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隠蔽物調査隊 殺月魔姫の記録ノート  作者: 龍々
記録2:海より出づるは
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第8話:繋がり

 黄泉川さんと共に謎の街を見て周っていた自分だが、この場所が一体どこなのかは何一つ分からなかった。尾行を続けていた緑色の子供も何か仕掛けてくるという訳でもなく、ただ黄泉川さんを陰から観察しているだけのように見えた。地面に伸びているロープを引っ張って妨害するなどもしようとしない。

 やがて黄泉川さんがこの場所に来た時に立っていた位置へと戻ってきたことで、一度能力を解除して彼女と合流することにした。


「黄泉川さん」

「ん、どうだった?」

「あの子供、やっぱりずっと物陰から見てるだけでした」

「ん。それ以外には何か気になるところはあったりした?」


 何もかもが謎であるため気になるところだらけだが、一番気になるのはあまりにも人けが無さすぎるところだろう。これだけの建造物が存在しているというのに、今のところあの緑色の子供以外には生物らしきものを見ていない。人間だけではなく、それ以外の生物も全く見当たらないのだ。


「アタシ達以外にあの子供しか居ないのが気になります」

「私も同意見。誰も居ないなら説明がつけられるけど、逆に一人だけ居るっていうのは怪しい」


 現代になって過去に発生した集団失踪事件の真相が少しずつ解明された。単にどこかに移動しただけだった事もあれば、偶然発生したポータルに巻き込まれて人間だけがいなくなった事もある。中には『ゾーン』という危険な存在によって消滅させられたといった事例もあるらしい。だが今のように一人だけ残っているというのはほとんど事例に無いと聞いたことがある。


「それに私達が見たあの子供が本当にあの話に出てくる子供なんだとしたら、宇宙人の方が見当たらない」

「同じ存在なんですかね? 子供と宇宙人って……」


 その時、突然サイレンのような音が響き始めた。どこか重たく空気に轟くような音であり、体の芯にまで響いてくるのを感じた。

 周囲を見渡してみても、どこからその音が響いてきているのかも分からず、先程までこちらを覗き見ていた筈の緑色の子供も姿を暗ましていた。


「……何かまずそうだね」

「ど、どうします?」

「……一旦、簸子に合図を送って帰ってから――」


 そう言いながら腰から伸びているロープを引こうとした黄泉川さんは、その言葉を途中で飲み込んだ。彼女の視線はロープが伸びている後方へと向けられている。何故黙ってしまったのかと振り向いた先に居たのは、昔のオカルト番組に出ていたような宇宙人によく似た人型の生命体だった。

 その存在は自分達人間と同じような普通の服を着ているのだが、肌の色は薄いグレーを思わせる色合いであり、大きな頭部と眼球を持っている。昔よく言われていたグレイタイプの宇宙人に服を着せたような見た目をしていた。


「……魔姫」

「……」


 黄泉川さんは恐らくアタシの能力で上手く助けを呼べないかと聞こうとしているのだろう。自分が持っている認識から外れる能力であれば、きっとこの宇宙人の認識すらも騙すことが出来る。その間にロープを引っ張って合図を送って欲しいということなのかもしれない。

 呼吸のペースを遅くし、少しずつ呼吸を浅くしていく。すると上手く作用したらしく、宇宙人は動揺しているような反応を見せた。どうやらこの相手にも問題無く効くようだ。


「葦舟、早く……!」


 宇宙人が動揺している内に黄泉川さんが腰に括っているロープを引っ張り、葦舟や三瀬川さんへと合図を送る。するとちゃんとロープの動きが伝わっていたらしく、空間の歪みから伸びているロープがピンと張られ、黄泉川さんの体が動き始めた。それに合わせて彼女自身も歪みへ向けて歩き始める。


「~~~~!」

「勝手に邪魔して悪いけど、帰らせてもらうから」


 何か聞いたこともない言語を喋る宇宙人に対し、黄泉川さんは歪みに向けて飛び込むようにして地面を蹴った。そんな彼女に続くようにして自分も地面を蹴り、黄泉川さんに抱きつくようにして歪みの向こう側へと飛び込んでいった。

