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隠蔽物調査隊 殺月魔姫の記録ノート  作者: 龍々
記録2:海より出づるは
6/12

第6話:水面に映るのは

 三瀬川さん達と共に須磨海岸で起こったとされる事件の調査を始めた自分と葦舟は、ネット上の書き込みにあったという須磨海岸近くのバス停へと訪れていた。三瀬川さん達は該当するであろうバス停は二つあると語っていたのだが、その二つはそこまで離れていない位置にあり、正直どちらでも当てはまりそうな感じがあった。


「海岸の方に降りるバス停の近くの道……ここからさっきのバス停までの間かな」

「ん。そのどこかで書き込み主は暴走族に因縁をつけられたって話」


どうやら暴走族が止めていたバイクに自転車を擦ったらしく、それで因縁をつけられて一連の事件が起こったようだ。しかし周囲を見てみると住宅が多く並んでいる場所であり、こんな場所で事件を起こせば間違いなく誰かが異変に気がつくであろう立地だった。


「変じゃありませんか? こんなとこで何かあったら誰か気づきそうですけど」

「ん。だから、多分最初に因縁をつけられたのはあそこだと思う」


 そう言って黄泉川さんが指差したのは稲場町バス停から須磨水族園バス停へと続く道の途中にある、少し下り坂になっている部分だった。そこだけ一時的に道路が下っているため、周囲の住宅からは見えにくい位置になっているのだ。この位置なら暴走族も目立ちにくく、なおかつ歩道が無いため自転車がバイクに擦ってしまうという状態になってもおかしくない。


「確かにあそこなら目立ちにくいからありえそうだね」

「そこから書き込み主の知り合いの一人の徳井が最初の被害を受けた」


 その徳井という人物は自転車に乗ったまま暴走族のバイクに引っ張られて走り出したという。やがてその自転車は途中で横転し、道路の中央分離帯に足をぶつけて負傷したという話らしい。試しに自分達も下って行ってみると、中央分離帯が存在している道路があり、この部分は間違いなく実際に起こってもおかしくはない話だった。


「正確な位置は分からないけど、多分この辺りで三人は暴行を受けた」

「ウチ思うたんですけど、ここでそうなことやったら目立ちませんか?」

「正確な時間が分かればその辺りも検証出来そうなんだけどね」

「別におかしくないでしょ」


 かつて自分はイジメを受けていた。イジメというのは必ずしも大人の目に触れない場所で行われるとは限らない。大衆の面前で行われることもあるのだ。以前自分をイジメていたあの連中もそうだった。自分の場合は能力の影響で正しくそれが問題視されなかっただけで、本物のクズというのはそういった他人の目などお構いなしにやる。


「こういうとこでやる連中だったってだけでしょ」

「ほうですかねぇ……」

「……魔姫の言う通りだよ。やる連中はやるよ」

「縁ちゃん……」

「……続けるよ。暴行を受けた三人だけど、やがてそいつらは居なくなった。それから10分後にくだんの奴らが出てきた」


 暴行を受けた三人はそれぞれ動くことが出来ずに倒れていたそうなのだが、やがて須磨海岸の方からゴツッと音がし、お経のようなものが聞こえだしたのだという。すると暗い中を全身緑色の子供が走ってきたらしい。


「緑色の子供……」

「お経みたいなのを喋ってたのはこの子供じゃないかって書かれてる。実際はどうなのか知らないけど」

「お姉さん、ウチら人間って肌が緑色になったりするんですかね?」

「何でアタシに聞くの……。分からないけど、何かの病気とかならなるんじゃない?」


 特別詳しいという訳ではないが、病気の中には肌の色が変化するようなものもあると聞いたことがある。この緑色というのもどのレベルなのか分からないため何とも言えない。暗い夜に見たからそう見えただけで、実際はそこまで緑色ではなかった可能性やそもそも光の反射や動揺した脳が生み出した錯覚の可能性もある。本当に緑色なのかは疑ってかかるべきではないだろうか。


「一応、外国の話だけど緑色の肌をした子供のお話はあるみたいだね」

「そうなんですか?」

「うん。グリーンチャイルドって言って、緑色の肌をしてて聞いたこともない言葉を話す姉弟が見つかったことがあるの」

「賽、あれは今でも確証が無い。12世紀頃の話なんだからいくらでも捏造出来るよ」


 どうやらそのグリーンチャイルドという話は、今の時代でもそれが事実だったのかどうか分かっていないのだという。どんな科学技術や超常技術を使っても遠い昔へのタイムスリップは成功していないため、この話が事実なのかどうか、仮に実在したとしてトリックなのか本当に超常存在なのかは分かっていないそうだ。


