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散策

 翌朝、宿で朝食を済ませたリューリたちは、街を散策することにした。

「じゃあ、リューリちゃんは俺と一緒に歩こうか」

 ジークが、リューリを軽々と抱き上げた。

「私も一緒で構わないかしら?」

「もちろんさ」

 ローザの言葉に、ジークは即座に頷いた。

「では、私とウルリヒは行きたいところがあるので、別行動を取らせていただきます」

 そう言うと、アデーレはウルリヒを引っ張るようにして出かけて行った。

「ウルリヒは、アデーレの尻に敷かれているな」

 リューリが呟くと、ジークとローザは、くすりと笑った。

「難しい言葉を知っているんだなぁ。だが、ウルリヒは大人しく見えても、やる時はやる男だよ」

「あの二人は、互いに苦手な部分を補っているのですよ」

 二人の言葉に、リューリも頷いた。

「たしかに、剣が得意なアデーレと、魔法が得意なウルリヒが揃っていれば、隙がないな」

 そんなことを言いながら、リューリたち三人も街へ出た。

 宿の周辺には観光案内所や土産物屋、遊技場などが立ち並んでいるが、やはり、ほとんどの店が閉まっており、閑散としている。

 湖を見てみようと、三人は桟橋に向かった。

 今日も、湖は晴れた空を映して青く輝いている。

 ――美しい自然だけは、人の営みなどとは無縁なのかもしれないな。

 湖面を渡ってきた風が心地よく、リューリは深呼吸した。

 桟橋の(そば)には、遊覧船への乗船受付の為の小屋が建っている。

 小屋の入り口の扉に「休業中」の札が掛かっているのを見て、ローザが呟いた。

「残念ですね。船から見れば、湖は、更に美しいでしょうに」

 桟橋の側に停泊している遊覧船の一つでは、一人の中年男が何か作業をしている。

「船には、乗れないのか?」

 リューリが声をかけると、男は振り返った。

「すまねぇな、嬢ちゃん。人が来なくて、船を出せば出すだけ赤字になっちまうのさ。放っておくと船が駄目になるから、こうして整備はしてるけどな」

 男が、溜め息をついた。

「前は、全部の船を使っても、受付に行列ができるくらいお客が来ていたんだ。それが、この有り様さ」

「こうなったのは、高い税金を取られるようになってからかね?」

 ジークが言うと、男は、一瞬ぴくりと肩を震わせた。

「そうさ。宿屋が次々に閉まって人が来なくなったから、それに頼ってた俺たちも大打撃だ。領主様は、何だか変わっちまったって、みんな言ってるよ……」

「ここの領主様は、以前から、こんな風ではなかったのか?」

「ああ、見回りと言って、よく街に姿を見せていたし、俺たちとも気軽に話してくれた。でも……そうだな、税金が上がる少し前から、俺たちの前に出てくることは、なくなったかもしれない」

 言って、男は、街を見下ろす小高い丘の上に建っている屋敷を見やった。

「あそこが領主様の屋敷さ。周りにあるのは、役人たちの宿舎だ。この街出身の役人も多いんだが、住民の中には、そいつらだけ変わらず給料をもらっていると言って良く思わない者もいる。俺も気持ちは分からなくもないが、ギスギスするのは、どうにもかなわんな」

「それは、辛いことですね……」

 ローザが言うと、男は、喋り過ぎたと思ったのか、口に手を当てた。

「見ず知らずの人たちに愚痴ってしまって、すまねぇ……普段は思ってても口に出せないことが多くてな」

 男と別れ、ジークとローザはリューリを連れて再び街に戻った。

 行き交う人々と気さくに話す様は、ジークとローザの明るい性分の現れと言えば、それまでかもしれない。

 しかし、リューリは彼らの行動が、次第に情報収集のようにも思えてきた。

 ――前にジークが話していた黒ずくめの男は、思えば、どこかの国の間諜にも見えるかもしれない。ジークたちも、諜報機関の人間なのだろうか。私を連れているのも、それを隠蔽する為だとしたら……

「リューリちゃん、どうした? 元気がなくなったみたいだが」

 考え込んでいるリューリの顔を、ジークが覗き込んだ。

「もしかして、お腹が空いているのかしら? もうすぐ正午ですものね。どこか開いている食堂を探しましょう」

 そう言って、ローザが通りすがりの住民に話しかけた。食事のできそうな店の場所を尋ねているのだろう。

 ――ジークたちが優しくしてくれるのは、上辺だけのものとは思えない。彼らが何者だとしても、私を大事にしてくれているというのは本当のことなのだ。

 リューリは、余計なことを考えるのを()めた。

 そして、宿の主人が湖で魚を獲ってくると言っていたのを思い出し、夕食の献立に思いを馳せた。

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