トマス村(4)
普通の人であれば実績を示せば直ぐに信用してくれる事を長年の経験で知っているので、ここぞとばかりに主張してみる。
「……確かにそうだね。残された時間は少なそうだ。じゃあ頼めるかい?」
納得してくれたようなので、早速呼ぼう。
ラーカは、一応人目を避けておく必要があると思っているので、私が呼ぶまでは姿を隠すように言い含めている。
「任せてよ!ラーカ!!」
……バサバサバサ……
直ぐに羽音が大きくなり上空から見慣れた黒い鳥がやって来るのだが、その足には幼い少女を優しく抱えていた。
「ラーカ、良くやった。レダ!大丈夫?」
「ヨージ君!ヨージ君!!」
やはりラーカは相当賢い。
私が以前話した事のあるレダを覚えており、きっと破壊級の魔獣から守ってくれていたに違いない。
今までラーカの影響でこの周辺に強い魔獣は現れる事はなかったのだが、休憩している時などの威圧を行っていない状況で魔獣が現れ、その最中にラーカがレダを発見してしまった事でレダを守る事だけに力を使い、周囲への威圧が弱まっている為に継続して破壊級の魔獣が暴走し続けていると言う事になった可能性が高いと思っている。
レダを気遣うようにゆっくりと慎重に着地するラーカ。
「こ……これは、確かに懐いているように見えるけど。まさか、黒炎鳥?」
「あ、流石は父さん。そう、黒炎鳥って言うらしいんだ」
私と同じ身長のレダが泣きながら抱き着いているまま答えているけど……お爺ちゃんの記憶がある私だが、今は四歳だから事案にはならないはず。
目の前には私達と同じ大きさのラーカが、頭を少し下げた状態で私に向けて突き出して来る。
この行動は、褒めて!撫でて!と言う事なので、十分に誉めつつ撫でてやる。
「ヨージの言う事は本当みたいだね。これ程とは……でも、本当に黒炎鳥ならば確か基本は厄災級だったはず。あまりこの事は周囲に漏らさない方が良いかもしれない」
そんな事を呟いている父さんだが、この時でも破壊級の魔獣による騒音は加速度的に大きくなっており、かなりの勢いで近づいている事が分かる。
そこに反応できない程、目の前のラーカに意識を持って行かれているようだ。
「ラーカ、お願いできる?」
可愛らしく首を縦に振り、再び羽音と共に上空に舞って消えて行くラーカ。
……ズ、ズズン……
今迄の騒音とは比較にならない位の大きな地響きがした後に、森は静寂に包まれる。
…バサ…バサ…バサバサ…
徐々に羽音が大きくなり、ラーカとその足に捕まれている相当大きな魔獣が視認できるくらいまで近づいてきているのが分かる。
あれが破壊級の魔獣か……どう見てもラーカの10倍以上はありそうな大きさだ。
「あれは……大熊獣。確かに破壊級だね。それをあんなに軽々と…」
…ドン…
レダとは違って敵である上に既に息絶えている大熊獣を丁寧に扱うつもりが一切ないラーカは、少々乱暴に地面に大熊獣を下ろす。
そして再び、頭を私の方に向けて下げるのだ。
「よしよし、流石はラーカだ!」
こうしてやらないと何故か少し表情が悲しそうになるので、常に褒めちぎる位が丁度良いと知っている私は、孫に接するように甘やかしている。
「これは受け入れる他ないだろうね。どう見ても黒炎鳥、そしてヨージは完全に制御できている。それを踏まえて、二つ。一つ目は、レダちゃん。君にもお願いだけど、このラーカの事は絶対に誰にも言ってはいけない!」
珍しく命令調になっている父さんの言葉を重く感じ取ったのか、レダは神妙な面持ちで頷く。
「ヨージには態々念を押す必要はないよね?父さんにまで秘密にしていた程だから」
「ご、ごめんなさい」
レダと父さんがやり取りしていたので、突然振られるとは…ちょっと油断していた。
「でも、正しい判断だよ。母さんにもこの話はしちゃいけない。それと二つ目。この大熊獣……頭が無いけど、相当高価で買い取ってもらえる。毛皮、肉、内蔵、正直に言うと首から上が最も高価だけど、捨てる所がない魔獣と言われている。でも、このまま持ち運ぶことはできないし、どうやって倒したのかを聞かれるのもまずい」
ラーカの力が公になれば自国内の王侯貴族の手足になるように強制される可能性、更には他国との戦争時の先兵にされる可能性もあると父さんは教えてくれる。
確かに納得できる内容ではあるので今まで通りに秘匿する事に異論はないが、この大熊獣を放置するのは父さんの話を聞いては非常にもったいないと言う気持ちが捨てきれない。
今後自分の力も含めてどう行動するのが正しいのか……しっかりと考えていかないといけないな。
でも、父さんやレダ、村も無事でよかった!
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