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虹色アゲハ  作者: よつば猫
シロオビアゲハ
38/41

「けどそれで、アンタが傷つくのは、避けらんねぇから……

だから俺が、仁希さんに頼まれて、慰めたんだ」


「どうしよう、全然止まんないっ。

ううっ、どうしようっ…」

望はそれどころじゃなく、泣きながら止血場所に体重をかけた。


「落ち着けって、大丈夫だから」

だんだん呼吸が苦しくなりながらも。

平静を装って、力なく笑いを浮かべる倫太郎。




「ちゃんと念押したのに、なーに足引っ張ってんだ?」


「っせーな、自業自得だろ。

オマエのせいでヤケんなって、あの男とこーなったんだし」


「だからって、バディならフォローしてくれよ。

俺の計画聞いたくせに、足洗えば?はないだろ〜」


 そう、今足を洗われたら勝負を投げ出されるかもしれないからだ。


「俺はもうオマエらが傷付くの見たくねんだよっ」


「っ、見たくっ?

お前はいつも聴いてるだけじゃん」

心打たれたのを隠して、小馬鹿に笑う。


「ふざけんなよっ。

こっちはオマエの事で色々気ィ回してんのに」


 倫太郎はこの前の嫌な勘で……

もしかして目的を達成したら、仁希が死んでしまうんじゃないかと邪推していて。

自らの意志なのか、組織によるものなのかは分からないものの。

その話を躱された事からも、疑惑を強めていたのだ。


 そしてそれを察した仁希は、また躱すようにして、倫太郎の言葉を逆手に取った。


「気ィ回してる?

だったら一度くらい、望の手料理分けてくれたっていんじゃないか?」


「いやムリだろ。

オマエいつ来れるか分かんねぇし、残したらアイツに悪いし」


「あと、独り占めしたかったからだろ?

俺の気持ち知ってるくせに、平気で望の部屋に行こうとするしな?」


「あの状況で断る方が不自然だろっ。

それでも、メール見てすぐ断ったってのに」


 その時仁希は、ちょうどリアルタイムで聴いていて。

嫉妬で邪魔したのもそうだが……

これ以上2人が親密になったら、作戦に響くと考え。

〈部屋には行くな〉と指示したのだった。


「はは、邪魔して悪かったな。

けどそれ考えたら、あの男とくっついてる方がマシかもな」


 つまり倫太郎より鷹巨を相手にした方が、まだ勝算があると踏んだのだ。


「どーゆう意味だよ。

アイツがあの男と付き合ってても平気なのか?」


「まさかっ。

あんな電話の様子聴かされたんじゃ、意地でも妨害するよ」


「それで今日来たのかっ?」


「だって悔しいと思わないか?

人生って不平等だなって。

ずっと望を大事に守って来たのは、俺らなのに。

望の幸せのために、身を引いてるだけなのに。

どんなに想ってても、死ぬほど愛してても……

望なしの人生なんか生きていけないくらいでも!

おいしいとこだけ横取りしてるヤツに、好きにされてんのを……

指くわえて見守る事しか出来ないなんてっ」


 仁希はそれと似たような気持ちを、ずっと倫太郎にも抱いてきた。

だけど倫太郎は自分の気持ちを押し殺して、約束通り決して望に手を出さなかったため。

いつしか同じ気持ちを抱く戦友のように思えていたのだった。


 それでも望と接触してからは、やきもちを抑えられない時もあった。

例えば、心配される倫太郎が羨ましくて……

自分なんかが心配されるわけがないと思いながらも、怪我したフリして来店したり。

他にも色々と……

そんな馬鹿な事をしてしまうほど、これまでずっと苦しんできたのだ。


 だんだん惹かれ合っていく望と倫太郎に、胸が数え切れないほど切り刻まれて。

でもその状況を作ったのは自分で、ただただ見守る事しか出来なくて。

狂いそうなほど自分の運命を恨んで、苦しくて苦しくて吐くほど苦しんで。

心が死にそうなほど、のたうちまわって……

それでも望の幸せを優先してきたのだった。


「やっぱりオマエ、死ぬ気なんじゃ……」


 望なしの人生なんか生きていけないという言葉に、疑惑が確信のようなものに変わる。


「死ぬ気っ?

どんな妄想してんだよ、お前厨二病だったのか〜」


「茶化すなよ!

