な衣服が目に入った。


 「ん? これは……」


 俺の手は思わず止まった。


 信じられないものを見つけたからだ。


 「いや、待てよ……こんなの、まさか……」


 見間違いかと思ったが、何度見ても間違いない。それはローリングストーンズのロゴTシャツだった。異世界でこんなものがあるはずがない。俺は息を飲み、胸がざわつくのを感じた。


 取り出したのは、一枚の黒いTシャツ。中央には、赤い舌を出した唇のマーク——ローリングストーンズのロゴが大きくプリントされている。


 「おい、それには触るな!」


 突然、店主が鋭い声を上げた。


 「……なんで?」


 「そいつは呪いの衣だ。長年封印されていた品でな、誰も近寄ろうとしねぇ……ある男爵家が、もの珍しさに買ったことがあるんだがな……」


 店主は遠い目をしながら続けた。


 「それを買った男爵家の家族は、三日後に全員、踊り狂って死んだそうだ」


 「踊り狂って……?」


 「深夜、屋敷から音楽もないのに足音が響き続けたと近隣の者が証言してる。召使いが様子を見に行ったが、誰も止められなかったらしい。それで、流れ流れて俺の店に来たってわけだ」


 リーナが息を飲み、周囲の客も一歩下がる。


 俺は改めてTシャツを眺めた。確かに、この世界ではプリント技術がない以上、こんな精密なデザインがあるはずがない。


 「呪いって、どんな?」


 「分からん。昔の記録には『見る者を惑わせ、魂を揺るがす』とだけ書かれていた。実際、持ち主がみんな不幸になったとかで、ここに封印されているのさ」


 リーナや周囲の客が不安そうにこちらを見ている。


 「透、本当に大丈夫なの?」


 「ただのTシャツだよ。これ、向こうの世界じゃ普通に売られてるし」


 俺が気にせず手に取ると、店主が渋々封印を解いた。


 「……いいだろう。だが、責任は持てんぞ」


 「問題ないさ」


 俺はTシャツを手に取り、店主に値段を聞いた。


 「こいつは……500バイトだ。呪いがあるからな、本来なら売り物じゃねぇが……お前が持ってくなら売ってやる」


 「買うよ」


 周囲がざわめく中、俺は平然とTシャツを手に入れた。


 店主はじっと俺を見つめながら、何かを考えているようだった。

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