 ふと気がつくと自分達は砂浜に座り込んでおり、葦舟と三瀬川さんは今こちらに気がついたといった様子で駆け寄ってきた。三瀬川さんはそこで何故か地面に落ちていたスマホを拾う。


「だ、大丈夫!?」

「ん、私は平気」

「ア、アタシも平気です……」

「ぶちヤバかったんですよ!」


 何やら慌てている葦舟曰く、自分達が向こうに行ってしばらく経ってから奇妙な事が起こっていたのだという。ポータルの入り口となっていたスマホの画面から突如としてお経のようなものが聞こえてきたらしい。少なくとも二人には聞いたことが無いものであり、あの怪談内でもお経のような声について触れられていたそうだ。


「アタシ達の方ではそんなの聞こえなかった……途中でサイレンみたいなのは鳴り始めたけど」

「サイレン? こっちだと聞こえなかったなぁ……」

「……ねぇ賽。そのお経みたいなのが聞こえただけ? 緑色の子供とかそういうのは来なかった?」

「う、うん。その声だけだったよ」

「じゃあこっちには居なかったってことか……」

「もしかして縁ちゃん……」

「ん。見たんだよ」


 黄泉川さんによってあの街で見たものが語られる。一番間近で見たのは自分だったため、緑色の子供についてはなるべく詳細に伝えたが、やはりこちら側に居た二人はそれを見たりはしなったようだった。そして帰り際に見ることになったあの宇宙人も、見たのは自分達二人だけだったらしい。

 話を聞いていた葦舟が口を開く。


「その宇宙人さんって、何か言うとりました?」

「帰る時に何か言ってたのは聞いたわ。何て言ってたかは知らないけど」

「うーん……お姉さんちょっとどんな感じじゃったかやってみてください」

「ハァ? そんなの急に言われたって……」


 あの時は相手が何をしてくるのかも分かっていなかったこともあり、とにかく逃げる事しか考えていなかった。何らかの言語を喋っているというのは理解出来たが、どんな音だったかまではあまり意識が向けられなかったのだ。

 しかしどうやら黄泉川さんはしっかりと聞いていたらしく、私の代わりにその時の声の真似をしてくれた。その真似はかなり自分の聞いたものに似ており、そこで見せてもらうことで初めて記憶の中の音がはっきりしてきた。恐らく今であれば自分でも真似が出来るだろう。


「あっそれ! やっぱりあれですよ!」

「簸子ちゃん、どうしたの?」

「賽お姉さんとさっき一緒に聞いたあのお経ですよ! あん中に同じフレーズがあったんです!」

「ちょっと待って。じゃああの宇宙人みたいな奴は、葦舟と三瀬川さん達が聞いてたものと同じものを口に出してたってこと?」


 自分が聞かされた怪談の内容によると、お経のようなものを声に出していたのは緑色の子供だった筈である。宇宙人は倒れている徳井という人物の名前を呼んだりはしていたようだが、それらがお経らしきものを発していたとは語られていなかった記憶がある。


「三瀬川さん、あの怪談でお経を発してたのって子供の方だけでしたよね……?」

「う、うん。実際どうなのかは分からないけど、少なくとも書き込みにはそう書いてあるね」


 三瀬川さんは何か考え事をしているのか、こちらの質問に答えつつもどこか別の事を思案しているような表情をしていた。


「……簸子。私とあなたが聞いたものが同じだと仮定して、あれが何を意味する言葉なのかは分かる?」

「流石にそれはウチにも分かりませんよ……。あ、でもちょっと気になる事はありますね」

「気になる事?」

「はい。もしかしたらウチの気のせいかもしれんのんですけど、あのお経が聞こえとる間、ポータルが繋がりにくぅなっとった気がするんですよ」


 葦舟によると、それが聞こえている最中はポータルの接続が不安定になっていたのだという。完全に接続が途切れるといったことは無かったものの、もしもがあると怖いと感じた葦舟によって仮のポータルが開かれ、自分達はそこを通ってこちらに帰ってきたらしい。

