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虹色アゲハ  作者: よつば猫
トラフアゲハ
27/41

「……なに、言ってるの?

私は詐欺師なのよ?

一般人のあんたとは、住む世界が違うのよっ?」


 動揺して、噛み合わない答えを返す揚羽に。

鷹巨はふっと優しく笑う。


「だからそんなのやめて、これからは同じ世界で一緒に生きよう?」


 それは……

人生を諦めていた揚羽には、考えもしない事だった。


「無理よっ、どうかしてる……

犯罪者なのよっ?

今さら普通に生きれるわけがない。

たとえ足を洗っても、罪は消えないし。

鷹巨の人生がめちゃくちゃになるかもしれないのよっ?」


「だったらまた1から始めればいいし、罪だって一緒に背負うよ?

言ったじゃん、俺……

聡子さえ残ってくれればって。

そしたら何でも頑張れるよ」


 ぼろっと、揚羽の瞳から涙が溢れる。


「だから聡子じゃないのにっ、バカじゃない!?

素性もわからない女と結婚考えるなんて、バカにも程があるっ……」


「そんなの籍入れたら嫌でもわかるし、知ったところで何の保証にもならないよ。

どれだけ立派な家柄でも、どんなに堅実に生きてきた人でも、実際何が隠れてるかわからないし。

俺は自分の目で見て、心で感じたのものを信じたいんだ」

そう優しく涙を拭う鷹巨。


「……その結果騙されたくせに?」


「あの時(元カノ)はっ……

別に結婚とか考えてなかったから、色々気にしてなかっただけだし。

仮に騙されても、聡子ならいいよ?」


「っ、お断りよ。

あんたみたいなバカ、騙す価値もないし……

もう付き合い切れないわ」

顔を背けて、そう別れを突き付けると。


 小さく震えてるその身体を、鷹巨は優しく抱きしめた。


「じゃあなんで泣くの?

それに、気付いてる?

断る理由が、俺を気遣う事ばっかで。

俺じゃダメって事は、一つも言ってないって」


「もぉうるさいっ……

とにかく、無理なもんは無理だからっ」


「そんな理由じゃ諦められないし、別れもOK出来ないよ」

くすくすと笑う鷹巨。



 涙のわけは、揚羽自身もわからないでいた。

だけど、鷹巨の気持ちが嬉しくてたまらなかったのは確かだった。


 そして、一瞬夢を見てしまった。

こんな自分でも、普通の幸せが手に入るんじゃないかと。


 この復讐の渦から、汚れきった自分から……

脱皮して、もう一度生まれ変われるんじゃないかと。


 そのため、はっきり断れなかったのだ。


 そんな揚羽を抱きしめながら……

鷹巨はずっと、その髪を撫で続けていた。





「はぁ……」

倫太郎の家で食事の最中、もう何度目かのため息吐く揚羽。


「……なんか、あったのか?」

プライベートな事だと思い、何も訊けずにいた倫太郎だったが……

痺れを切らして問いかける。


「……まぁ、ちょっとね」

心ここにあらずな様子でそう答えると。

少しして、またため息を零した。


「あぁも!言えねんなら人んち来てまで溜息吐くなよっ。

せっかくのメシが不味くなんだろ」


「せっかくのって……

私が作ったんだからいいじゃない」


「だからっ……

そんな時まで作りにくんなよ」


 久保井の件が滞ってから、揚羽は3日に1度のペースで作りに来ていた。


「だって作りにでも来なきゃ……」

会う理由ないし、と思いながらも。


「寂しいでしょ?」

そう続けると。


「はあっ!?誰がだよっ。

むしろプライベート邪魔されるこっちの身にもなってみろよっ」

倫太郎は図星を誤魔化すため、つい言い過ぎてしまう。


「……あっそ、そんなふうに思ってたんだ?

じゃあもう来ないわよ。

プロポーズされたし」


 途端、むせて吹きこぼす倫太郎。


「もう何やってんのよ」

ついまた拭こうとしたが……


「自分でやるからいいって!」


「でも取れてないわよ?」

ふふっと笑いながら、親指でその唇のソースを拭うと。


「だからやめろよ!」

感情を押し殺すのに精一杯だった倫太郎は、バシンと強く払い退けてしまう。


「あ、わり……」


「ううん、そうだったわね。

けど、あんたってどこまでも私の事拒否るわよね」


「別に拒否ってねぇし……潔癖症?」


「部屋こんななのに?」


 いつも大雑把に掃除されていて、お世話にも綺麗とは言えなかった。


「っせーな。

つかプロポーズってなんだよ。

オマエらまだ付き合って1ヶ月くらいだろっ。

しかもあいつ一般人だろ?」


「そこなのよ。

一般人が、それもあんな完璧なエリートが、こんな犯罪者にプロポーズするなんて……考えられる?」


「なんか裏がありそうだな」


「そっち!?

