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虹色アゲハ  作者: よつば猫
ウスバアゲハ
33/41

 翌日。

甘い余韻に包まれて、目を覚ますと。

隣に仁希の姿はなく。


 トイレだろうか?と身体を起こした望は、クラクラして……

片手で頭を抱えて項垂れた。


 きっとイキすぎたせいだと、恥ずかしくなりながら、ベッドから抜けようとしたら。


「えっ……」

目を疑う光景が映り込む。


 クローゼットと、その中にある金庫が開いていたのだ。


 フラフラしつつも、慌てて側に駆け寄ると。

金庫の中は、両方とも空っぽで……

望は一気に血の気が引く。


 だけどすぐに。


「仁希!?

仁希どこっ!?」

その人が内容を確認しているのだと。


 思ったところでハッとする。

金庫の鍵も暗証番号も、自分しか知らないからだ。


 じゃあいったい……

混乱しながらも、服を着てとりあえず仁希の姿を探しえみるも。

ベランダにもマンション内の通路にも、どこにも見当たらず。


 連絡しようにも、逃亡中の仁希は何も携帯しておらず。

念のため、以前の番号にかけてみようと思い立つが……

そこで、自分の携帯も全て失くなっているのに気付く。


 嘘、どういう事!?


 まさかPCも!と、すぐにそれを確認すると。

案の定、使えなくなっていて……


 頭が真っ白になった望は、茫然とその場に崩れた。



 組織に押し入られたにしては、部屋にそれらしい形跡はなく。

自分が起きなかった状況からも、仁希の仕業に思えたが……


 金庫の鍵や暗証番号、そしてPCのパスワードはどうやって?と。

しかも寝ていたとはいえ、持ち主の傍で探るだろうか?と。


 なんとか頭を回転させて、不審な点を思い返すも……

なぜか記憶が、ところどころ不透明で。


 ようやく、失神前に仁希が何か言っていたのを思い出す。


 なのにその言葉は出てこなくて……

代わりに、その時腕に刺されたような痛みを感じた事を思い出す。


 まさか!と、時計に目を向けると。

時刻は15時を過ぎていて。


 そんな時間まで寝ていた事や、ふらつきや記憶障害が起きてる事から。

睡眠薬を注射されたと察した望は……

恐る恐る覗いたゴミ箱に、それを見つけて青ざめる。


 待って嘘でしょ……

息が出来ないっ!


 確かにそれなら、持ち主の傍でも気にせず探れる。

だけど鍵を探した形跡はなく。

番号なども簡単に見破られるはずがないと、否定ししながらも。


 どこかに監視カメラでも仕掛けられていたんじゃ?と、思わず辺りを見回して。

ドクンと、あるものに思い当たる。


 そういえば、あのネックレスはどこにっ……

それがただのネックレスなら、置いて行っても問題はないはずで。

なのにどこにも見当たらず。


 不自然な大きさといい、内部に極小カメラが仕込まれていたんじゃないか察知する。


 それを裏付けるように……

外されたのはその役目を終えた後で、望が手に取る前で。

しかも実に巧みな流れで、気付かれずに回収していて。


 相手は抜かりない詐欺師だ。

恐らく勝負を持ち掛けてきた時には、こっちも詐欺師だとバレていたんだろう。


 そこまで考えが及んだところで、望は悟った。

二重詐欺にあったのだと。


 そう、一度詐欺被害にあった人は、それをネタに騙しやすく狙われやすい。

そう合点がいった瞬間。


「ふっっ……ううっ」

嗚咽が零れた。


 結局、自分は……

いつまで経っても、どこまでいっても、そういう対象でしかないんだと。


 愛した人に、同じ人間に……

二度も裏切られて、二度も全てを奪われるなんてと。


 消えてしまいたいほど、自分自身に失望する。



 全ての詐欺データやそれに伴う偽造書類。

全ての通帳や印鑑も、携帯やPCも。

そして、手に入るはずだった幸せも。

そう……


 私は鷹巨まで裏切ったのにっ!

胸が激しく抉られる。


 心も身体も裏切って、あんな男に奪われてっ……


「っああああああああ!!」


 抱かれて気持ちよくなってた自分が許せなくて、頭を抱えて発狂の声をあげた。


 なんで私なのよ!

ねぇ私が何かした!?


 私のせいで逃げられなくなったからっ?

けどその話もどこまで本当かわからなかった。

なぜなら仁希は、終始ほとんど目を合わさなかったのだ。


 食事中やソファで横並びだったため、昨日は違和感程度にしか感じなかったが……

絶妙に極自然に視線が外されていたと、今さら気づく。


 もう何もかも信じられなくて。

何もかもが嫌になって。

苦しくて苦しくて、心が壊れそうで……


 なんでこんなに苦しめるのよ!

だったらいっそ、ひと思いに殺してよっ。


 この約12年もの間。

人生を諦めながらも、必死に絶望から這い上がってきたのに……

再び絶望に突き落とされて。

望はもう、生きるのにうんざりしてしまったのだ。



 だからといって。

両親が生きた証を、形見である自分の命を、自ら奪う事など出来なくて……

代わりに辺りの物を、泣き叫びながら壊し始めた。


 信じてたのにっ……

全部捨てようとしたのに!

途端。


ー「けど逆に、揚羽ちゃんが俺に落ちたら……

恨みっこなしで、今までの人生捨ててくれる?

そんで、全部俺がもらおうかな」ー

その言葉が浮かんで。


 それに触発されて、失神前の不透明だった記憶が甦る。


ー「約束通り、今度こそ恨みっこなしだから」ー


 そういう、事か……

つまり勝負は続いていて、落ちた望が負けたのだ。


 それで携帯やPCまでもが、約束通り全部奪われたのかと腑に落ちる。


 だからって、そこまでする必要がある?

ここまで追い詰める必要があるっ?

その場にぼろぼろと泣き崩れた。



 かろうじて住居や生活必需品等は残ったものの。

財布に残っているお金しかないため、一時しのぎにしかならず。


 夜の仕事で前借バンスしてもらおうにも。

揚羽の(・・・)携帯や通帳等も奪われていたため、その仕事も捨てざるを得なかった。


 そこまで約束を順守するのは、せめてものプライドだったが……

ここまで完膚なきまでに負ければ、抗う気も起きなかったのだ。


 そう、詐欺データを奪われた以上。

下手に違約すれば、さらに自分の首を絞めかねない。

なにより、バディだった倫太郎まで犠牲にしかねないと。


 だけど、これからどうすればっ……

途方に暮れながらも。

泣き暴れた反動と、強力な睡眠薬の後遺症で、ウトウト眠気に襲われる。



 ねぇ仁希……

全部奪うんなら、どうしてこの命も奪ってくれなかったの?

そんな思いの中、望は意識を手放した。





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