 帰還用のポータルは三瀬川さんのスマホによって作り出されたものらしく、自分達が帰ってきた場所の砂の上に置かれていたのはそれが理由だったようだ。


「もし妨害されとるんじゃったら近くに置いといたら危ないかなぁ思うて、そこに置いてもろうたんです」

「簸子はポータルを妨害するためにあの声が発されてたって考えてるの?」

「絶対にそうとは言い切れませんけど……でも急に不安定になるんはおかしいというか……」


 もし葦舟の考えが正しいのであれば、あの街に人けが無かったのも納得がいくかもしれない。自分達があの場所に侵入した事がバレてしまい、こちらを帰さないようにするために人員が出張っていた可能性がある。しかし全員が居なくなっていたという訳ではなく、あの子供のような残っている個体も居たということなのではないだろうか。

 そんなことを考えていると、三瀬川さんが口を開いた。


「あの……少しいいかな?」

「ん。何?」

「実は縁ちゃん達から聞いた、その宇宙人の事でちょっと気になってる部分があって……」


 三瀬川さんによると、以前彼女は身元不明の少女の記憶を見て欲しいと頼まれてJSCCOへと出向いた事があるらしい。その事件は姉ちゃんが担当したものらしいのだが、その際に三瀬川さんが呼ばれて実際に記憶を見たのだそうだ。


「覚えてるよね縁ちゃん?」

「ん……結局、あの子が何者なのかは分からないままだったけどね」

「あの、それが何か関係しとるってことですか?」

「確証は無いんだけど……菖蒲ちゃんや命ちゃんが見たっていうもののことが引っ掛かってて」


 どうやら姉ちゃんと相棒であるアイツは、その事件の調査の際に奇妙存在と遭遇していたらしい。体は人間と同じような大きさをしているのだが、頭部だけが異常に肥大化しており何か唸り声のようなものを発していたそうだ。その話を聞いた三瀬川さんは、まるで小さい頃にテレビで見た宇宙人そっくりだと感じたらしい。


「菖蒲ちゃん達が遭遇したのは、鹿児島にある、とある道路沿いの林だったみたいなの。だから関係は無いのかもしれないけど……」

「宇宙人みたいな見た目……そこだけは似てるかもね。私も菖蒲から聞いただけだから、どんな見た目なのかは実際は知らないけど」


 陸地と海では何もかもが違う。しかしどちらもポータルを通してでなければ辿り着けない場所という部分が共通している。もしも、どちらも共通の存在だと仮定した場合、あの宇宙人らしき生命体は各地に拠点のようなものを作って暮らしているということになる。その目的が何なのかまでは分からないが。


「よう分かりませんけど、その人調べたら何か分かりませんかね?」

「正直、もう一回見たところで見える記憶の内容自体にそこまで違いは無いと思うの。ただ……」

「私達から見ても、あの子は普通じゃなかった。あんな人間は……多分今でも前例が無いと思う」

「前例が無いって……」


 二人の表情を見るにその少女関連で何かとんでもない事が起こったのは間違いないらしい。本来であれば口を挟まない事だが、二人を手伝うと言った以上は一緒について行って調べてみるべきだろう。私達の調査を手伝ってもらう事になっているのだから、ここで外れるというのは筋が通らない。


「あの、調べてみるだけ調べてみませんか? 姉ちゃんの……あの人の妹としても少し気になるので」

「ん。命のことだから、どうせ今でも何も分からなくてモヤモヤしてるだろうし、調べてもいいと思う」

「……そうだね。ただ、危なくなったら絶対に自分達のことを優先してね? それだけは守って」

「はい」

「はい! あ、戻るんじゃったらさっき作った画像消しときますね。逆探知でこっち来られたら怖いんで」


 こうして須磨海岸でかつて起こったとされている奇妙な事件についての新たな手掛かりを手に入れた自分達は、一度JSCCOの本部へと出向くことになった。

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