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虹色アゲハ  作者: よつば猫
ウスバアゲハ
35/41

 その夜。


「ねぇ倫太郎、今日から一緒に寝ない?」


 ゴフッと、風呂上がりのビールをむせる倫太郎。


「はあっ?

俺はソファの方がいいっつっただろっ」

だから最近はずっとソファで寝ている、といった理由で望にベッドを譲っていたわけだが……


「そんなの私を気遣って言っただけでしょ?

ここに来た時、携帯の充電器は寝室にあったわよ?」


 最初から気付いてはいたものの。

倫太郎の事だから代わってくれないと思い、素直に甘えていたのだ。


「っせーな、いいからオマエがベッド使えよ」


「よくないわよ。

何でもしてくれるんでしょ?

だったら一緒に眠ってよ」


 そう、今ならそれを口実に聞いてもらえると思ったのだ。


「オマエっ……

あぁも、だったら離れて寝ろよっ?」


「……シングルでどう離れるのよ」




 そうして、その時を迎えると。


「望、寒くないか?」

優しく布団をかける倫太郎。


「大丈夫。

……ねぇ、この前からなんで本名呼ぶの?

今まで一度も呼ばなかったくせに」


「それは……

もう足洗ったから、呼んでいいかなって。

……イヤか?」


「ううん……

ねぇやっぱり寒いから、抱きしめてくれない?」


「はっ?

ったく、仕方ねぇな」


 そんな理由じゃ断るわけにもいかず。

なにより、やたらと甘える望が可愛くて。

そして、そんなに弱ってるのかと心配で。


「腕枕でいいか?」

そう腕を伸ばすと。


 頷いて、少し身体を起こした望は……

そのまま倫太郎に口づけた。


 すると瞬時に、望の視界が反転して。

抑え切れなくなった倫太郎から、またもや唇を奪われる。


「ふっ……

んっ、ん……んんっ……」

押し倒されたような状況と体勢の相乗効果で、いっそう感じて嬌声を漏らす望。


 歯止めが効かなくなりそうだった倫太郎は……


「声我慢しろよ……耳障りっ?」


「はあっ?

あんたみたいな失礼ヤツ初めてなんだけど。

よくそれで大事とか言えるわね」


「っせーな……

じゃあしなきゃいいだろ」


「っ、するわよ。

我慢すればいんでしょっ?」

ムカつきながらも、倫太郎とキスしたい気持ちが勝ってしまう。


「……声出したらやめるからな」

そう突き放すも。


 そのキスは相変わらず愛しげで……

もどかしそうに唇を絡ませては、苦しそうに荒い吐息を漏らしていた。


 望は何度も襲ってくる甘い波を我慢して、ぎゅうっとシーツを掴むと。

その手に倫太郎の指が絡んで、堪らず「ふっ……」と声を漏らしてしまう。


「っっ……

終わりなっ?寝るぞ」

約束通りサクッと切り上げる倫太郎に。


 今は弱ってるからキスしてくれるだけで、やっぱり自分はそういう対象じゃないんだと、落ち込む望。


 その証拠に。

倫太郎のキスは唇を絡めるだけで、決して舌を入れようとしなかった。

望が入れようとしても、上手くかわされていたのだ。


 とはいえ、それからも2人は度々キスを繰り返した。




 だけど数日後。


「ねぇなんで舌入れてくれないのっ?

いつもそう?」


 いいかげん焦れったくて、ほんとは身体も上書きして欲しくて、思い切って尋ねると。


「まぁ……潔癖だから?」


「またそれ?」


「っせーな、これでも大事にしてんだよ」


「えっ……

それで手を出さなかったの?」

思わず胸が騒めくも。


「あぁも知らねぇよっ」


「なんなのよ……

じゃあ次する時は入れてよ。

何でもしてくれるんでしょ?」


「はあっ?

どんだけそれに付け入る気だよ……

ったく、これで最後だからなっ?」


 でもその約束のせいか、それからキスを避けるようになった倫太郎に……

望はますます落ち込んでいった。





 そんなある日。

用事があると言って出掛けた倫太郎。


「まだモノにしてないんだ?

お前ヘタレだな〜」


「ふざけんなよ!

望はオマエの事っ、」


「ふざけてないよ」

強い目と重い口調でそう制す。


「そうだ、お前の女だけど。

この前結婚が決まったよ」


「え……

……そっか。

つかもう俺のオンナじゃねぇし」



 それから、話を終えた倫太郎は……

遣り切れない気持ちで帰宅すると。


 いい匂いがして、キッチンに急いだ。


「あ、おかえり。

待ってる間落ち着かなかったから、冷蔵庫のもの使わせてもらったわよ?」


 家族のように出迎えられた事もそうだが……

元気を取り戻したような行動に、嬉しくてたまらなくなる。


「好きに使えよ。

生姜焼き?」


「と、洋風茶碗蒸し。

もう出来るから、ご飯よそってくれる?

