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13/49

露呈

「ふはは……言うに事欠いて、(たわ)けたことを。そのような御方が、このようなところに自ら出向くなど、あろう筈もない」

 ペドロは嘲笑(あざわら)いながら言うと、懐から小さな筒のようなものを取り出し、口に咥えて吹いた。

 耳障りな笛の音と共に、屋敷の奥から十人を超える数の武装した男たちが、湧き出るかの如く現れた。

「高貴な御方の名を騙る不届き者どもだ! 切り捨てよ!」

 領主の声と共に、剣を抜き放った男たちがジークたちに斬りかかる。

 しかし、次の瞬間、ばたばたと倒れ伏したのは男たちのほうだった。

 かちり、とジークが剣を鞘に納める音が響く。

「ジーク様、お一人で全員倒してしまっては、私の修行にならないではありませんか」

 剣を手にしたアデーレが、少し不満そうな口ぶりで言った。

「すまん、つい、身体が動いてしまった。それと、峰打ちだから、こ奴らは気絶しているだけだ。骨の何本かは折れているかもしれんがな」

 ジークは、叱られた子供のように首を(すく)めた。

 一方で、その様を眺めながら、リューリは驚きに固まっていた。

 ――何が起きているのか、私の目では捉えられなかった……戦いの心得があるとは言っていたが、これは、達人どころではないぞ……!

「くくく……」

 手勢を一瞬で失って絶望するかに思えたペドロの口から、笑い声が漏れる。

「気が変わった。貴様らのような『優れた個体』は、魔法の素材に打ってつけだ」

 彼は再び懐に手を入れ、拳大(こぶしだい)の球体を取り出すと、床に叩きつけた。

 破裂した球体から黒い煙が湧き上がり、その中から一抱(ひとかか)え以上の太さはあろうかという巨大な蛇が現れる。

「丸飲みなら、全身揃った状態で回収できるからな!」

 そう言い放つペドロの輪郭が大きく歪んだかと思うと、彼は魔術師風のローブをまとった小太りな男へと姿を変えた。

 ――こいつが、領主に化けていたのか! だとすれば、本物はもう……

 本物の領主は既に消されている可能性が高いと、リューリは歯噛みした。そして、彼女の中に、目の前の魔術師を許せないという気持ちが生まれた。 

 鎌首をもたげた大蛇が身を躍らせるのと同時に、その身体を稲妻のような閃光が包む。

 ウルリヒが電撃の呪文を唱えたのだ。

 衝撃で動きの鈍った大蛇に、すかさずアデーレが斬りかかり、その身体を寸断する。

「まぁ、息がぴったりですね」

 二人の鮮やかな連携を前に、ローザが微笑んだ。

「馬鹿な……ッ?! くそ、ここまでか!」

 領主に化けていた魔術師が、初めて狼狽(うろた)える様子を見せた。

 ジークたちの力を見誤っていたというところだろう。

 ――こいつ、逃げる気だ!

 リューリは、咄嗟に呪文を唱えた。

「な、何だ……転移の魔法が発動しない……?!」

 魔術師の顏が恐怖に引き()る。

 リューリが唱えたのは、一定範囲の「魔素」が動かなくなるという、魔法封じの呪文だった。

 当然、自分も魔法を使えなくなる、魔術師にとっては両刃(もろは)の剣と言える呪文だ。

「今、この一帯は『魔素』が動かない状態だ! つまり、そいつは裸同然の木偶(でく)(ぼう)だ!」

 認識阻害の呪文も解除され、姿を晒したリューリは叫んだ。

 状況を把握したジークが、素早く魔術師を組み伏せる。

「リューリちゃん……どうして、ここに?! それに、君が『魔法封じの呪文』を……?」

 リューリの姿を認めたウルリヒが、裏返った声で言った。

 ローザとアデーレも、驚きの表情を浮かべている。

 ――分かってはいたが、面倒なことになりそうだな……もっとも、こちらとしてもジークたちに聞きたいことはあるんだが。

 何と説明しようかと、リューリは考えを巡らせながら頭を掻いた。

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