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虹色アゲハ  作者: よつば猫
シロオビアゲハ
36/41

「ねぇ倫太郎、色々ありがとう」


 仕事の面接に出掛ける間際。

送ってくれる倫太郎に、しみじみ感謝を告げる望。


「はっ?

何だよ急に」


「だってここまで立ち直れたのも、望として新しい人生を踏み出せるのも、全部倫太郎のおかげだから」


「……俺は自分ちに連れ込んだだけだし。

いいから行くぞ?」



 家を出ると、倫太郎が鍵を閉めてる最中。

望は、久しぶりに味わう外の世界の眩しさに……

絶望から這い上がれた気がして、思わずジワリと涙ぐむ。


 それを隠すように、気遣う倫太郎の後ろを俯きながら歩いていると……


 突如。

視界の端に影が飛び込み、倫太郎がドシャリと崩れる。


 えっ、と驚いた望は……


「逃げよう!」

目の前に現れた鷹巨に、ガシッと手首を掴まれて。

グイと、側の下り階段に引き込まれる。


「えっ……ちょっと待って!

倫太郎っ」


 振り返ると、倫太郎の太腿には刃物が刺さっていた。


 そう、望を様子を気にかけていた倫太郎は、階段に潜んでいた鷹巨に気付かず。

体当たりされる形で軸足を刺されていたのだ。


「倫太郎!!

ちょっ、離して鷹巨っ!」


 そう抵抗する望に、鷹巨が怯んだ瞬間。


 追い掛けて来た倫太郎が、グッと望を抱き寄せて。

鷹巨を踊り場に蹴り飛ばした。


 と同時に、軸足に激痛が走り。

倫太郎もその場に崩れる。


「倫太郎っ!」

当然望はそっちを心配すると。


「戻るぞっ」

今度は倫太郎から腕を引かれる。


 そして階段を抜けながら、鷹巨を振り返ると。

ショックの表情を浮かべていて……

それが望の胸に、ナイフのように突き刺さる。


 だけどそれどころじゃなく。


「倫太郎!血がっ……」


 無理して動いたせいか、通路に赤い線を作っていた。


「救急車呼ばなきゃ……

待って携帯が!」


 それは最近倫太郎が買ってくれたもので、入れていたバックごと階段に落としたと気付く。

それどころか倫太郎の携帯も、倒れた場所に落ちていて。


「ねぇ待って倫太郎っ」

「いいから入るぞっ」

なのに強引に、解錠した扉の中に押し込まれる。


 それから靴のまま、リビングに連れて行かれて……

そこで倫太郎が倒れ込む。


「倫太郎っ!」


「望っ、大事な話がある」

ガシッと、離れた手がすかさず望の手首を掴んだ。


「それより救急車!

お願い離してっ」


「今(外に)出たら危ねぇだろ!

それに、救急車じゃ出来ない話なんだ」


「知らないわよっ、そんな話どうでもいい!」


「いいから聞けよっ!

頼むからっ……」

激しく怒鳴った後、切実に懇願すると。


 望が怯んだ隙に、話し始める倫太郎。


「ほんとは口止めされてんだけど。

俺は、天才ハッカーなんかじゃないんだ。

ただの使いっ走りで……

ほんとのハッカーは、望のバディは、最初からずっと仁希さんだったんだ」


 耳を疑う内容に……

思考が停止する望。


「なに、言ってんの……

はっ?意味わかんないだけどっ……」


「だからっ……

3年半前、仁希さんはアンタが黒詐欺やってんのを見つけて。

自分のせいだと思って、罪を回収しようとしたんだ。

けど組織にバレないようにするには、入念な工作が必要で……

その間アンタを守るために、俺が買われたんだ」


「……買われた?」


「ん、(毒女の)落とし前ん時に使った人身売買サイトがあったろ?

俺はあそこで売られてたんだ。

昔っからケンカばっかしててさっ。

ヤバいとこにケンカ売ったら、女と一緒に拉致られて、一緒に売られて……

そんな俺らを買ったのが仁希さんで。

俺の女を助ける代わりに、望を守るのが条件だったんだ」


「待って、頭が整理出来ないしっ……」


 こうしてる間も、出血はどんどん広がっていて……

倫太郎は蒼白になっていて、冷汗もかいていた。


「今はそれどころじゃないっ、離してっ!」


「最後まで聞いたら離してやるよ!