あ、ちゃんと手ぇ洗ってね」


「ガキ扱いすんなよ」

と言いながらも、顔がほころぶ。



 そして、例のごとく幸せそうに食べる倫太郎を見て……

本当に、少し元気を取り戻す望。



「ところで、オマエの金なんだけど……

わかる範囲で調べたら、まだ揚羽の口座(水商売の金)には手ぇ付けられてなかったから、取り戻していったん俺の口座で預かってる」

久保井を思い出させる内容のため、言いにくい思いで告げると。


「それで、当分の生活はなんとかなるだろ?」


「……うん、ありがとう。

でももうあのマンションは解約しようと思ってる」


「……じゃあ、このままここに住むか?」


「いいの?」


「俺が面倒みるっつったろ?

好きなだけ居ろよ」


「っ……

そんな事言ったら、もう出て行かないかもしれないわよ?」


「……ん、そうしろよ」


 見つめる切れ長の大きな瞳が、切なげに愛しげに形どられ……

望はぎゅうっと胸を締め付けられる。


 そこでハッと、甘い雰囲気を打ち破る倫太郎。


「とにかく、オマエがもう少し元気になったら仕事探すよ」


「えっ、じゃあハッカーの仕事はもうしてないのっ?」


「まぁ……

つかいい機会だから、俺も足洗おうと思って。

これからはカタギんなって働くよ」

そう言われて。


 やっぱり自分のせいで、その仕事に悪影響を及ぼしたんだと。

ショックを受ける望。


「そんな顔すんなって。

オマエのせいじゃねぇから。

むしろ、オマエのおかげ?

俺もいつまでも、犯罪者やってらんねぇし」


「なら、いいけど……

じゃあ私も仕事探す。

……いいかげん、前向かなきゃね」


 その言葉に、嬉しくなる倫太郎。


「あと、取り戻してくれたお金なんだけど……

鷹巨の手切れ金が入ってるはずだから、返金しといてもらえない?

あるうちに返しときたくて」


「ん、明日やっとく。

じゃあ俺、風呂入ってくる」


「待って、私も一緒に入っていい?

背中流してあげる」


「はあっ!?

何考えてんだよっ、バカじゃねぇの?」


「別にいいじゃない。

恥ずかしいの?」


 理性が持たねぇからだろ!

と思いながらも。


「っせーな」


「ふふ、可愛い」

その言葉に。


 さすがにガキ扱いしすぎだろと、カチンとくる倫太郎。


「誰が可愛いって?」

望の顎をクイと持ち上げて、見下すと。


 途端、胸を思い切り掴まれて。

それが顔に出てしまう望。


 それを見た倫太郎も胸をやられて。

2人して、胸を痛くしながら見つめ合う。


 だけどまた倫太郎が……


「とにかく、1人で入る」

そう甘い雰囲気を打ち切ると。


「今の状況でも、キスしてくれないんだ?」


「はっ?

……そんな場面じゃなかっただろ」


 そう、次は舌を入れる約束をしたため。

そんな事をしたら理性が抑えられないと、それから逃げていたのだ。



 でもそうなると、さすがに望もショックを受けて……

その夜は、背中を向けて寝ようとすると。


「あぁも!」

当然ほっとけなくて、腹をくくる倫太郎。


 ぐっと望を仰向けて、頬を掴んで顔を近づけると。


「もういいわよ!

無理しなくていいからっ。

私じゃそういう対象に見れないんでしょっ?

今までごめっ、」


「わけねぇだろ、少し黙れよ」

そう唇を塞いで。

グイと口内に舌を押し入れた。


 その瞬間、ぐわあと感覚が抉られて。

口内に溶け込む倫太郎の感触に……

望の身体は、どうにかなりそうなほど快楽に蝕まれる。


 当然、嬌声を我慢出来なかったが……

倫太郎も我慢の限界で、やめる事が出来ずにいた。


 抱きたくて、もうおかしくなりそうで。

でもヤケになってる望を後悔させたくなくて。

色んな感情に苛まれて……


「……っっ、今日はここまでなっ?」

死に物狂いで押し殺す倫太郎。


 だけど、口内に残る感触に悶えて……

2人して眠れない夜を過ごしたのだった。




 それからも、その先に進む事はなかったが……


「じゃあ寝るぞ?」


「っ、もう1回」


「っっ……

あと1回だけな?」


 狂いそうになりながらも、そうやって慰め続けた倫太郎の忍ぶ愛で……

望の心は癒されていった。





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