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虹色アゲハ  作者: よつば猫
トラフアゲハ
26/41

 数日後。

少し落ち着いた揚羽は、倫太郎に久保井のレクサスを調べてもらうと……


「試乗車っ?」


 借りたのはまた、例の女詐欺師で。

してやられたと、片手で顔を覆って溜息を零した。


 あんな事になり、盗聴器も発信機も仕掛け損ねていたが……

結局のところ、何をしても意味がなかったのだ。


「つかもうヤメろよ。

見て(・・)らんねぇし……」

辛そうに顔を歪める倫太郎。


「それを言うなら聴いて(・・・)でしょ」


「同じ突っ込みすんなよ」

舌打ちしてぼそりと呟く。


「ふふ、前にも言ったっけ?」


「っとにかく、俺らが太刀打ち出来る相手じゃねぇし。

オマエは男とイチャついてろよ」


「なにその言い草……

そうよね、あんなやらかすぐらいだし?

こんな使えないバディの巻き添え食ったら、あんたまでヤバいもんね」


「はっ?

誰もそんな事言ってねぇだろ」


「そりゃストレートには言えないわよね。

でも心配しないで?

この件はもう1人でやるから」

そう言い捨てて、玄関に向かうと。


「おい、待てって!」

ガシッと、揚羽は腕を掴まれる。


「なに勘違いしてんだよっ。‬

これ以上オマエが傷付くとこ見たくねぇからだろ!‬

バカじゃねぇのっ?」‬


「っ……

バカはあんたでしょ?‬

何度も言うけど、聴きたくないの間違いだからね」‬


「っせーな…‬…

とにかく、単独行動禁止だからな。‬

わかったらさっさと帰れよ」‬

照れ臭くてそう突き放すと。‬


「誰が帰るって言った?

ちょっとスーパー行ってくるだけだし。

お昼まだでしょ?なに食べたい?」


 バディとして見限られたと思った揚羽は、単独行動禁止が嬉しくてたまらなかったのだ。


「はっ?

……自分の男に作ってろよ」

一方、倫太郎は嬉しい反面。


 これ以上好きになりたくなくて。

でもどうしょうもないくらい、好きで好きで仕方なくて。

なのにその身体は他の男に抱かれてて。

苦しくて遣り切れない気持ちを必死に押し殺していたため。

そうやって優しくされると、気持ちが暴走しそうで……

それを遠ざけたのだった。


「鷹巨とはタイミングが合わないのよ」


「毎日通ってるくせに?」


「……まぁ、生活スタイルが逆だからね」


 といっても。

朝食やお弁当や作り置きなど、作る手段はいくらでもあったが……

そんな事をすれば、鷹巨の気持ちをもっと加速させてしまうと考え。

お互い辛くなるだけだと、敬遠していたのだ。


 そしてなりより。

「ていうか……

倫太郎に作りたいんだから、食べてくれたっていいじゃない」


「っっ……

あぁも、生姜焼きなっ?」

嬉しさと苦しさで胸が引き千切れそうになりながら、そう言い捨てる。


「またそれ?

