6 ステーク② テレポート
ぼくは塔の天辺に設置された四角い出入口を開けた。シャルはぼくの首につかまって背中に乗り、おんぶしている状態だ。
まるで深いマンホールを下りるように吊り下げはしごを下りて行く。最初に入場制限の注意があったけど、大柄な人にこの通路はきついと思う。ぼくはふと関取のような乗客を思い浮かべた。
休み休み十分ほどかけて、ようやく床に足をつけると、こぢんまりとした円形の部屋に辿り着いた。穏やかな明かりに照らされた落ち着いた部屋だけど、窓が無いので少し圧迫感がある。円い壁には切り分けたバームクーヘンみたいなベンチがあって、中央に曲がったワイドなモニターが設置されていた。
シャルとぼくはモニターに何かが映ることを期待して、向かいのベンチに並んで座った。
ピンポンパンポン――とお知らせ音が鳴り、モニターの電源が入った。画面に細長い女の人が映し出され、にこやかな笑顔を浮かべていた。手前には細長い文字で【受付:107F*ST・ホソミ】と印刷された席札が置かれている。
「旅行でお越しのお客様、ようこそステークへ。この塔の出入口は、お客様が下りてこられた一か所しかございません。また、塔内部には窓もございませんので、火の使用は固く禁じられております。ご注意くださいませ」
「モニターが壊れているのかな? 人も文字も後ろにある鉢植えも、みんなタテに細長く見えるんだけど」
ぼくがつぶやくと、そっとシャルが答えた。
「この塔は横幅が狭くてタテに長い。ここでたくさんの人が生活するには、体型がスリムなほうが合理的なの。進化の過程でそうなったのかも知れないって、スマートウォッチが教えてくれたわ」
「中央に最下階までつづく、直通のはしごがございますが、それはあくまで非常用です。
セキュリティや安全面の問題もございますので、観光客の皆さまがお入りできる階を制限させていただいております。ご了承くださいませ」
「各階の移動はエレベーターなのかな?」
ぼくがつぶやくと、今度はモニターに映った細長い女の人が答えた。
「各階への移動は、塔内の瞬間移動機能を使用します。お手持ちのスマートウォッチと連動させておりますので、ご希望の階を選択肢からお選びくださいませ。
その際、団体で移動される方はお手をつないで選択していただくと、一斉移動が可能となります。
以上で私からのご説明は終了いたしますが、他に何かご質問はございますか?」
「素泊まりできる、お手頃価格の部屋はありますか?」
シャルが尋ねると、モニターの細長い女の人が微笑みを浮かべて答えた。
「スマートウォッチから【9998F*観光案内所】をお選びいただきますと、そちらでお客様に様々なご案内をしております。ぜひそちらでご相談くださいませ」
ピンポンパンポン――と終了の音が鳴り、モニターの映像が消えた。
「ユーは、ここでどんな観光をしたい?」
シャルはきれいな翡翠色の瞳をぼくに向けて問いかけた。
「そうだね……ここがどんな世界で、住んでいる人たちがどんな生活をしているのか、とても興味がある。もう多少のことには驚かないつもりだけど、ここで体験できることをすべてやりたい感じかな!」
ぼくが答えると、シャルはフフフと笑ってぼくの胸元にジャンプした。
「つまりこのステークの塔は一体どういう場所なのか、ってことを知りたいわけね。わたしに考えがあるの。宿を探す前に、まずはその場所に行ってみましょ!」
シャルはぼくに支えられながら、左腕にはめたスマートウォッチを操作した。
一瞬、目の前が真っ白になった。ゆっくりと眩しさが和らぐと、周りの風景が変わっていた。さっきとは違う階に瞬間移動したようだ。
天井と床に設置された直通のはしごは同じだけど、円形のドーナツみたいな床が前の階よりも少し広かった。
周囲の円い壁には、六つのドアがあった。
「ここはステークの図書館よ。観光案内所だと、たぶん表面的な情報しか教えてくれないわ。いろんなことをじっくり調べるには、ここが一番じゃない?」
シャルは腹黒そうな笑みを浮かべて言った。