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虹色アゲハ  作者: よつば猫
虹色アゲハ
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 そして望は、鷹巨の愛を無駄にしないためにも……

その信じたいという気持ちを実践してみようと思った。


 勝負のために盛られたという話も。

目を合わさなかった時の話も。


ー「俺も望が全てだよ。

あの頃からずっと」ー

思い出すたび、胸を掴むその言葉も。


 全部信じてみようと……

信じたいと思ったのだ。



 ねぇ仁希……

誰よりも普通の人生に焦がれてた仁希は、それが一番幸せだと思って。

私にはそんな人生を歩ませようと、罪を消してくれたのよね?

だから連れてってもらえなかったのよね?


 なにより、それらは罪悪感からではなく愛によるものだと……

そう信じたいと。

だからしっかり生きなきゃと、望は心を奮い立たせたのだった。








 半年後。

望は夜勤の仕事で働いていて。

昼間は倫太郎と過ごす日々を送っていた。


 ある雨の日、病室に向かっていると。

その後ろ姿を見ていた看護婦が、思わず呟く。


「毎日毎日、健気ね……

あのコもう、無理だろうに」


「しっ、聞こえるわよ」



 聞こえていたのか、いないのか……

望は倫太郎の寝顔を眺めると。

その手をぎゅっとして、項垂れた。


 でもすぐに。


「あ、爪伸びてきたわね。

すぐ切ってあげる」


 そんな生きてる証を愛しそうに見つめながら、パチンパチンと処置を始めた。


 ところが手を滑らせて、倫太郎の手がぼとりとベッドに落ちてしまい。


 その瞬間、あの日の恐怖が……

倫太郎がいなくなると思った恐怖が甦る。


「ねぇ起きてよ、倫太郎……

あんたはこんなとこで大人しくしてる男じゃないでしょ?

ねぇっ、また退院させろって暴れてよっ。

また暇人?って減らず口叩いてよ!」


 ぼろぼろ涙が溢れ出して……

どれだけ頭を下げる羽目になっても。

どんなに手を焼いたとしても。

元気ならそれだけでよかったのにと、痛感する。


 涙で爪切りが出来なくなった望は、そのままベッドに泣き伏せて……

いつしか眠りに落ちていった。




 そうして、ぼんやりと目を覚ました望は……


*「いつまで寝てんだよ、ナマケモノ?」


 その声に、バッと顔を向けると。

そこには……

ずっと見たかった、倫太郎の無邪気な笑顔があって。


 ぐわりと涙が込み上げる。


「こっちのセリフよっ」

嬉しくて嬉しすぎて、堪らずそう抱きつくと。

その温もりに、大粒の涙を後から後から溢れさせた。



**それにより、鷹臣の罪は軽くなり。


***壮絶なリハビリを乗り越えた倫太郎は、劇的な回復を遂げ。


****望は、切なさに胸を痛めながらも……

それ以上に倫太郎の幸せを願って、その後押しをすると。

自由になった倫太郎は、本当に守りたかった人の所へ行き。


*****出所した鷹臣も、ようやく愛し合える存在と巡り会う。



******そんな、とある冬の日。

凍てつく寒さの中、望が仕事から帰っていると……


「待たせてごめん」


 目の前には……

猫みたいな目を細めて、くしゃっと笑う笑顔があって。


 その瞬間、ぶわりと涙が堰を切る。



*******それから数日後。


 2人の笑い声を乗せた電車が……

あの日叶えられなかった希望に向かって、街を飛び出していった。





 そう、きっとそんな日が来ると……

望は今日も、生きる希望で心を飾る(・・・・・・・)


 まるで、虹色のアゲハとたわむれるように……



 それは、倫太郎が生きてるからこそ持てる希望で。


ー「1人にしないで!」ー

意識を失う間際にかけた、その言葉は……

望の本音でもあったが、必死に繋ぎ止めようとした言葉であり。


 ほっとけないと思ったかのように……

倫太郎はその命の限り、望の心を守っていたのだった。





「じゃあ倫太郎、また明日ね」


 夕方になり、病院を出ると……


 いつのまにか、雨は止んでいて。

空には大きな虹が架かっていた。



 その時。

ふわりと光風に乗って、大好きな甘い匂いが望の鼻を掠めた。


 すぐに辺りを見回すと。

湿った空気で、匂いがより強くなったのか……

病院の庭隅に、ブッドレアが繁っているのを見つける。


 思わず引き寄せられた望は……

そこに張られた蜘蛛の巣に、アゲハ蝶が捕まっているのを目にして。


 切ない思いで逃がしてあげると……

近くを迷走していたアゲハ蝶と、戯れ合うように飛んでいった。



 想いを馳せて眺めていると、2匹はやがて見えなくなり……


 あたかもそれは、虹の向こうに連れ立ったかのようだった。





ー「いつか俺が虹の向こうに連れてくよ」ー










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