それまで絶対離さねぇ」


 ケンカに明け暮れて、散々修羅場をくぐって来た倫太郎は……

自分の今の状態が、ヤバいのを察していて。


 もしこのまま死んだら……

望にとって重大な真実が、永遠に闇に葬られてしまうと。

仁希からの口止めを破ってでも、言わずにはいられなかったのだ。


 どうにもならない状況に、望はボロボロと涙が零れ出し……


「じゃあ、止血だけさせてっ」

そう思いついて。


 足の付け根が効くんじゃないかと、そこを片手で強く押し始めた。


「……その代わり、ちゃんと聞けよ?」

そう言って倫太郎は、今までの事を思い返した。




「なんで俺を?」


「まぁ決め手は、何でもするから女助けろって喚いてた事かな。

黙れってボコボコにされても、全然引き下がんなかったし。

頭悪いけど根性あんな〜って」


「っせーな、俺が巻き込んだんだから当然だろ」


「そういう義理堅いとこもだよ。

あと、めちゃくちゃ喧嘩強いんだってな?

お前の事は色々調べさせてもらったよ。

誰も信用しない一匹狼だから、情報が漏れるのも最小限に防げるし。

なりより、女っていう人質がいるし?」


「どういう意味だよ」

仁希を睨む倫太郎。


 親からも誰からも愛されず、邪魔者にされてきた倫太郎は……

誰にも心を許せず。

自分は要らない存在なのに、何で生まれてきたのかとずっと思ってきた。


 そのためいつ死んでもいいと、喧嘩に明け暮れ……

言い寄ってくる女とヤるためだけに付き合っては、すぐに終わりを迎えていた。


 だけどその女だけは、そんな倫太郎でも愛想を尽かさず、いつも助けてくれていて……

愛を知らない倫太郎が、心を許し始めた矢先。

今回の事態に巻き込んでしまい。

どんな事をしても、今度は自分が助けたいと思っていたのだ。


「お前には、ある女詐欺師を守ってもらう。

そしたらお前の女も助けてやるよ」


「……なんで自分で守らねんだよ」


「関われない事情があるんだ。

お前だって、もうその女を自分に関わらせたくないんじゃないのか?」


 それは図星で……

倫太郎はもう二度と、こんな自分に巻き込みたくないと思っていた。


「……守るって、ボディガードか?」


「それもあるけど。

天才ハッカーのフリして、バディになってもらう」


「はっ?

いやムリだろ、パソコンとか触った事ねぇし」


「お前らにいくら払ったと思ってんだ?

基礎知識と高速タイピングだけでいいから、死ぬ気で身に付けろ。

あとは俺が処理するし、お前用の検索ツールも作っとくよ」


「そんなんで誤魔化せんのか?」


「心配ない、彼女も一匹狼タイプだ。

ほとんど干渉してこないだろう。

もし目の前で作業する事になっても、その検索ツールである程度なんとかなるし。

無理なら理由をつけて、調べとくってかわせばいい。

あと俺の手が空いてたら、これで指示するからその通りにやればいい」

と、ワイヤレスイヤホンを露呈した。


「それでバディを組んだら、GPSで常に彼女の動向を見守ってもらう」


「常に?

そこまでする必要あんのかよ。

そんな事したって守れるとは限らねぇし、そんな仕事じゃ危険は避けて通れねぇだろ」


「それでも……

出来る全てで守りたいんだよ」


「……そこまでそのオンナが大事なのかよ」


「大事だよ。

人生で唯一。

だから、もし手ぇ出したら……

お前もお前の女も殺す」


 もちろん脅しだったが……

長年裏の世界で生きてきた男のそれは、本気と思わせるには充分だった。


「……出さねぇよ、人のオンナに興味ねぇし。

別に命なんか惜しくねぇけど。

アンタに買われなかったら、俺たちはきっと生きながら死んでた。

だから、アンタのためにこの命使ってやるよ。

その代わり、アイツを絶対助けろよ?」


「それはお前の行動次第だ。

そのために、四六時中見張らせてもらう」


「……アンタ暇人?」


「はは、お前と一緒にするな。

盗聴器を仕込んで、こっちのタイミングで探らせてもらう。

つまり、変な真似したらすぐにバレるって事だ。

でも逆に、ちゃんと守ればお前の女も守ってやるよ。

悪くない話だろ?」


 さらに仁希は……

バディで得た分け前は回収するが、相応の報酬は支払うと約束する。



 それから倫太郎に、保険証を作らせ免許を取らせると。

盗聴器を仕込んだ住居と車と携帯を用意したのだった。




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