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虹色アゲハ  作者: よつば猫
シロオビアゲハ
37/41

「仁希さんは、アンタが出来るだけ危険な橋を渡んなくていいように……

俺を隠れ蓑にして、その天才ハッカーの力で守ってきたんだ。

もちろんボディガードも詐欺の片棒も、ずっと動向を見守ってたのも、全部仁希さんの指示だし。

俺はそれに従ってただけなんだ」


 そう、初めはそうだった……

自分の女を守ってもらうためなのは、さる事ながら。

仁希が初めて自分を必要としてくれた存在だったため、必死に役目を果たそうとしていたのだ。


 だけどいつしか……

同じく自分を必要として、頼ってくれて。

理解してくれて心配してくれて心を許してくれた望を、愛してしまったのだった。


「それから……

ようやく手筈が整った仁希さんは、アンタの指名客に近づいたんだ。

当然、店で再会したのは偶然じゃない」


 確かに望も、偶然だと思えないふしはあった。

なぜなら2人が出会ったのは他県で、飲み屋も星の数ほどあるからだ。


 とはいえ望自身が、身バレを防ぐために転々としていたため。

他の都道府県で会っても、そんなに不思議ではなく。

なにより、ずっとそんな日を待ち望んでいたため。

ついにこの日が、といった気持ちの方が強かったのだ。




「マジで聞いてねぇし」


 仁希が店に来ていた事を望から聞かされて、怒る倫太郎。


「悪い悪い、サプライズしようかなって」


「ふざけんなよ、危うくアイツの前で口滑らすとこだったし」


ー「はあ!?聞いてねぇしっ」

「そりゃ、言ってないからね」ー


「いや、ちょっと滑らしてただろ。

頼むから、望の名前だけは口滑らすなよ?」


「わかってるって、アンタの切り札なんだろ?

つか滑らせたくねぇなら、なんで接触した事黙ってたんだよ」


「そりゃ、言ったらお前反対するだろ?」


 いつしか2人は信頼しあう仲になっていて……

仁希は倫太郎に、過去の経緯を打ち明けていた。


「ったり前だろ。

アイツがどんだけショック受けてたと思ってんだよ」


「……知ってるよ」

再会した日の様子は、倫太郎の部屋の盗聴器で知っていて。


 殺したいほど憎まれていた事に、当然だと思いながらも。

仁希もまた、酷くショックを受けていたのだ。


「だったらなんでまだ関わってんだよ。

組織にバレたらどーすんだよ。

一緒に生きるつもりがないなら、中途半端な事して傷つけんなよっ」


 天才ハッカーの仁希は……

言うまでもなく、組織の重大な情報も管理していたため。

組織は仁希を絶対に手放すわけにはいかず、必死にその弱点を握ろうとしていたのだ。


「お前ってほんと……」

思わず仁希は苦笑う。


「そんなに望が大事か?」


「はっ?

別に、バディだから当然だろ」


「バディね……

お前は俺が買った俺のバディでもあるのに、すっかり望専用のバディになってるし」


 仁希はある時から自分と倫太郎を、最強の頭脳と最強の強さで望を守る、最凶バディだと称していた。


「どこがだよ、オマエの指示通りやってんだろ」


「だったら、今から言う事もそうしてくれよ?

そろそろ俺の目的を話すから」


 そう明かされた、罪の回収という目的とその計画は……

望の罪を全て奪って、詐欺の元締めを装い自分の罪にするといった内容で。


 データや情報の改ざんをしたり、関係者を全員洗って……

望の事が漏れないように立ち回ったり、矛先が自分に向くように仕組んだり、場合によっては口封じも考えていた。


 でもそれらを実行するには、組織に望の事がバレないよう裏工作する必要があったのだ。

というのも仁希は、発案当時も義父の元に身を置いていたため。

何度も他県に赴くなど、不審な行動を取れば……

逃亡の前科もある事から、厳重な監視が付けられる。


 そこで元締めらしく、複数の女詐欺師を抱き込もうと考え。

携帯名義の女もその1人だったのだ。


 そうして……

付き合った女詐欺師を食い物にして、味をしめたのを装い。

同様の手口で、全国の女詐欺師を付け狙い。

それで得た利益の一部を上納すると。


 それを数年繰り返し……

組織の疑いが弱まったところで、ようやく望への計画に着手したのだった。


 それでも不意打ちで監視が入るため、油断は出来ず。

柑愛を隠れ蓑としても利用したのだが……


 勝負という回収方法に、不満をぶつける倫太郎。


「そんなやり方で回収するくらいなら、誤解といて足洗わせろよ!」


「たとえ足を洗っても!

