三人の行動と行方(2)
リョータが生まれて来る前に、夫婦揃って生まれる子供にリョータと言う名をつけるようにと言うお告げを受けて、どれ程立派な子供が産まれて来るのか、と、その奇跡に感動していたのだが、結果はコレだ。
だが非常に残念な事にこのリョータ、当然あの水晶から得た力によってその辺りの大人では太刀打ちできない身体能力と、魔術の能力を持っていたのだ。
鑑定によれば、四歳にしてこの才能だ。
名 前 リョータ
種 族 人族
能 力 身体強化 レベル2
操 術 レベル1
鑑定眼 レベル1
一般的には、相当な経験を積んだ人物でさえ最終的に持ち得る能力は二つ。
更に、歴史上時折現れると言われている突然変異とも言える力を持つ者でさえ能力の数は三つ程度で、その最大レベルは6程度と言われている。
もちろん全てがレベル6ではなくどれか一つの能力がレベル6であり、その他の能力は3程度までの成長しかできない経験しか積めないと言う現実があるのだが、言うまでもなくこの歴史上の人物とは、見た目炎だった創造神が送り込んだ人材だ。
最大の能力数に関して言えば、滅多にお目にかかれないダンジョンから得られた水晶によって得た力も含まれるので、そう考えると、普通の人が必死で鍛錬やら魔獣の討伐やらをしても、二つ程度の能力しか持てないという事になる。
ある程度強い冒険者でも、レベル2の能力を一つ持っている存在。
最強と言われる冒険者は、レベル3の能力を一つ持っていれば十分なのだ。
中には何も能力を持てない存在も多数いるそんな世界で、僅か四歳にしてこの能力値。
もちろん、伯爵家と言う貴族である為に生後直後に鑑定が掛けられており、長男とは異なってその時点でこの能力値だったのだから、お告げによる天の恵みと当時の夫婦は手放しで喜んでいた。
今思えば、逆にこれ程の才能を持つ者が暴れ馬であった場合、制御が非常に難しくなると言う事に気が付くべきだったのだが、生後から長男と同じように教育しても、話せるようになった瞬間にあのような横柄な態度だったので、対処できなかったのが現実だ。
最早手の打ちようがないと考えたライド公爵は、リョータを切り捨てるほかないと判断した。所謂廃嫡だ。
こうすれば、リョータが何かをしでかしたとしても一切ライド公爵家には関係ないと言う事が出来るのだが、実際に交流を断絶しなければならない。
しかしライド侯爵としても、その妻としても、最早疫病神でしかないリョータと今生の別れになろうとも安堵こそすれ、悲しむ事は無かったのだ。
「リョータよ、お前の言動は目に余る。それ程自ら自由な生活を望むのであれば、勝手にするが良い。ただし、お前はその時点で公爵家の人間ではない。もちろんこの領地からも出て行ってもらおう」
「望むところだ、クソオヤジ。テメーの世話なんぞになる訳ねーだろ。こんな腐れ領地も出て行ってやるよ。あばよ!」
四歳児がこのような事を言うのだから、改めて疫病神を切る事が出来たと安堵するライド公爵だ。
「ハン、デカイ面しやがって。この俺様がカス共の言う事を聞く訳ねーだろうが。あんな机に座って黙ってお勉強!ケッ、反吐がでるぜ!」
豪華な服に立派な剣……だが、見た目は四歳の少年が、このような暴言を吐きつつもライド公爵領の門に向かってスタスタ歩いている。
もう既に暴君として有名になっているリョータに対して、絡むような人材はこの町には存在していなかった。
「おい、俺はもう帰ってこねーからな。こんな田舎で精々引きこもって萎れた生活でもしていろよ」
門番に対してもこの暴言。
実際はこのライド公爵領の領主が住んでいるこの町は相当栄えているのだが、全てが気に入らないリョータにとっては否定的な言葉しか出てこない。
一方藪の蛇を突くような事はせず、黙ってリョータを見送る門番。
姿が見えなくなってもその姿勢を崩す事はなく、数時間後に漸く互いに口を開いた。
「ふぅ~、漸く疫病神がいなくなったか」
「ライド公爵も手の打ちようがないのだろうな。だが、これでこの町は更に平和になる事は間違いない。二度と戻ってこない事を祈るだけだ」
身体強化によって地獄耳になっているリョータに、万が一にも聞かれないようにするためにここまで長い時間黙っていたのだ。
そんな事まで言われているとは思わないリョータ。
街道を進むのだが、子供が分不相応な服を着て単独で歩いているのだから、夜も更けて来ると当然盗賊に狙われる。
実はリョータ、いくら身体強化のレベルが2であったとしても、敵側に同レベルの人物がいればその時点で経験の差でアウトだと理解している。
自分自身の命に関する事なので、この程度は知識として知っているリョータはその能力を活かして木の上で一晩を過ごす事にしていた。
実はこのレベル2、本来はレベル1のはずがヨージから奪った能力が加算されたためにこうなっているのであって、自分の努力で手に入れた物ではないのだが、当人としてはそんな事はどうでも良く、警戒心だけは相当強いので夜を過ごすにあたって、魔獣とは言えない、普通の獣レベルの小動物を操術レベル1で強制的に隷属させ、警戒に当たらせている程の用心深さだ。