バディだと思ってんなら、ほんとの事言えよ。

じゃねぇと、計画には協力しねぇ」


 すると仁希は、ふぅと溜息を吐き出して……


「まぁ確かに、最初はそうだったよ。

俺にとって望はさ、生きる希望だったんだ」

観念した様子で語り始めた。


「ドス黒くて汚い世界に放り込まれて……

死んだ方がマシだって思いながら、毎日やり過ごしてた時。

望と出会って、一緒に過ごして、初めて生きたいって思えたんだ。

だけどその希望を断たれて……

それでも組織で上り詰めれば、いつか自由になれんじゃないかって。

必死に頑張ってきたのに、それが無理だってわかって……

もう生きてたくないって思ったんだ。

望と生きられない未来なら、要らないって。


でも死ぬ前に、望に一目会いたくて……

寝る間も惜しんで捜したのに、全然見つかんなくて。

1年かかってようやく見つけたら、俺のせいで詐欺師になってるし。

だから最後に、望の役に立って死のうって決めたんだ。

なのに人間って、欲深い生き物だよなっ。

いざ望と関わったら、また生きたくなって……

だから余計な心配はするなっ?」

しんみりした空気が、そう笑い飛ばされた。


 でも倫太郎は、どこか腑に落ちないままで……



 さらにその夜、仁希の妨害が失敗に終わり。

倫太郎は、立ち直れないほど傷つけ合った2人に……

遣る瀬ない思いで耐えられなくなる。


 そして仁希も……

失敗を逆手に取って、駆け引きの引きに移ったものの。

それとは別に。

あそこまでの拒絶や、あんなにも傷付けてしまった事に……

自身も深く傷付き、何も出来なくなっていた。


 そんな中、望が鷹巨にプロポーズされたのを機に。

倫太郎はそれを受けるように促して、再び足を洗わせようと働きかけた。



 その結果。


「どういうつもりだ?

電話にも出ないし。

あの時も、俺はあんなに頼んだのに尽く無視して……

もしかしてイヤホンすら外してたか?」


「……悪かったよ。

けどもういいだろっ。

アイツの幸せのために動いてんなら、このままあの男と結婚させるのがベストだろっ」


「じゃあ罪はどうなる?

結婚して子供が出来て……

その時に逮捕されたり、復讐されて家族が犠牲になったら、それこそ一番苦しむだろっ」


 もっともな意見に、言い返せなくなる倫太郎。


「それに望にとっての幸せは、金とか肩書きじゃなくて愛情だろ。

だったら本当に愛し合った相手と結ばれてほしいんだ」


 そう、仁希は……

この3年に及ぶ日々、望を守るためだけに生きてくれた倫太郎に、望を託したかったのだ。


「ったく、こっちの気も知らないで……

しかも俺はちゃんとほんとの事を話したのに、協力どころか邪魔するし」


「よくゆうよ……

まだ隠してる事があんだろ」


「また妄想か?」


「いやよく考えたらおかしいだろっ。

アイツと関わってまた生きたいって思ったんなら、一生関わらないってのはその逆になんだろっ」


 それも、計画を邪魔した理由だった。


「へぇ〜、そこは頭が働いたんだ?」


「っざけんなよ!

これ以上邪魔されたくなかったら、全部話せよ」


「話しても邪魔するくせに……

お前ってほんと、クソ生意気なガキだよな」


 でも倫太郎がそこまで反抗するのは、それほど心配しているからだと分かっていた仁希は……

言葉とは裏腹に、胸を詰まらせていた。


「けど、どうせ邪魔されるなら話してやるよ」


 そう、自分の罪にするという事は……

仁希が元締めだという証拠を残すという事で。

望の存在を隠すために、他の詐欺師の罪も同様に被るとなると。

警察に目を付けられる可能性が高くなる。


 なぜなら他の詐欺師は一般人をターゲットとしているため、被害者が訴える可能性が高いからだ。

そうなれば組織は秘密が漏れるのを恐れ、仁希を処分しかねないのだ。


「だから、この件が片付いたら海外に逃亡しようと思ってる。

一生関わらないって言ったのは、もう日本に戻って来ないからだ」


「……そうゆう事か。

けどもうアイツは足洗うって……」


「ほんとやらかしてくれたよなっ。

でもま、土壇場の方が判断力も鈍るだろうし。

そこで切り札を使うよ」




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