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虹色アゲハ  作者: よつば猫
トラフアゲハ
28/41

「……バカじゃねぇの?

オマエ何がしてんだよ……

ずっと犯罪者でいたいのかよっ」

ワイヤレスイヤホンを外して、真剣に諭す倫太郎。


「そうじゃないけど!

……新しいバディなんて作られたら、ここにも気軽に来れないし」


「はっ?

別に、来なくていいだろ……

つかもう来ないつってなかったかっ?」


「あれはっ……

売り言葉に買い言葉よ。

てゆうか、来なくていいってなに?

お互い命を預けて、ずっと一緒にやって来たのに……

バディじゃなくなったら、はいさよならなワケっ?

ねぇ私って、そんなに邪魔な存在だった!?」


 感極まって、思わず涙がポロリと落ちる。


「っ、邪魔なわけねぇだろ……

俺だって、売り言葉に買い言葉だよ」


 揚羽の涙に胸を貫かれながら、狂おしい思いで優しくなだめる。


「……私は何も売ってないけどね」


「っせーな。

とにかく、冗談だよ。

バディの事も。

また1から始めんのとか面倒くせぇし、オマエ以上のバディとかいるわけねぇし。

俺のバディはこの先も、ずっとオマエだけだから。

たとえオマエが足洗っても結婚しても、いつでもどこでも助けに行くし……

だから泣くなよ、なっ?」


「っっ、バカっ……」

もっと泣けてくるじゃない。


岩瀬あいつの事もっ、もし詐欺だったらぶっ潰してやるし。

どんな事しても守ってやるから……

安心して、プロポーズ受けてみろよ」


 そんな倫太郎の言葉に、胸を打たれつつも……


 改めて。

鷹巨の愛が本物なら、自分を愛してくれるのはその人しかいないんだと。

痛感する揚羽。


 そして倫太郎も……

揚羽が必要なのは天才ハッカーだけなんだと。

自分で仕向けながらも、もう手の届かない所に行くんだと。

それでも見守り続ける道を選んで、この先もずっと気持ちを押し殺し続けなければいけないと。

心でもがき苦しんでいた。



 それから2人は、鷹巨の気持ちを探る手段を話し合うと。


「じゃあ、どうなったか連絡しろよ?」


「ん……

色々ありがとう、倫太郎」


 倫太郎は、その姿を見送りながら……

行くなよ!と、矛盾した心が悲鳴をあげる。


 そしてバタンと扉が閉まると同時、胸がグシャリと潰されて。

この痛みに耐えられなくなる前に、いっそ取り出してしまいたいと。

衝動的に胸元に爪を立てたが、どうにもならなくて……


 電話が鳴り続けてるにもかかわらず、その場に座り込んで項垂れた。





 そうして日曜。

揚羽はプロポーズの返事をすると連絡し、鷹巨の家を訪れると。


「めちゃくちゃ会いたかった」

会うなりそう抱きしめられる。


「その割には……

しつこいあんたが大人しく待ってたわよね」


「そりゃあ、人生決める大事な事だから。

じっくり考える時間も必要だと思ったし。

それに……

連絡するの、怖かったから」


「怖かった?」


「うん……

俺はOKしてないけど、もう別れてるって言われたらどうしようって」


「へぇ……

しつこいあんたが、それで引き下がるんだ?」


「引き下がらないけど!

やっぱ、傷付くよ……」

切なげに呟く鷹巨が。


 いじらしくて愛しくて、揚羽は思わず抱き返した。


 やっぱり詐欺とは思えない……

だけど確かめないわけにはいかなくて、すぐに腕を緩めると。

閉じ込めるように、一層ぎゅっと抱き締められる。


「離したくない、一生」


「鷹巨……」

胸までぎゅっと締め付けられながらも。


「その事だけど、」

さっそく本題を切り出すと。


「ごめん、こんなとこだし部屋で話そっか」


 もっともな理由で、出足を挫かれる。



 さらに。


「まず返事の前に、これを受け取って欲しいんだ」

先に鷹巨の要件が提示される。


「なにそれ……」

紙袋に入ったそれを確認すると。


 中身は10㎝ほどの札束で。


「なんの真似?」

揚羽は怪訝な視線をぶつけた。



「手切れ金。

一千万入ってる。

ほら前に、足洗おうとしたコが組織に潰されたって言ってたから。

これくらいあれば、無事にやめれるかなって。

足りなかったら言って?3千万までなら出せるから」


 そこまでして私をっ……

詐欺どころか、逆にそんな大金を惜しみなく差し出す鷹巨に。

衝撃を受けて、目頭が熱くなる。


「っっ、残念ね。

そこまでバカとは思わなかったわ……

ねぇ知ってる?