「緑色の子供も調べないといけないけど、この話にはまだ奇妙なことが残ってる」


 黄泉川さんが件の怪談の続きを語る。

 緑色の子供が現れたことでパニックを起こした三人だったが、書き込み主は道路の向こうにある街灯の下に宇宙人のような顔をした人間が沢山居たのだという。その宇宙人達は叫びながら徳井の下へと近寄り、泣きながら彼の下の名前を叫んだらしい。その状況から書き込み主ともう一人はその場から逃げ出し、翌日に徳井は亡くなった。


「宇宙人の実在はまだ確認されてない。だけど、私達も地球に住んでる知的生命体と考えれば存在自体はしててもおかしくない」

「問題はどうして宇宙人が居たのか、どうしてその徳井っていう人の名前を知ってたかだよね」

「あの、それってホントに宇宙人だったんですか?」

「見間違いの可能性もある。頭を強く打っておかしくなってたら幻覚の一つでも見るかもしれないし」


 この時点でもかなり異質な話だが、黄泉川さんによるとこの後が一番彼女達が気になっている部分なのだそうだ。

 書き込み主は自身を北条と名乗っているそうなのだが、彼は何故か海の家に対して酷く恐怖心を抱いている様子なのだという。夜になると徳井も宇宙人も須磨海岸に現れ、海の家の壁の間から子供が見ていると語っているのだそうだ。そして奇妙なことに宇宙人に対しては恐怖心というよりも、やや好意的な発言をしているらしい。


「この話が本当なら、徳井は霊的な存在になってこっちの世界に留まった可能性が高い。それに緑色の子供と宇宙人が関わってるのかも」

「黄泉川さん、あの……無学で悪いんですけど、死後の世界ってホントにあるんですか?」

「あれ? 魔姫ちゃん学校でやってない?」

「いえ、話には聞いてるんですけど、いまいち実感が無いというか……」

「私達の場合はだけど、私と賽は少なくとも閻魔の存在は確認してる」


 詳しくは話してもらえなかったが、どうやら黄泉川さんと三瀬川さんはかつてある事件を調査している最中に閻魔と対話したことがあるらしい。この二人が嘘をつくとは考えにくく、真面目な顔をして話していることから真実なのだろうと本能的に感じる。つまり自分が想像しているものと同じかは分からないが、死後の世界自体は間違いなく存在しているようだ。


「でもこんなコトサマがいるなんて聞いたことがなくって……」

「だから作り話なんじゃないかって思ってる。『宇宙人が海から来るのも納得』とか意味分からないし」

「うん? 宇宙人さんは海から来よるって書いとったんですか?」

「そういう訳じゃないけど、この北条とかいう奴はそう考えてるみたい」

「うーん……」


 葦舟は何か引っ掛かっているらしく唸っていたが、それ以上はこれといった意見を出すことはなかった。しかしその何かがどうしても気になるのか、スマホを取り出して何かを調べ始めていた。

 このまま道路の方に居ても分からないと考えた自分達は、いよいよ海の家があるという須磨海岸の方へと向かった。かなり広い海水浴場であり、シーズンの時には大勢の人で賑わうのだろうと自分でも分かる程の場所だった。そして書かれていた通り海の家も実在しており、恐らくこの辺りの壁から子供が見ているというのだろう。


「賽、どう?」

「……霊魂の類は無いね。幽霊とかになってるならこの辺りに居る筈なんだけど……」

「あの……徳井って人は亡くなったって話なんですよね? ならここで目撃されたのが事実なら居ないとおかしいってことですよね?」

「ん……状況による」

「状況?」

「確かに肉体が死亡すると魂は体から離れていく。それでどこにも行き場が無いと地縛霊になったり、酷い場合には悪霊になったりする。でもきちんと供養されたら話は別」

「成仏するということですか?」

「それが正しい表現なのかは分からないけどね。少なくとも賽には知覚出来なくなる」


 黄泉川さんの話によると、成仏するかどうかは完全に個人差があるらしい。人によっては未練があるせいで成仏出来ずにこの世に留まってしまう事もあるそうだ。この未練というのも人それぞれであるため、強力な悪霊になる事もあれば、逆に他の人を助けるいい霊になる事もあるという。


