行商人へ納品(2) 第三者視点
夜に森で修練をしているヨージは、レダを救出に向かった際に最も重要な気配察知を使えない状況に陥ってしまった事を反省して、対策している。
こんな日々を続けていると、ある日行商人がトマス村に到着する。
「おや?今日はいつもと雰囲気が違いますね?何かありましたか?ジョブル村長」
「おっ、流石はカクアさん。良く分かっている。実は今回王都向けへの出荷品がいつもとは違うんだよね~」
嬉しそうに言っているのは、このトマス村の村長であるジョブル。
彼が村長になってから、いや、この村始まって以来の大物である大熊獣の素材を出荷するのだからこうなるのも仕方がない。
笑顔の村人が台車に乗せた素材をジョブルの前に運び込むと、今まで見た事の無い様な素材を見て慎重に鑑定するカクア。
彼は鑑定眼レベル1を持っており、その力を持って商人をしているのだ。
レベル1でも素材となった元が何であったのか程度は分かる。
「えっ?大熊獣……破壊級じゃないですかぁ~~~~!!」
取り乱すカクアを見て、自分達もこんな感じだったなと微笑んでいる村人達。
その後暫くしてようやく落ち着くカクア。
「どうやってこれ程の大物を?って、いいえ、それは聞くべき事じゃないですね。被害は大丈夫ですか?あっ、でも街道が安全かどうかだけは教えて下さい!」
「ハハハ、大丈夫だよ、カクアさん。被害もないし街道の安全も確認している。偶然この一体だけ見つける事が出来たんだよ。で、買い取ってくれるんだよね?」
「も、もちろんです!!喜んで買い取らせて頂きます。破壊級と言えば、場合によっては騎士団が出てくるレベルですよ!そんな素材を扱えるなんて、商人としてこれ以上嬉しい事はありませんから!」
ホクホク顔のカクアは慎重に全ての素材を鑑定して大熊獣の物であるかを確認すると、自分の荷馬車に積み込む。
「今回はどうしますか?直接現金となると……まさかの大熊獣ですから、持ち合わせがあまりないのですよ。必要な物を王都で揃えて、次回に持ち込みますか?」
「そうだな。いくつか持ち込んでくれている物で欲しい物があるし、王都で買ってきてほしい物もある。それと、今後脅威に対抗するため防壁を強化したいから、建築の依頼を出してほしいんだ」
こうして行商人であるカクアによって、大熊獣の素材はミラ王国の王都に持ち込まれる事になる。
その王都には、ヨージと同じく異世界から転生したライド伯爵次男であったリョータ、トネル伯爵長女のミホ、王都ギルドマスターの長女であるキョーコがいる。
大熊獣を含む脅威とされている魔獣は、漏れなく貴重な素材で重宝されている為、その出所について調査が入る可能性は高い。
それも、極上の状態での納品であれば猶更だ。
最低でもギルドに販売する必要があるので、ギルドマスター、そしてその長女である異世界人のキョーコには情報が入ってしまう事だけは間違いないだろう。
この時も、ヨージとレダは相変わらず森でラーカと遊んでいる。
今後どのような騒動が巻き起こるのかなど、知る由もない。