手を汚してる罪までは洗えない。

情報は操作出来るし揉み消せるけど、被害者の憎しみは操作出来るもんじゃないし消せないんだ。

だから誰かが背負わなきゃいけないし、俺のせいだから俺が背負わなきゃいけないんだよっ」


「だからって!

そんな事したらもっとアイツを追い詰めんだろっ。

人に罪押し付けるくらいなら、自首した方がずっとマシだって思うに決まってる」


「じゃあお前は、自分のせいで望が犯罪者になったとしても。

罪を犯したのは望なんだから、不幸になっても自業自得だって思えるのか?」


 そう言われて、何も言えなくなる倫太郎。


「お前に言われなくたって、望がそう思う事くらいわかってる。

だから、そう思わせずに奪うんだろ?

望が幸せになるためなら、俺はどんな罪にも手を染めるし。

いくらでも(望から)憎まれていいよ」


 俺だってそうだけど……

その気持ちには共感しながらも。


「それであいつが幸せになんのかよ」


「あの女詐欺師(毒女)に言ってた言葉、聞いてただろ?」


ー「一生組織に飼い殺しされるよりマシよ?

お金なんてまた稼げばいいし、それで解決するならラッキーなんだから」ー


「少なくとも、俺と生き地獄に行くよりは幸せになれるよ」


 確かに倫太郎も、望をそんな目に遭わせたくなかったし。

これ以上罪も重ねてほしくなかった。


「けどそれじゃ別の(裏切られた)ショックが……」


「だとしても、今の望にはお前がいる。

そのショックを慰めるのが、最後の指令だ」


「最後?」

その言葉が引っかかるも。


「罪さえ回収すれば、アイツの事はもういいのか?」


「……そうだな。

そしたら俺も肩の荷が下りるし、お前も自由だ」


「ふざけんなよっ。

アイツが幸せになるまで見守んなくていいのかよっ」


「残酷な事言うんだな」


 もっともな指摘に、再び言葉を無くす倫太郎。


「そういう訳だから。

目的を達成したら、あとはお前の好きにすればいい。

俺は回収とその処理が終わったら、望ともお前とも一生関わらないから」


「一生って……

オマエまさかっ」

最後という言葉と合わさって、嫌な勘が働くが。


「もう行くよ。

今組織に怪しまれたら元も子もないし」

倫太郎の言葉を遮って、席を立つ仁希。


 といっても、その理由は本当で。

組織の目を盗んで会っているため、長居は出来ないのだ。


「おい待てよっ」


「じゃあ頼んだぞ。

納得いかないからって、足だけは引っ張るなよ?」




「全部、勝負をふっかけるためで……」


 柑愛を利用したのも、隠れ蓑のためだけじゃなく。

勝負に持ち込むためには、結婚詐欺を装う必要があったからで。

なかなか連絡先を教えなかったのは、柑愛を惚れさせるまでの時間稼ぎだったのだ。


 さらにはその結婚詐欺を知らせるために……

田中の会社のシステムを狂わせて、来店を妨害し。

揚羽が柑愛の携帯をハッキングするよう仕向けたのだった。


「勝負をふっかけたのは、組織の目を欺くためでも、あったけど……

1番の狙いは、約束を取り付けるためだったんだ。

アンタの性格なら、足洗うしかなくなるだろって。

もうその前には洗ってたけど、2度と(詐欺師に)戻れなくなんだろ?

恨みっこなしなら、復讐も出来なくなるし。

勝負で負けたんなら、する気も失せんだろうし。

そんで全部奪ったのは、犯罪の痕跡を、微塵も残さないためで……

だから飲み屋の金は、約束に合わせて回収したけど、俺経由で返したんだ」


 倫太郎は、そう真相を打ち明けたものの。

当然、仁希が罪を被った事までは言わなかった。


 柑愛や田中の話もそうだが……

望が責任や負担を感じる内容や、仁希が批判される内容は、墓場まで持って行こうと決めたのだ。


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