トマス村での一泊
リョータの暴言を聞きながらも反対側の窓を開けて近くの騎士にそっと耳打ちするミホと、その言葉を聞いて先導する村長の元に馬から降りて小走りで向かい、この集団から少し引き離すように先を急がせて何かを話している騎士。
「村長、あのリョータ殿は相当な力を持っているので、正直我ら騎士が完全に抑えきることはできない。今回ダンジョンの探索と言う有り得ない程の戦闘力が必要な任務である為に同行頂いているが、機嫌を悪くさせるのは互いに得策ではない。故に、リョータ殿に対応できる人材、4歳近辺の村民を夕食に同席させてくれ」
本心としてリョータの相手を同年代の人材にしてもらいたいと言う意図もあったのだが、裏の任務である四人目の突然変異を再度調査する名目もある為に年齢を指定して集合させることにしていた。
騎士でも抑えきれないなど、この短時間で普通経験する事のない様な事を聞かされて自分の許容を大きく超えてしまったジョブルは、言われたままに4歳……レダコートとヨージに対して自らの家に来るようにと近くの村民に伝言を依頼した。
今の時点で二人はラーカと遊びに森に入っているのだが、村長の焦りようと豪華な馬車を見た村民によって連絡が両親に行き、そこからヨージの父であるピアシが森に入って二人を連れ戻した。
「どうやら王都からダンジョン攻略を命じられた一行が来ているみたいだよ。何でも幼い面々は見かけ以上に相当な力が有るみたいで、その三人と同じ年齢のレダちゃんとヨージが同席した方が良いと騎士からお達しがあったらしい」
ピアシの説明に、ダンジョンだの王都だの言われてもピンとこない年相応のレダと、相当な力が有る幼い三人と聞いてよからぬ方向に行かないように気をつけないとならないと思っているヨージは、そのままジョブルの家に向かう。
歓待時の宿としても使う事になっている村長の家は他の家よりも一際大きいので、中に入って廊下を進むと……
「本当に使えねーな!俺は言っただろうが、新鮮な飯を持って来いってな!」
この無駄に大きい声はリョータの声なのだが、残念な事にあの空間で頭に響いた声なのかは判別が付けられないヨージは、相当面倒くさい相手なのだろうと改めて気を引き締めつつピアシの後に続き、未だにザワザワしている一室の扉を潜る。
「だから何度も言わせんな!わからね……」
相変わらず一人騒いでいるリョータだが、ピアシと共に入室してきたヨージの後、最後に入ってきたレダコートを見て突然黙り込む。
何が起きたかわからない様な表情をしているのは周囲の騎士だけではなくミホやキョーコも同じようで、一人騒いでいたリョータを半ば無視して食べていた食事の手を止めてしまう程だ。
ほぼ全員の視線が入室してきた三人に向けられたので、一応最も年配であるピアシが鑑定されても受け入れる状態に移行しつつ各自の紹介をした。
「……最後に、こちらがレダコートです。年齢はヨージと同じく4歳になります。宜しくお願いします」
その言葉を聞き、この三人の中では唯一鑑定が出来るリョータはレダコートを即座に鑑定して何も力がない事を把握し、その後はピアシも同様に鑑定するのだが、こちらは身体強化レベル2を持っているが未だリョータの鑑定眼はレベル1である為に何も鑑定できず、最後に勝手にレダコートの兄か弟だと思っているヨージを鑑定し、こちらも何も能力なしだと判断する。
つまりこの場の脅威はピアシだけなのだが、どう考えても召喚者である自分より強者がこんな田舎にいる訳がないと言う確信めいた思いから、強気の態度は崩さない。
「そうか、わかったぜ。レダコートと言ったか?お前、ちょっと俺の横に来いよ!」
4歳ながらも日本の記憶があるリョータは、幼いこの時から自分好みに仕上げてやろうと下種な考えを持って本能のまま行動するのだが、残された突然変異と呼ばれている二人、ミホとキョーコはリョータの態度からやはり目の前のレダコートとヨージは驚異的な存在ではない、即ち自分達と同じ召喚者ではないと判断した。
一応同年代の人物がいた場合には鑑定眼を使って自分がどれほど優れた人物なのかを知っておく方が良いと言うミホから有り得ないアドバイスを受けていたリョータは、二人を絶対に鑑定していると判断し、その結果横柄な態度を変えていない事からそう判断したのだが……少しだけ気になる事があったので、動揺しているレダコート等一切視線に入れずにコソコソと話している。
「でもミホ、私ちょっと気になる事がありまして……」
「わかる!あの名前だよね?私達と同じで、日本でも通じそうじゃん?」
ピアシやレダコートと言う名前は日本では中々聞かないだが、自分達と同じく日本からの召喚者であればヨージと言う名前は日本でも良く聞くので疑いを捨てきれない。
ヨージはこの二人の会話をしっかりと補足しており、まさか自分の名前から召喚者であると疑われるとは油断していたと思ったのだが、炎の影響が多分に有っても今尊敬できる両親からつけてもらった大切な名前なので、逆に隠すような事をせずに行けば良いと開き直る。
そして周囲を見ると、未だに呼ばれたのに動かないレダコートに業を煮やしたのかリョータがツカツカと自分達、目的はレダコートだがこちらに近づいて来るので、守ろうと移動し始めたピアシをさりげなく制して、敢えてレダの手を繋いでリョータの元に向かう事にした。
突然動き始めたレダコートとおまけを見て動きを止めたリョータは、その行く先を確認すると自分の席があった場所だったので踵を返して戻って行くのだが、自分の想像通りの配列になっていない事に再び不満をあらわにする。
「おい、お前……ヨージと言ったか?お前は邪魔だ。さっさと帰って良いぞ?」
リョータとレダコートの間に敢えて入るように座っているヨージが邪魔で仕方がないリョータはのらりくらり躱すヨージがいい加減邪魔になっており、未だに直接的にレダコートと話す事が出来ずに相当鬱憤が溜まっていたので、その様子を見ているミホとキョーコもこの場で暴れ出しかねない事に危険を感じていた。
「ちょっと、あのままだと暴れかねないのではないかしら?」
「本当、面倒くさい。勘弁してほしいじゃん?」