世界に遺す言葉
遺書を書く少女。
あなたは、世界に何を遺しますか?
5月21日 晴れ
部屋の掃除をした。
もう、失くしてしまったと思っていた人形が出てきた。
きれいにして一緒に寝る。
5月22日 曇り
図書館に本を探しに行った。
小さいころに読んだ本を見つけた。
借りて帰って一緒に読んだ。
大好きだったあの子を思い出した。
「遺書って、どういうものか知ってる?」
あなたのそんな言葉が、私の世界を変えた。
「遺書って、別に死ぬときに書くものじゃないんだよ。人間が死ぬとき、自分が伝えたかったこと、どれだけ伝えられると思う?」
自分が死ぬと分かってからのわずかな時間。
人によって長さは違う。
病気で死ぬときは?
数ヶ月はあるかもしれない。
事故で死ぬときは?
ほんの一瞬かもしれない。
「死んでしまうときは誰もみな本当の自分じゃいられない。自分が生きてる、生きられる間に書くもの。それが遺書なの」
「日記みたいなものでもいい。自分の半生を振り返ってみてもいい。どんな言葉でも、世界に遺すことができるから」
あなたは、言葉を遺すことができたの?
まだ、伝えることがあるんじゃないの?
「私? 私は…もうむりかなぁ。でも、これで十分。
私は、代わりにあなたからたくさん大切なものをもらったから。
だから、ね? そんな顔しないで」
涙は、あなたを悲しませるだけ。
そう分かっているから、今も涙をこらえてる。
ペンを走らせて言葉を遺す。
どんな言葉でもいい。
あなたの存在をこの世に遺したい。
どんな言葉でもいい。
あなたの想いを、この世に遺したい。
どんな言葉でもいい。
あなたと私の思い出を、この世に遺したい。
詩。なのでしょうかこれは。
ただ、死ぬために書く、死んだときのために書くものだけが遺書じゃないんだよ。
それだけ。