じゃなくて、そこまで愛してくれるなんて凄くない?って話よ」


 すると、呆れた顔を向ける倫太郎。


「なによ?」


「いやそれ、まんま結婚詐欺の手口だろ。

やたら良いヤツ演じて、短期勝負で尽くして、こんなに愛されてると思わせて……

なにどっぷり術中にハマってんだよ」


 言われてみれば、と思いながらも……


「まさか、だって相手は何もかも身バレしてるのよ?」


「それがなんだよ。

実際、表の顔で詐欺してるヤツもいるし。

まだあの女(毒女)と繋がってたら、また捨て駒やってる可能性もあるし。

アンタ金あるし、結婚が難しい仕事だし?

1度はあの男に騙されてるし。

絶好のカモじゃん」


「だからって!この私がお金の無心に応じると思うっ?」


「金目的じゃなかったら?

例えば戸籍とか、アンタの情報が欲しかったら?

それで復讐企んでる可能性だってあんだろ」


 でも鷹巨に限って……

そう思った瞬間、青ざめる。

まさしくそれは、この前の柑愛や赤詐欺被害者の考えだからだ。


「しっかりしろよ、オマエ騙す側だろ」


「そうだけどっ……

私だって人間よ?

幸せを夢見ちゃいけないのっ?

愛されたいって思っちゃいけないのっ!?」

愛なんて信じてなかったはずなのに、思わず感情的になる揚羽。


「だったら!」


 俺が誰よりも愛してやるよ!

慌ててその言葉を飲み込んだところで、ハッとする。


 同じ犯罪者の自分じゃ……

こんな何もない自分じゃ……

鷹巨が与える幸せの足元にも及ばないと。


「だったら……

なんでため息ばっか吐いてたんだよ。

幸せな夢見てたんじゃねぇのかよ」


「それは……

鷹巨の人生考えたら、別れるべきだと思ったし」


 その事で久保井の件まで、また動けなくなったため。

どうしたらいいか思い悩んでいたのだ。


 一方、倫太郎は……

鷹巨のために身を引こうとするほど、そいつが好きだったのかと。

その事でため息を繰り返すほど、結婚したかったのかと。

ショックで胸が八つ裂かれる。


「っっ……

そこまで想ってんなら、いっそプロポーズ受けてやれよ」


「はあっ?

意味わかんないんだけど……

あんたが今結婚詐欺って」


「そーだけどっ。

そんな偽物の気持ちで、そこまでオマエの気持ち奪えるとは思えねぇし。

もし詐欺じゃなかったら、こんないい話ケるとか勿体ねぇだろ」


「……なにそれ。

てゆうか……

倫太郎は、私が結婚してもいんだ?」


「……は?」

思わぬ問いかけに、大きくした目を揚羽にぶつけた。


 いいわけねぇだろ!

つかそれ以前に……


「……なんで俺に訊くんだよ」


「なんでって……

バディだからよ。

私が足洗ったら困るでしょ?」


 騒いでた胸が、一気に鎮まる倫太郎。

でもすぐに、とある言葉に反応する。


「別に困んねぇよ。

1人で出来る事するし、必要なら新しいバディ探すし」


 そう、たとえ他の男と結婚しても。

一緒にいられなくなっても。

倫太郎は揚羽に、自ら足を洗ってほしかったのだ。


 これ以上傷付かないうちに、出来れば幸せな形で……


 そこに本人から、それを匂わす言葉が発せられたため。

こっちの事を気にせず、安心してバディをやめれるように仕向けたつもりだったが……


 倫太郎にとってその程度の存在だったのかと、揚羽は激しくショックを受ける。


「っ、へぇ……

最高のバディとか言っといて、誰でも代わりになるんだ?」


「そうじゃねぇけど……

まぁ、天才ハッカーだし?

バディには不自由しねぇだろ」


「……だったら足なんて洗わない。

私だって、天才ハッカーを譲るわけにはいかないからね」

それを口実にする揚羽。


「はっ?

いやこっちが意味わかんねぇし……

幸せになりてんじゃねぇのかよ」


「ちょっと夢見ただけでしょ?

だからプロポーズは受けないし、ずっとあんたのバディでいるから」


 その言葉に、一瞬喜んだ倫太郎だったが……

天才ハッカーだからかと、すぐに切なさに潰される。


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