「ここで徳井の姿が見えないなら、少なくとも成仏してるってことじゃない?」

「ここに来るまでの間にもそれっぽい霊魂は無かったから、成仏しちゃってるんだと私も思うよ」

「じゃあやっぱり嘘なんじゃ……」

「かもしれない。でも本当かもしれない。面倒なの頼まれたよほんと」


 今のところこれといって何も確証のあるものを見つけられていない自分達だったが、さっきからずっと調べものをしていた葦舟が突然口を開いた。


「ここの海って光るんですねぇ」

「簸子ちゃん?」

「何、葦舟」

「いや、ウチちょっと気になって調べたんです。ほしたら、ここの海、夜光虫が見れるらしゅうて」

「夜光虫……アンタ何言ってんの?」

「待って魔姫ちゃん」


 そう言ってこちらの発言を遮ると、三瀬川さんは黄泉川さんのスマホに表示されている怪談へと再び目を通し始めた。


「これにも書いてある。真夜中の沖合の海が光るって……」

「あ、ほうなんですか? ウチが見とる画像じゃと星空みたいに光っとるんですよ」

「ん……北条もこう書いてる。『星空みたいですよ』」


 それを聞いて自分の中である考えが浮かぶ。

 もしかすると北条が宇宙人が海から来ることに納得していたのは、それが理由なのではないだろうか。北条の目には夜光虫によって光る海が、本物の星空のように見えていたのかもしれない。だからそんな海から宇宙人がやって来てもおかしくないと考えた。

 だが仮にそう考えたとしても、本当にその宇宙人らしきものが海からやって来たのかどうかは分からない。北条自身がその光景を目撃したという感じでもなければ、それを立証する手段も無い。


「ウチ思うたんです。海から何か来るんじゃったら、それって海の中の生き物っちゅうことですよね。じゃったら宇宙人さんの正体って、海底人なんじゃないかなーって」

「ハァ? あのね、海底人って……アンタ本気で言ってるの?」

「でも暗い海ん中で棲んどるなら、目が大きゅうなる進化してもおかしくない思うんです」

「いや、その理屈は分かるけど……。それだと海の底にはホントに文明があって、そいつらは何故か徳井のことを知ってたってことになるでしょ」

「はい。じゃけぇウチはそう言いたいんですよ」

「そいつらは今の今までずっと人間にバレずに海の底で暮らしてたってこと?」

「不可能じゃないと思うんですよ」


 そう言うと葦舟は自論を展開し始めた。

 彼女曰く、自分達が今日ここに来るのに使用した『ポータル』のようなものを意図的に作り出すことが出来れば、それを使って時空間に歪みを作ることが可能らしい。これを上手く活用すればこの世界に確実に実在しながら、誰にも認識出来ない空間の中で暮らすことが出来るのだという。つまりその宇宙人達はその技術を使って海と陸地を自由に行き来し、それを偶然にも北条が目撃することになったのではないかと考えているようだ。


「……私も簸子の意見に賛成」

「あ、縁お姉さんもそう思います?」

「ん……詳しくは言えないけど、私もそういう空間については知ってる。この世と地続きなのに、専用の手段じゃないと侵入出来ない空間……そういうのは間違いなく実在する」

「私も縁ちゃんも体験したことがあるの。場所は言えないけど、ある藪がそういう空間だったから」

「ちょっといいですか? 仮にそうだとして、どうやって宇宙人は行き来してるんです? 何でそいつらは死んだ筈の徳井と一緒に目撃されてるんです?」

「それは私達にも分からない。もし本当にそんな場所があって行くことが出来れば、賽の力で調べられるけど」


 もし本当に葦舟の言うことが正しかったとしても、その場所に行く方法が分からなければ意味が無い。自分には『ポータル』のような時空間異常を感知する力は無いし、三瀬川さんの力はそういったことには使えないだろう。黄泉川さんの力はあまり知らないが、もし出来るのならとっくにやっていてもおかしくはない。葦舟は儀式術などには詳しいようだが、それで何かを開くというのは難しい話だろう。


「あの、ウチちょっとやってみてもええですか?」

「簸子ちゃん、やるって何を?」

「もしかしたら、ウチの力で宇宙人さん達の所に行けるかもです!」

「……魔姫、あの子何言ってるの?」

「アタシに聞かれても……。ちょっと葦舟、アンタまさかまた虫の死骸とか使うんじゃ……」

「ううん。違います。ウチの考えじゃと……夜になったら行けると思います!」


 三瀬川さんと黄泉川さんが困惑した表情でこちらを見る。


「魔姫ちゃん……凄い自信だけど本当なの?」

「魔姫、どうなの?」

「アタシに聞かれても……」


 葦舟が何故そこまで自信を持って言えるのかは分からないが、彼女の力や知識は一度目の当たりにしている。恐らくここまではっきりと言うということは、それだけ確固たる理由があるのだろう。


「……はぁ……とりあえず、アタシは葦舟を信じてみます」

「やったぁ! 大丈夫ですよお姉さん! ウチに任せとってください!」

「まあ、魔姫ちゃんが言うなら大丈夫そうかな?」

「ん。他に何も浮かばないし」


 こうして何かを閃いた様子の葦舟のことを信じ、自分達は夜になるまでしばらく時間を潰すことになった。

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