二章 37 萌音のギルドテスト
「…………ありがとうございましたなの。」
琴葉は試験員を努めてくれた冒険者にお礼を言った後、限界だったのか前向きに倒れて、そのまま気絶した。
「おい、琴。」
俺は、慌てて訓練所の中に入り琴葉に近寄った。
「琴ちゃん。大丈夫なの?」
俺の後にすぐに萌音が慌てて、琴葉に近づき、琴葉の無事を確認するかのように隅々を見た。琴葉は身体には怪我など無さそうだが、手は大怪我していた。明らかにダランと垂れ下がっているのは気絶が原因では無いと思う。おそらく骨折などだろう。それを俺が確認していると、萌夢が戦った先程の冒険者に回復魔法をかけた白衣のような服を着た2人がでてきて、先程見た回復魔法を使った。だが、琴葉は目覚める様子がない。
「腕の方は一週間ほど大人しくしていると、きれいにくっつき問題ないでしょう。おそらく試合中はかなり集中していたために、試験終わりと聞き力が抜けて気絶したと思います。こちらもしばらくしたら目覚めるでしょう。」
と、教えてくれた。彼女達はギルド所属の回復士なのかな。
「わかった。ありがとう。」
俺は回復してくれた2人に礼を言ってから琴葉をお姫様抱っこして俺たちの応援席に戻った。萌音はそれをどういう感情で見ているかわからなかったが、こちらが帰るのを見届けたあと、そのまま訓練所の中に残った。
「続いて冒険者、萌音のランクアップ試験をする。萌音前へ。」
審判の呼び出しに対して、
「はーい。」
と、萌音は返事しながら幣を取り出して、初期位置にたった。正直一番不安なのはこの試合だ。萌音は完全な対魔物に特化しているため、対人戦がスキル上は苦手だ。それでもレベルはあげているし、琴葉みたいに上位ランクが来なければ問題はないと思う。
「おねーちゃん大丈夫かなぁ?」
普段大人しく俺に話しかけることが少ない萌夢も心配そうな声をあげた。俺も同じことを考えていたため、それに対する答えは詰まった。それを聞いていたのか、ちょっと遠くで弓の感覚を試していたソウヒナが近くにやってきて、
「問題ないですわ。萌音お嬢様が負けるはずないのですわ。」
と、根拠のない宣言をした。だが、今の俺達に対しては負けるなどの事を考えるだけ無駄なんじゃないか。と、不思議と思えてくる。ソウヒナの前向きな性格はとてもこういう時に素晴らしい。
「そうだな。負けるなど考えず絶対に勝つ。そう思っていたほうがいいな。少し後ろに考えていたよ。ありがとうソウヒナ。」
俺がそのように返すと、
「ふふん。あたり前ですわ。」
と、ドヤ顔きめた。それを見たジェイドは頭をかかえ、
「すみません。ご主人様。こいつの指導はおれが責任持ってしておきます。」
と、申し訳なさそうにいった。
「前向きなことはいいことだから。無理に矯正はしなくてもいいよ。それより対戦相手が出てきた。ここから一生懸命萌音を応援しようか。」
俺はそう言って試合の方に促した。萌夢はすでにこっちの会話に入る気はなく視線は訓練所に固定されてた。
「はっ。(ですわ。)」
2人の返事を聞きながら、俺は、萌音の対戦相手にあたる、ヒョロっとした青年に視線を向けた。ぱっと見戦えそうには見えないが強さはどうなんだろうか?鑑定は完全に弾かれている。
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SIDE 萌音
どうしよう。鑑定が通らない。どんな攻撃を仕掛けてくるかもわからないなぁ。でも、私だけ落ちるのも嫌だし頑張らなきゃ。
「ふっ緊張するなとは言わないが、君は残念だね。僕の場合特殊でね、君はこの試験に落ちるだろう。それじゃ僕の舞台の端役として頑張ってくれたまえ。」
と、対戦相手の冒険者は名乗りもせずうぬぼれた態度に私は呆気に取られた。なんて返せばいいのかと、思っていると、
「それでは冒険者、萌音のランクアップ試験を開始する。両者構え。……………………はじめ。」
審判の合図が上がった。私はうかつに距離を詰めず様子を見ていると、その対戦相手は自分の胸ポケットに手を入れて何やらとりだした。
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チェリーボアの魔石
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魔石には鑑定はしっかりと通り調べることができた。しかしなんで魔石かはわからない。
「それじゃお見せしようか。僕の真髄を。」
そう、対戦相手が宣言すると、魔石を中央くらいになげて、何やら呪文を唱え始めた。すると、その魔石が大気中から黒い靄を集め始めた。私は嫌な予感がしたため、
「黒い煙は怪しいから、祓わせてもらうよ。」
私がそう宣言し、その魔石を祓おうとした。だけど間に合わず、魔石は一瞬で膨張し、私の前で何か形に変わり始めていた。
そしてその姿は見覚えのあるイノシシに変わった。
「ははは。どうだ。チェリーボアなど見たことないだろう。これが、僕の術。魔石召喚の力だ。喰らうがいい。」
やっぱりチェリーボアだったんたね。確か真正面にたったら危ないんだったね。私が真正面からちょっとはずれた位置にたつとそこにチェリーボアが突撃してきた。結希斗君に聞いてたより遅い?
「やるな。だが次々に行くぞ。」
対戦相手である冒険者の指示によってチェリーボアの向いている向きが変わる。それに対戦相手の冒険者を見てみると両手を前に突き出して棒立ち状態だ。今、攻撃いれたらすぐにでも勝てそう。一応最低限の警戒だけしていて眼の前のチェリーボアに集中してみようかな。そもそもこれより大きいチェリーボアボスを倒す手伝いもしたから、それに比べるとチェリーボアは物足りない感じがする。私は覚悟を決めてチェリーボアに幣を向けた。




