第10話:異世界の興味
「お兄さん、その服、すごく変わってるよね。こんななめらかな生地、見たことないなぁ」
リーナは興味深げに俺のシャツの袖を指でつまんで眺めている。
「これは……綿と化学繊維が混ざった生地だな。向こうの世界では普通の服だよ」
「ふーん、すごく丈夫そう。けど、こんな服を着てる人、ここじゃ見かけないよ」
リーナは次に俺の足元へ視線を移した。
「それに、その靴……これ、すごくしっかりしてるね! 革靴ってこんな形してるの? 針で縫ってるように見えないけど……」
「ああ、これは特殊な製法っていう作り方で——」
説明しようとして、俺は口をつぐんだ。この世界にグッドイヤー製法なんてないだろうし、説明しても通じるかどうかわからない。
「まあ、向こうの職人技ってやつさ」
「へぇ……職人技かぁ……」
リーナは興味津々な様子で俺の靴を眺めている。布が好きらしい彼女にとって、俺の服や靴はかなり珍しいものに映っているのだろう。
「そうだ、お兄さん、ちょっと座っていかない? お話ししたいこと、たくさんあるし」
リーナが店の奥にある木製の椅子を指さす。
「いいのか?」
「もちろん! それに、何か食べながらのほうが話しやすいでしょ?」
俺は少し考えてから、ビジネスバッグの中を探った。手元には、日本から持ち込んだチョコレート菓子がある。
「じゃあ、これでも食べながら話そうか」
「その前に、俺の名前を言っておくよ。町田透。透でいい」
「透? うん、わかった!」
そう言って、俺は小さなチョコレート菓子の包みを取り出し、リーナに差し出した。
「なにこれ?」
「甘いお菓子さ。試しに食べてみてくれよ」
リーナは包みを手に取り、しばらくじっと眺めていた。
「これ、どうやって開けるの?」
どうやら包装を開ける概念がないらしい。俺は微笑みながら、包みを剥がしてチョコレートを取り出し、リーナに手渡した。
「こうやって開けるんだ。ほら、食べてみて」
「ん……! すごく甘い! 口の中で溶ける……何これ!? こんなの食べたことない!」
目を輝かせながらチョコレートを味わうリーナ。その表情を見て、俺は少し安心した。
「お兄さん、面白いね! 服も靴も、食べ物も全部珍しいものばかり。もっと色々聞かせてよ!」
リーナの興味は尽きないようだった。俺はしばらくの間、この異世界の仕立て屋で、彼女と交流を深めることになりそうだ。