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虹色アゲハ  作者: よつば猫
トリバネアゲハ
32/41

「ほらもう泣かない。

こんなに望の涙をもらえただけで、俺はもう充分だから。

それでも気にするんなら……

せめてこの行き場のないネックレス、もらってくんない?」

優しく覗き込む仁希に。


 泣きながら、コクンコクンと頷いた望は……

ふと、それを逆手に取ろうと思い立つ。


「じゃあ、付けてくれる?」

そう気持ちを整えると。


 首に付けられたそれを、ぎゅっとして。


「悪いけど。

これを受け取ったからには、嫌でも一緒に逃げるから」‬

そう覚悟の目で訴えた。


 すると仁希は、吹き出すようにしてそれから逃れて。


「聞き分け悪いよ、望。

話聞いてた?」

と、呆れた素ぶりを見せる。


「仁希こそ。

いいかげん、1人でカッコつけるのやめたら?」


「じゃあ一緒に死のうって言って欲しい!?

捕まる可能性の方が高いのにっ」


「助かる方法はあるはずよ!?

お金でなんとかならないのっ?」


「ならないよ。

俺は組織の情報を知りすぎてる。

それに義理とはいえ親父を、しかも2度も裏切るとなると、相応の処分は避けられない」


「警察はっ?

この際自首して、警察に匿ってもらえばいいじゃないっ」


 そうなれば実刑は免れないが、命には変えられないと思ったのだ。


「無理だよ。

かなり大きな組織って言ったろ?

警察内部にも仲間がいるし。

上手く処理されるだよ」


「じゃあ海外に逃亡すればっ……

そこで透析を受ければバレないんじゃないっ?」


「うん、さっき当てはあるって言っただろ?

もうその手配はしてるんだ。

ただ、無事に出国出来ればの話だけど」

状況の厳しさを訴えるように、深刻な目で見つめる仁希。


「……でも、他に手段はないんでしょ?

だったらやるしかないじゃない。

それに、たとえ捕まっても……

今度は私が守ってあげる」


「どうやって?」

鼻で笑われたものの。


「私も組織に入るわ。

一緒に逃げた分倍返しで働けば、命のは見逃してもらえるんじゃない?」


「……うん、望ならそう言うと思ったよ。

だから余計!

組織の事を話せなかったんだっ」


「だったらなんで今さら言うの!?

ほんとは放棄なんかしてないからじゃないっ?

一緒に逃げたいからじゃないっ!?」


「……ごめん。

そうなんだろな、きっと」

仁希は泣きそうな顔で笑った。


「だったら……

どこまでも付いてってあげるし、どこまでも堕ちてあげるわよ」


「でもそんな生き地獄味あわせたくないしっ……

望に組織の仕事は無理だよ」


「やってみなきゃわからないじゃないっ」


「わかるよ。

望は、人の痛みがわかる優しいコだから」


「勝手な妄想しないで!」


「じゃあ聞くけどっ。

信じて保証人になったせいで、逃げた彼氏の借金背負わされたコを。

風俗で壊れるまで働かして、使えなくなったら臓器売って、最後は入らせてた死亡保険で金取れるっ?」


 さすがにそんな事、出来るわけないと……

望は思わず言葉を失う。


「そんくらい余裕でこなしてかないと、到底見逃してもらえないよ。

そのコが可哀想じゃなくて、そのコでいくら稼げるかしか考えないようにならないと」


「他の方法で稼いでやるわよ」


「他の方法って?」


「詐欺よ。

今まで隠してたけど、私も犯罪者なの」


 途端、仁希はぷはっと吹き出した。


「まぁ確かに、水商売も詐欺みたいなもんか。

そんでお偉いさんの弱み握って、恐喝でもしちゃった?

そんなおままごとじゃ通用しないよ」


「待ってて!」

馬鹿にされてカチンときた望は、そう言い捨てて寝室に向かった。



 そして詐欺関連のものを保管している金庫と、通帳や印鑑を保管している金庫から。

それなりの内容が入ったUSBと、その通帳をピックアップして……

リビングに戻ると。


「これでもおままごと?」


 詐欺データをPCに開示して、通帳とともに仁希に見せた。



「え……

これ全部、望が?」

驚きの目を向ける。


「そうよ。

復讐代行のサイトを立ち上げて、これでもプロ相手に何年もやってきたのよ?」


「プロって……赤詐欺?」

画面をスクロールして、困惑する仁希に。


「だったらなに?」

しまった思いながらも、何の問題もないといったふうに、しれっと答えた。



 だけど。

「……ごめん。

俺のせいだよな……」


「どうして?

仁希は悪くないじゃない。

確かにあの事がきっかけにはなったけど。

今思えば、仁希と同じ世界に入って繋がりたかっただけかもね。

きっと、一緒に生きる(こうなる)ための必然だったのよ」

そうまとめて不敵に笑うと。


 仁希は観念した様子で溜息を零して、「望にはまいったよ」と苦笑う。


「じゃあ今度こそ、一緒に逃げ切るわよ?」


「もう日本に戻って来れないかもしれないけど……

今までの人生、全部捨てれる?」

真っ直ぐな目で、そう訊かれて。


 思わず、倫太郎も?と頭に過ぎる。


 そこだけは捨てられない望だったが……

もうすでに倫太郎とは、別の道に進んでいて。

なにより、そんな危険な世界に関わらせたくなくて。


「捨てれるに決まってるでしょ?」


「っっ、望……

……ありがとう」



 そうして2人は、逃亡計画を話し合うと……


「疲れたでしょ?

すぐお風呂溜めるわね」


「や、シャワーでいいよ。

けどもうちょっとゆっくりしたいから、先に入ってきなよ」


 そう言って仁希は、ネックレスを外してあげようとした。


「綺麗な首……

またキスマーク付けたくなる」


「あの時は胸元だったじゃない」


「うん、さすがに首は服で隠しにくいかなって」


「一応考えてたんだ?

でももう好きに付けていいわよ?」

寂しくなった首元をくるりと翻して、仁希を見上げた。


「あんな嫌がってたくせに?」


「あの時は恨んでたからっ……

仁希こそ、あんな強引だったくせに、なに遠慮してんの?」


「そりゃあショックで出来なくなるよ。

キスでも泣かれたしさ?」


 その割には小馬鹿に笑ってたじゃない……

そう思ってすぐ、それがショックを物語る反応だったと思い出す。


「……そりゃあ泣くわよ。

もっと仁希を求めてしまって、苦しくてたまらなかったもの」


 すると仁希は、今度は嬉しいショックできょとんと固まり。

次の瞬間、笑うのも忘れて望の唇を奪った。


「んっ、んんっ……」

胸が大きく波打って、身体がどうしようもなく溶かされる望。


 2人は約12年分を取り戻すように、激しく貪り続けると……

そのままベッドに流れ込んだ。




「望、愛してるっ。

死ぬほど愛してるよっ……」

うつ伏せた身体の一番奥に、深く深く刻み込む。


 自分はちゃんと愛されていたんだと。

こんなにも愛されていたんだと。

ポタポタと、背中に落ちる汗すら愛おしく感じながら……


「ぁっっ……ああっ!」

何度も何度もおかしくなるくらい絶頂を重ねていた望は、再びその大きな波に襲われて……

意識が飛びそうになる。


 その矢先、腕にチクリと痛みを感じたものの。


「約束通り、今度こそーーーーーーーーー」


 その声を聞きながら、意識の向こうに落ちていったのだった。





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