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人心地

 腹の皮が張れば目の皮が(たる)むと言うが、転生してから初めて旨い料理で満腹になったリューリは、いつしか何度も欠伸(あくび)を噛み殺していた。

「おや、リューリちゃんは、おねむか」

 彼女の様子を見たジークが、愛おしげに微笑んだ。

「色々あり過ぎたし、疲れるのも無理はありませんね。アデーレ、私たちの部屋で寝かせてあげましょう」

 ローザの言葉に、アデーレが頷いた。

「はい、では、私が連れて行きますね」

 そう言うと、アデーレはリューリを軽々と抱き上げた。

「それじゃあ、また明日の朝に食堂で合流しよう。おやすみ」

 ジークとウルリヒに見送られ、リューリはローザたちの宿泊部屋へと運ばれた。

 部屋に着くと、ローザが口を開いた。

「眠いかもしれないけれど、リューリちゃんも、寝るのはお風呂に入ってからにしましょうね」

 ――たしかに、生家にいた時も入浴などロクにさせてもらえなかったし、汚れたままベッドに入るのは申し訳ないな。

 リューリも、そう考えて納得した。

「……分かった」

「では、私が手伝おう。浴室は、こっちだ」

 浴室の扉を開けて手招きするアデーレを見て、リューリは戸惑った。

「じ、自分でできるから、大丈夫だ」

「まだ小さいのに、遠慮しなくてもいいのですよ。私も手伝いますから」

 ローザも腕まくりをして、やる気満々な様子だ。

 結局、リューリは二人の手で、たっぷりと泡立てた石鹸と温かな湯で全身を念入りに洗われた。

 いつでも好きな時に湯を使えることから、この宿には湯を沸かす魔導具――魔法の力を込めた道具類――が設置してあると思われる。

 そもそも安宿(やすやど)では浴室自体がないのも普通だと聞くし、富裕層は違うなと、リューリは泡まみれになりながら思った。

 伸ばしっぱなしでボサボサだった髪も、洗って汚れを落とし、温風を出す魔導具で乾かすと、すっかり軽くなった。

「リューリちゃんの髪は、不思議な色で、すごく綺麗だな。私は、こんな赤毛だから、子供の頃はニンジンとか言われて、からかわれたものだ」

 アデーレが、リューリの髪を(くしけず)りながら言った。

「そうか? アデーレの髪も、赤い花のようで綺麗だと思うが」

 リューリが答えると、アデーレは頬を染め、嬉しそうな顔をした。

「今日は、これで我慢して頂戴(ちょうだい)ね。明日になったら、新しい服を買いに行きましょう」

 そう言って、ローザがリューリに着せた寝間着代わりのシャツは、大人用の為だぶだぶだったが、滑らかな肌触りで良い匂いがした。

 アデーレとローザが寝支度をしている間、先にベッドに入ったリューリは、その柔らかさと温かさに感動していた。

 生家では、屋根裏部屋に放置された(ほこり)まみれのガラクタの隙間で、古い毛布に(くる)まって寝ていたのだ。正に雲泥の差である。

 身体を丸めていなければ、毛布から手足がはみ出て寒い為、リューリは縮こまって寝るのが癖になっていた。しかし、ここなら身体を伸ばしても大丈夫なのだと気付いて、彼女は大きく伸びをした。

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