飽きないわね」


「じゃあ何でもいーよ。

オマエが作るもん全部旨ぇし」


 思わずドキリとする揚羽。


「あんたって……

たまにさらっと女心くすぐるわよね」


「はっ?知らねぇよ」


「ふふ、じゃあなんか適当に買ってくるから待ってて?」


 もう好きにしろよ……

オマエが作りたいって思ってくれんなら、心がぶっ壊れても押し殺してやるよ。


 そんな思いで、揚羽の気持ちに応えた甲斐あって……



 相変わらず幸せそうに食べる倫太郎に。

揚羽は、再び久保井と戦う元気をもらっていたのだった。





 ところが久保井は、あれ以来パッタリ店に来なくなり。

勝負の決着が付いてないにもかかわらず、本当に切り捨てられたんだと。

揚羽は再度ショックを受ける。


 だからといって、ここまま終われる訳もなく。

必死に打つ手を考えていた。

そう、下手に謝ったり取り繕っても、シラけてる久保井には逆効果だと。


 なぜならその男が気に入ったり、新たに好意を抱いた時は……

揚羽が強気な発言をしたり、余裕な態度を見せた時だったからだ。


 だとしたら、あの男と寝るしかないか……

つまりこの状況を覆すには、一旦相手の要望を飲むしかないと判断する。

仮に「やらなきゃ落とせないの?」と挑発したところで、負け惜しみにしかならないからだ。


 それでも「もういいよ」と跳ね退けられるかもしれないが……

「悪いけど、この勝負負ける訳にはいかないの。

つまり途中で投げ出されても困るから、やらせてあげるって言ってんの。

それともこの前の発言はハッタリで、私をイカせる自信ない?」

そう挑発すれば、再び興味を示すんじゃないかと踏んだのだ。


 だけど、そんな行為をして平常心を保てる自信はなく……

なにより付き合ってる以上、鷹巨を裏切るわけにはいかなくて。


 どうする事も出来ない焦燥感と、切り捨てられたダメージに翻弄され……

それを拭い去るように、揚羽は鷹巨との甘い時間に溺れていった。




「俺の事、ちょっとくらいは好き?」


 日に日に感度を増す揚羽に、行為の最中尋ねる鷹巨。


「わから、ないっ……」

嬌声混じりにそう返す。


「好きか嫌いだったら?」


「好き、よっ……」


「もいっかい。

俺の名前と一緒に言って?」


 そのリクエストと同時、弱い所を攻められる。


「ああっ……!

好きよ、鷹巨っ……」


「んっ……

俺も好きだよ、愛してる」

そう囁いてすぐ、口内も埋め尽くすと。


 2人して絶頂を迎えた。



 揚羽にとって、鷹巨だけが甘えられる存在で。

その体温に安らいで……

抱かれると充足感に包まれて……

心を癒すオアシスのようになっていたのだ。


 それだけじゃなく。

家族の愛を失い、唯一の愛する人にまで裏切られた揚羽は……

愛を信じられなくなり、それとは無縁に生きてきたため。

本当は誰よりも愛に飢えていて、鷹巨の愛を受け入れずにはいられなかったのだ。




「聡子が、好きよ鷹巨って……」

ピロートークで、それを噛み締める鷹巨。


「……言わせたんじゃない」


「それでも!言ってくれるなんて嬉しいよっ」


 そんな事くらいで感激する姿を、愛しく思いながらも……


「はいはい、明日も仕事なんだから寝るわよ?」

照れくさくて、さらっと流すと。


「ん、おやすみ聡子」

おでこにチュッとして、ぎゅっと抱きしめて、眠るまで髪を撫で続ける鷹巨。


 寝る時はいつもこうで……

そのたび揚羽は、きつく胸を締めつけられる。


 朝を迎えて、その腕から出なければならないように。

この関係もいつか終わりを迎えて、その温もりから離れなければならないからだ。


 そう、裏の世界に身を置く犯罪者の揚羽と、表の世界に身を置くエリートの鷹巨では、あまりに住む世界が違うため。

2人が共に歩む未来などあり得なかったのだ。


 だとしたら少しでもお互いのダメージが少ないうちに、別れるのが賢明で……

それなら軽はずみに付き合わなければよかったと、流された自分に今さら後悔が押し寄せる。



 そうしてるうちに、時間だけが過ぎ……

久保井が携帯を解約して、また姿を消したらどうしようと。

焦った揚羽は覚悟を決めて、行為に踏み切る事にした。


 さらにその事で、鷹巨と別れるいい機会だとも考え。

さっそくその話を切り出した。


「あのね、鷹巨。

実は、今度のターゲットとはどうしても寝なきゃならなくて……

でも、当然嫌よね?」


 目を大きくして動揺を覗かせる鷹巨に、胸が痛くなる揚羽。


「……相変わらず正直だね、聡子は。

言わなきゃバレないのに……」


「この仕事を知ってる相手に、隠す必要はないからね」


「だからって……

彼女にそんな事言われて、いいよって言う男がいる?」


「わかってる、だから」

別れましょ?

そう続けようとした矢先。


 それを察した鷹巨は「条件がある」と遮った。


「……条件?」


「うん。

そういう仕事だってわかった上で好きになったから……

嫌だけど、今回は我慢する。

その代わり、それで最後にしてほしい」


「無理よ。

そんなの約束できないわ」


「だから、そうじゃなくて。

その件が片付いたら詐欺師を辞めて、俺の奥さんに転職しない?」


 思いもよらない言葉に……

一瞬きょとんと固まる揚羽。

だけどすぐに、胸がありえない力で掴まれる。


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