トマス村(1) ヨージ視点
どうやら私が生まれた先は、自分の希望通りの場所の様だ。
四歳になって漸く周囲の事が良く分かるようになったが、奇麗な母であるリーナ、温厚で優しいが頼りがいのある父であるピアシの元で新たな生を受け、日々楽しく過ごす事が出来ている。
この辺りはラーカを見つける事が出来た森が近く、都市と言うには寂しいと思っていたが、やはりその通りで村であり名前はトマス村だ。
「おはよう!!あっ、ヨージ君、また何か考え事してる!リーナおばさん、ヨージ君が変な顔してるよ!」
「あら、いらっしゃい。レダちゃん」
突然扉が開いて勝手な事を言っているのは前世でも経験する事な無かった存在、“幼馴染”と言う存在で隣に住んでいるレダコートと言う少女であり、気が付けばなんだかんだと私に絡んで来るのだが、いつも明るく悪い気はしない。
「レダ、おはよう。別に何も考えてないけど……僕、そんなに難しい顔していたかな?」
「うん。きっと世界について考えていたのよ。凄いね!流石はヨージ君」
彼女は何故か私を相当出来る人間だと信じ切っているようで、今も私の身の丈に合わない様な事を嬉しそうに伝えてくる。
「そんな事は無いよ。それ程大きな人間じゃないし。で、突然どうしたの?いつも通りと言えばいつも通りだけど」
「えっとね、ヨージ君って殆ど毎日森に遊びに行っているでしょ?私も一緒に行きたいなって思って……」
狩猟をしている父さんにしてみれば、私が毎日森に入って遊ぶ事に対しては正直あまり賛成していない。
危険な魔獣・獣を狩って生活しているので、森の危険性を良く知っているからだろう。
でも、浅い所しか行かないと約束している事、今の所毎日安全に帰ってきている事、父さんも仕事中に森に異常を感じていない事、更には森の浅い場所には恐らくラーカの影響か、弱い獣しか存在していない事を知っているのか、最近は何も言う事は無くなっていた。
でも、お隣さんの娘を連れて行くとなれば話は別だ。
仕事前で家にいる父さんは、予想通りの行動をとる。
「レダちゃん、森は危険だ。ヨージには危険な時の対処方法をしっかりと教えているし、実際に足も相当早いから浅い所だけは許可しているけど、他人を守る程は強くない。何かあったら、お父さんとお母さんが悲しむよ?」
優しく、そしてきちんと理由を告げて説明するのが父さんの良い所だ。
それに、今日は森には行くけど遊びには行けない。
父さんの仕事について行き、色々と教えてもらう予定だ。
「レダ、ゴメンね。僕、今日は父さんと一緒に仕事に行くんだ。僕がもっと強くなったら一緒に森に遊びに行こう」
「……約束だよ?」
何故これ程森に興味を持ったのかは分からないけど、取り敢えずは引いてくれた。
「じゃあ行こうか、ヨージ」
「うん。じゃあ行ってくるよ、母さん、レダ」
この村の住民はそう多くない。
だからこそ村なのだけれど、皆が顔見知りでレダのように気さくに話せる人ばかり。
残念な事に同年代はレダしかいないのは寂しいけれど、間もなく子供が生まれそうな人もいるし、これから発展できれば良いな……と思っている。
そんな事を思いながら父さんの後について行くと、いつも遊びに行っている方向とは異なる方向に進んで行く。
「最近はヨージが遊んでいる周辺には獲物になりそうな獣・魔獣がいないから、専らこっちに入っているんだよ」
ある程度奥に入ると、街道から外れて木々が生い茂る森の中に入る。
そこから慎重に周囲を警戒し、周囲に何か獣達の痕跡がないかを探っている様子の父さんだけれど、私の気配察知レベル6によれば少し立派な獣が間もなく見つかる予定だったりする。
父さんがどう言った力、能力を持っているのかは分からない…いや、鑑定すればわかるはずだが、何と言うか、前世で言う所のプライバシーの問題から未だラーカ以外を鑑定していない。
「これを見てごらん、ヨージ。足跡だ。大きさは……ヨージの身長位。一般的な獣だね」
流石に長年この森で狩猟をして生活をしていた父さんだけあって、足跡だけで私の気配察知で得た情報と完全に一致している結論を導き出している。
「ここからは慎重に行くよ。音、匂いを悟られると、逃げられる可能性があるからね」
黙って頷き、後ろをついて行く。
きっと私に併せてくれているのか、非常にゆっくりとした動きになっている。
やがて父さんの視界にも獣が入ったようだ。
「ヨージ、見えるかい?この距離ならこの弓で充分だ。これなら今日の仕事は安全に終える事が出来るね」
肩に担いでいた少々大き目の弓を手に取って獣に狙いをつけて矢を放つと、軽い放物線を描いて、その矢は見事に獣の目のあたりに突き刺さる。
即死の様で、騒ぐことなく倒れる鹿のような獣……お見事!