表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

5 ステーク① 羽虫のじいさん

「まもなく最初の経由地(けいゆち)【ステーク】に到着致します。駐機時間(ちゅうきじかん)は四十八時間。スマートウォッチに出航(しゅっこう)までの残り時間が表示されます。観光される方は、くれぐれも乗り(おく)れることがないよう、お気をつけください。

 なお、ステーク(がわ)規則(きそく)(もと)づき、身長百七十センチ以上、体重六十五キロ以上、腹周(はらまわ)り八十センチ以上の方は(とう)の中に立ち入りできませんので、ご了承くださいませ」


 旅客機(りょかっき)がゆっくりと左に(かたむ)旋回(せんかい)する。窓を(のぞ)くと、暗闇の中にポツンと一本、(はり)()さっているように見えた。

 徐々(じょじょ)に機体が近づくにつれ、針のように見えたものが、細長い塔だということがわかった。トンボが先端(せんたん)()まるように、旅客機は塔の天辺(てっぺん)に着陸した。


「シャル、どうする?」

ぼくには不安もあったが、それよりも好奇心のほうが上回(うわまわ)っていた。

「フフフ。もちろん行くわ。わたしはできるだけたくさんの世界を回って、いろんなことを知りたいし、様々(さまざま)な経験を()みたいの。言わば自分(みが)きの(たび)、ってところかな」

シャルは少し興奮した表情で言った。


「ステークへの観光は、現地にいる案内人(ガイド)もおりますが、(おお)まかな注意事項はスマートウォッチでも確認できますので、一度は目を通していただくことをお(すす)め致します。

 それでは、観光希望の方は体型(たいけい)身体検査(チェック)()ませたあとで、塔の中へお入りくださいませ」


 階段(タラップ)()りると、ぼくとシャルの(ほか)に観光を希望する乗客はいないようだ。

「みんな最初の経由地だから緊張しているのかな?」

「四十八時間も滞在時間があるから、みんなのんびりしているんじゃない?」

シャルはスマートウォッチを操作(そうさ)しながら、ぼくの()いかけに答えた。


「おい、ネコさんと少年。ワシもここにおるぞ。塔の中に入る前に、ちょっとワシについて来ないか?」


 よく見ると目の前に一匹(いっぴき)羽虫(はむし)が飛んでいた。言葉(ことば)をしゃべらなかったら、(あや)うく(てのひら)(たた)(つぶ)していたかも知れない。

 興味を引かれたシャルとぼくは、塔の入口を通り()ぎて、ふわりふわりと飛んでいく羽虫のあとを追った。


「このスマートウォッチは乗客の体型に合わせて大きさが変化するみたいじゃのう。どんなテクノロジーを使っているのか想像もできないが」


 羽虫に(さそ)われて塔の(はし)へ向かうと、落下防止用の(さく)が設置されていた。柵に身を乗り出して真下(ました)を見ると、闇は深く、(はる)か奥まで(かす)むほどにつづいていた。


 羽虫(はむし)は柵の手摺(てすり)に止まってぼくたちに言った。

「ワシは少年の頃に『ステークの秘宝(ひほう)』の()(つた)えを聞いた。この奈落(ならく)(そこ)には様々な人が残していった古代遺物(こだいいぶつ)や秘宝の数々(かずかず)が埋まっているとな。


 これまでに何度も、現地の調査団や探検家が調査を(こころ)みたが、いずれも道半(みちなか)ばで挫折(ざせつ)したり消息(しょうそく)()ったらしい。()(さき)短いこの(とし)になって、ワシはようやくこの機会(チャンス)を手に入れた。


 まぁ、夢を(かな)える前に、それを誰かに伝えたかっただけなんじゃよ。見送られる相手が見つかって本当に良かった。二人ともありがとうな。それじゃあ、ワシは生涯を()けてこの闇に(いど)んでくる。達者(たっしゃ)でな!」

 羽虫は(ほたる)のように(ほの)かな明かりを(とも)して、ゆらゆらと闇の底へ向かって()りていった。


 シャルとぼくは、しばらく無言で小さな(ひかり)(つぶ)を見送った。

「まだ最初の経由地なのに、旅行代(ツアーだい)がもったいないと思うんだけど?」

シャルに視線を合わせて()いかけると、彼女は闇に視線を落としたまま静かに答えた。


「闇の底にお宝があるかどうかはわからない。だけど、この旅行(ツアー)は彼にとって、人生を賭けた夢に辿(たど)りつくための唯一の手段だったのよ。お金の価値には変えられないわ」


 シャルはジャンプして、ぼくの胸元(むなもと)に飛び乗った。そんな気配は感じていたので、ぼくはしっかり、だけど(やさ)しく彼女を()きかかえた。

「スマートウォッチでステークの町の特色や注意事項を把握(はあく)しておいたから、案内(ガイド)はわたしに(まか)せて。重たくなかったら、わたしの運び(やく)をお願いしてもいい?」


「いいよ。シャルはふわふわだし、お日様(ひさま)みたいな()(にお)いがするからね」

「ちょっと! (うれ)しいけどセクハラだから。これからそういうことは、声に出さずに心の中だけに(とど)めておいてね!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