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虹色アゲハ  作者: よつば猫
クロアゲハ
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「やっぱりあの男、胡散臭すぎ。

表の顔晒してどうする気?

とにかく免許証か保険証をどうにか写メって、さっさと終わらせるわ」


 定職に就いている詐欺師は珍しく、それで高収入を得ているケースは極めて稀だ。

でも岩瀬にはその表の顔があるため、本人名義で簡単に大金を借入出来ると考えたのだ。


「つか来るなら連絡しろよ。

終わっても連絡ねぇし、アンタ他の場所に向かってたから、ジム行ってたのに」


「ごめんごめん、お腹空いてて。

ても私がこっちに来てたからって、そんな急いで戻らなくても……

合鍵で勝手に入っとくし」


 バディを組んでから、揚羽には護身用にGPSが付けられていて。

倫太郎はいつもその動向を見守っていた。


 さらに単独の頃から、揚羽はターゲットとのやり取りを盗聴器で録音していた。

恐喝ネタとして編集したり、詐欺に活用するためだったが……

今では倫太郎が、護衛や調査のために聴いていた。


「つまり連絡する気ねんだな……」


「じゃあ女連れ込んでる時とかダメな時は、そっちが連絡入れてよ」


「……あぁも好きにしろよ」


「なに不貞腐れてんの?」


「とにかく、そいつならキャッシュカードかクレジットカードの情報でもイケそうだし。

こっちでそれ用のウイルスも作っとく」


「さすが天才ハッカー」


 でも倫太郎は、浮かない顔をしていた。





 後日、岩瀬からの連絡を受けた揚羽は……

最寄り駅と偽った、待ち合わせ場所に来ていた。


 早めに来たため。

辺りを見渡すも、それらしき姿は見当たらず。

そこに具合の悪そうな老婦が、ヨタヨタと通りかかった。


「……大丈夫ですか?」

声かけた瞬間。


 老婦はその場に倒れ込む。


「うそっ……

どうされました!?

どこか痛いですかっ?」


 老婦は「胸が胸が」と呻いて、意識を失い。

揚羽は周りに救急車の手配を頼むと、呼吸を確かめ意識が戻るよう声掛け続けた。


 そして救急車の姿を捉えると。

通報者に老婦の状態を伝えて、急用を装いその場から身を隠した。


 倫太郎のおかげで身分詐称は完璧なものの。

詐欺師である以上、色々と身元を訊かれるのは厄介だからだ。


 あぁこれ、完璧遅刻だわ……

岩瀬はまだ来ていないようだったが、隠れてるうちに待ち合わせ時間は過ぎそうだった。


 すぐに遅れる旨を連絡すると……

「急がなくていいんで、気をつけて来て下さい」と、相変わらず優しい言葉をかけられて。


 揚羽はひとまず胸を撫で下ろすと。

老婦の無事を祈りながら、救急車が出て行くのを待ち続けた。



「お詫びなのに遅れてしまって、本当にすみませんっ」


「いえ、待ってる時間も楽しかったりするんで、ほんとに気にしないで下さい。

じゃあさっそく行きましょうか」

そうレクサスの助手席にエスコートされる。


 車まで完璧ね……



 さらに、連れて行かれた場所までも。


「本当に素敵な所ですねっ。

料理もヘルシーで美味しいし、すごく癒されます」


「でしょ?

ガーデンカフェとか、テラスで植物が楽しめるとこは多いけど、今の時期暑いし。

このボタニカルカフェみたいに、店内で植物を楽しめるといいですよね」


「はいもう最高すぎて、なんだか私が接待されてる気分です」


「接待されて下さい。

僕は、気に入った店で一緒に食事してもらえるだけで嬉しいんで」


 聞き覚えのあるその営業トークは、揚羽も水商売や詐欺で常用していたが……

この完璧男が言うと、さらに胡散臭く感じてしまう。


 と同時に。

ずっとそんな営業トークを聴いてきた倫太郎が、胡散臭いに対して「まんまアンタだろ」と言うのも最もだと。

今さら恥ずかしくなる揚羽。


「……え、僕変な事言いました?」


「いえっ……

ただ岩瀬さんなら、私なんかがご一緒しなくても、お相手はいくらでもいるじゃないかと」


「まさかっ。

こう見えて僕、相手のために色々頑張りすぎちゃう方で。

一緒にいると疲れるって、逆に敬遠されちゃうんです」


 それは、作り話だとは思えなかった。

リアルでこうも完璧だとね……


「そんなっ。

私は優しい岩瀬さんとご一緒出来て、すごく癒されてますよっ?

今日だって遅刻で焦ってた時、どれほど救われた事か」


 すると岩瀬は、何か考えてる様子で意識が逸れる。


「あの……」


「あ、すみません。

ホッとしてリラックスしちゃいました。

僕も聡子さんといると癒されます」


「そんなふうに言ってくれるのは岩瀬さんだけです。

私はどうも真面目すぎるみたいで、一緒にいても面白くないって敬遠されてきたので」


「全然そんな事ないですよっ?

僕は聡子さんといてドキドキするし。

ってさっきから馴れ馴れしく名前呼びしてすみませんっ」


「いえ構いませんっ、同じ歳ですし」


 車の中で年齢を聞かれた際。

本当は揚羽の方が1つ上だったが、親しみやすさを考え同じ歳だと告げていた。


「じゃあ僕の事も、下の名前で呼んでもらえると嬉しいです」


 距離詰めてくるわね……

まさか表の顔で詐欺する気?


「そんなっ、いいんですか?

じゃあ……」


 その時、テラスへの扉が開けられて……

風に乗って、甘い香りがふわりと漂う。


 この匂い!

揚羽の胸に、劈くような痛みが走る。


 それは懐かしくて残酷な、愛憎の匂い。

そう、揚羽を絶望に陥れたあの少年の匂いだった。


 うそ……

あの男がここにいる!

瞬時に緊張感が押し寄せて、鼓動が激しくなる。


 どこにっ……

揚羽が周囲に気を張り巡らせた時。


「……聡子さん?

聡子さん、大丈夫ですかっ?」


「あ、すみませんっ。

ちょっとお腹の調子が……

お手洗いに行ってきますね」

そう取り繕って。


 そこへ向かいながら、周囲に探りを入れていると……

ひときわ強く、甘い匂いに包まれる。


 だけど、付近は女性客で……

ふと、その場にたくさん飾られたライラックのような花に気が止まる。


 もしかしてこの花の匂い?

嗅いでみると、まさしくその通りで。

ネームプレートには"ブッドレア"と記載されていた。


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