そんな大金チラつかされたら、たとえ恋愛対象でも詐欺対象に変わるのよ?

受け取ったら最後、あんたの前から消えるわよっ?」


 鷹巨は悲しげに、ふっと笑うと。


「うん、そうして?

そうでもされないと俺、一生諦め切れないからさっ……

聡子が本気で別れたいなら、俺との手切れ金にして奪っていいよ」


 思ってもない答えに……

堪らず揚羽は嗚咽を零す。


「だからこのお金は、どっちの返事にも必要だから……

ちゃんと受け取って?」


「っ、こんな事されても!

私はあんたを信用出来ない。

あれから色々考えて、やっぱり素性は晒せないって判断したのっ。

だから……

たとえ足を洗っても、事実婚って形でしか応えられないわ」


 こんな持っていき方になってしまったが、それは倫太郎と話し合った手段で。

それなら鷹巨への悪影響も、最小限に防げると踏んだのだ。


 だけど当然、1千万も払ってそんな形で納得出来るはずもなく。

鷹巨は「えっ」と固まった。


 やっぱり詐欺か……

それともショックなだけ?

一千万の登場で、判断に支障をきたすと。


「え、それって……

別れないって事?

足は洗ってくれるって事?

籍は入れなくても、奥さんになってくれるって事っ?」


「……まぁ、言い方を変えればね」


 その瞬間、揚羽はきつくきつく抱き締められる。


「ありがとうっ……

俺、後悔させないから。

絶対、幸せにしてみせるからっ」


「っっ……

事実婚で、いいの?

ご両親は?周りはそれで納得するのっ?」


「納得させるよっ。

俺の人生だし、幸い二男だし、説得に長けてるやり手営業マンだし!」


「バカっ……

そこまでして、どうして私なのよっ」


「そんなの、愛してるからに決まってるし。

俺は聡子を信じてるからだよ」


「っっ、鷹巨っ……」

そんなに愛してくれるなんて……


 ぶわりと涙を零しながら、ぎゅっとぎゅっと抱き返した。


「愛してるよ、聡子。

すごく、すごく……

無事にやめれたら、結婚指輪買いに行こう?」


 揚羽は泣きながら、コクンコクンと頷いた。



 結局、詐欺ではないと判断したものの。

毒女との繋がりが皆無とは限らないため。

今はまだ、組織の事を嘘だと明かすわけにはいかなかった。


 そうなると建前上、手切れ金が必要になるが……

後の会話で、自分で払うと説得したにもかかわらず。

「俺が(詐欺師をやめてと)頼んだんだから、ケジメをつけさせてほしい」と押し切られてしまい。


 仕方なく揚羽は、いつかカミングアウト出来る日までそのお金を預かる事にした。





 そうして後日。

倫太郎に電話して、事の経緯いきさつを報告すると。


『っ、よかったなっ。

……幸せに、なれよ』

どこか泣きそうな声で言われ。


 自分の事のように喜んでくれているんだと。

切なさや色んな感情が込み上げて……

揚羽まで泣きそうになる。


 だけどその気持ちに応えるためにも、幸せにならなきゃと。

決心がつく。


「ありがとう……

だから私、もう足を洗うわね」


 それはつまり、久保井の件からも手を引くという事で。


 そう、鷹臣なら……

仁希への執着も復讐心も、忘れさせてくれるんじゃないかと。

そしてその愛に応えるためにも、手を引くべきだと考えていたのだ。


 とはいえ。

倫太郎に会ったら気持ちが揺らぎそうだと思い、電話で告げたのだったが……


『……ん、そうしろよ』


「うん……

今まで本当に、あり」


『あーも辛気臭ぇ事やめろよ、メンヘラ?』


「はあっ?

あんたっ……」

いつものやり取りに胸が詰まって、言葉も詰まって。

電話でも後ろ髪を引かれてしまう。


「もうっ……

落ち着いたらその減らず口に、生姜焼き突っ込みに行ってあげる」


『バーカ、これからは旦那に作ってやれよ。

けど、なんかあったらいつでも助けてやるから……

そん時は連絡してこいよ?』


「っ、もおっ……

あんたが辛気臭くしてどうすんのよっ」

泣きながら怒ると。


『ははっ、知らねぇよ』

倫太郎は泣き笑いで送り出した。



 揚羽は、最後にその無邪気な笑顔を見たかったと思いながら……

その電話を終えたのだった。





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