表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色アゲハ  作者: よつば猫
ナミアゲハ
25/41

「流石だね、揚羽ちゃん。

会うたび惹かれるよ。

もっと一緒にいたいんだけど、アフター行かない?」


「下手な誘い方ね。

まぁせっかくだし、私ももう少し話したいとこだけど……

ごめんね?先約があるの」


「いいよ、待っとく。

俺の車でドライブでもしよ?」


「あのね……

どこの世界にそんな危険なアフターに付き合うコがいるのよ。

だいたい俺の車って……

どうせレンタカーでしょ?」


 狡猾な詐欺師が、そんな足がつく手掛かりを晒すわけがないからだ。


「だったら威張って誘わないよっ。

といってもたかがレクサスだけど、外車は目立つから乗れないんだよね」


 ふぅん、鷹巨と同じ車か……

それがほんとに自分の車だとしたら、私に晒すなんてどういうつもり?


 舐められてるのか、それすら完璧に情報操作してるのか……

そう推測しながらも。


 調べる価値はあるうえに。

発信機や盗聴器を仕掛けて、新たな情報を得るチャンスでもあった。


 でも鷹巨と約束してるし……

と少し悩んだ揚羽だったが。


「そんなに愛車を自慢したいの?

意外と可愛いのね。

それに免じて(アフターに)付き合ってあげるし、先約も断ってあげるから。

これで借りは帳消しね」


 鷹巨の事だから、言いつけ通り眠って待ってるはずだと。

久保井を早めに切り上げてから行く事にしたのだ。


 これで借りを相殺出来て、情報まで得られるかもしれないとなれば、逃す手はないからだ。



 仕事を終えて、待ち合わせ場所に向かうと……

停まっていたレクサスは、確かにレンタカーではなく。

揚羽は車体とナンバーを、忍ばせてた隠しカメラに収めると。

久保井のエスコートで、その助手席に乗り込んだ。


「どこ行くっ?

県外まで行っちゃう?」


「冗談でしょ。

仕事帰りで疲れてるのよ?

30分だけ付き合ってあげる」


 やたらと浮かれてる久保井を、ばっさり切り捨てると。


「え……それで帰すと思ってんだ?」

打って変わって、冷ややかな口調が返される。


「……どうするつもり?」


「そりゃあ、密室に2人切りだし。

この前の続きとか?」


「呆れた……

それしか手がないの?

だいたい、そんな事で落ちると思う?」


「やってみる価値はあるよ。

みんなそれでイチコロだし。

揚羽ちゃんの事も、めちゃくちゃ気持ち良くしてあげるよ?」


「けっこうよ。

そんな事したら訴えてやるから」

強気で跳ね除けながらも。

内心は焦っていて……


「揚羽ちゃんに訴えられるなら本望だよ」

その言葉と同時、車が路肩に停車した。


 慌てて揚羽は、車から降りようとしたが……

歩道のガードパイプでドアが開けず。


 途端、右手首を掴まれて。

同じく左手首ともども、シートに押し付けられる。


「やめてよ!」


「大丈夫、すぐに気持ち良くなるから」

そう言って久保井は、揚羽の首筋にキスを落とすと。

その唇を胸元の方に這わせていった。


「やっ……いやっ!

ほんとに訴えるわよっ!?」

必死に抵抗しながらも。


 その肌は、身体は、異常なほど久保井に感じてしまっていて……

それが許せない感情と、どうにもならない感覚に、おかしくなりそうになる。


「もういやお願いっ……

お願いやめてっ!」


 すると胸元を吸っていた久保井は、ピタリと止まって。

「そんな嫌っ?」

小馬鹿に吹き出した。


「無理やりなんて嫌に決まってるでしょ!?」


「無理やりって……」

そこで久保井は掴む手を緩めると。


「嫌よ嫌よもなんとかって言うしさ?

自分で危険とか言っときながら、のこのこ来るぐらいだし。

2度も同じ手食うコじゃないと思ったから、てっきりOKなのかと思ったんだけど。

揚羽ちゃんって実はバカなコ?

俺じゃなかったら犯られてるよ?」


「あんたこそバカじゃない!?

キスマーク(こんなもん)つけられたら仕事に響くじゃない!」

悔しくて感情的になっていた揚羽は……


「隠れる服着ればいいだけだし。

こうでもしなきゃ、揚羽ちゃん誰にでも股開きそうだからさ」


 その瞬間、カッとなって久保井をハツってしまう。

それにより……


「……てゆうかホステスならさぁ、もっと上手くあしらえない?

そんなんでよくやってこれたよね。

なんかがっかりしたってゆうか……

もういいよ、どこに送ってけばい?」

乾いた声と冷めた口調でそう返されて。


 やらかした焦燥感に襲われると同時。

2度も久保井に捨てられた気がして、胸が八つ裂かれる。




 近くのコンビニで降ろしてもらった揚羽は、茫然と……

呼んだタクシーを待っていると。


 不意に、もうどうしていいかわからなくなって。

疲れて、何もかも嫌になって。

ただただ涙が溢れ出した。



 そうやって途方に暮れながらも……

やって来たタクシーで、鷹巨のマンションを訪れると。

エントランスロックが、チャイム後すぐに解除されて。


「なんで起きてるの?」

八つ当たりで思わず責める。


『えっ……

ちゃんと寝てたよっ?

ただすぐ出られるように、来そうな時間に目覚ましセットしてただけで……

それよりっ、とりあえず上がって?』


 またしても様子のおかしい聡子が、心配でたまらなかった鷹巨は……


「お疲れ聡子っ。

なんか、あったの?」

出迎えるなり、そう尋ねると。


「ん……

ごめんね鷹巨、浮気した」

力なく答える揚羽の胸元に。


 キスマークを見つけて、すぐさまぎゅっと抱きしめた。


「聡子は何も悪くないよ?

わかってるから……

辛いのも全部、俺が受け止めるから」


「っ、なんで無条件に信じるのっ?

したって言ってるじゃない……

証拠だってあるじゃない!」


「そんなの、聡子の様子を見れば(無理やりだって)わかるし。

好きだから、何があっても信じるだけだよ」


 その言葉に、堪らず揚羽はぎゅっと鷹巨にしがみついた。


「私は詐欺師なのよっ?」


「うん、でもその前に1人の人間だよ?」

そう揚羽の髪を優しく撫でる。


「だけど出来損ないの人間よっ。

簡単に切り捨てられる存在にしかなれなくて……

ずっと詐欺と水商売で生きてきたのに、それですら使いもんにならなくて……

だったら私には何もない!」


「でも俺は聡子に救われたし、きっとたくさんの人が救われてるよ?

それに、告白した時も言ったと思うけど。

俺にとっては、簡単には諦められないくらい特別な存在だし。

聡子に呆れられるくらい、ストーカーするくらい?

聡子じゃなきゃダメだから」


「っ、ほんとは聡子じゃないのにっ?」


「そこはまだ、信用を勝ち取れてないだけで。

俺の前で聡子でいたいなら、俺はその聡子を愛するだけだよ」


 ずっと撫で続けてる腕の中で、揚羽はボロボロと涙が零れる。


 口では何とでも言えると思っていても。

今欲しい言葉が、胸に染み込み。


 愛なんて信じてなくても、今だけの幻でも。

鷹巨だけは自分をこんなにも愛してくれると、その存在に救われていた。



「でも……

今私が好きなのは、モンブランだけよ?」


 すると鷹巨は柔らかく吹き出して。


「じゃあすぐコーヒー淹れるよ」と、涙を拭うようにキスをした。


「もぉ……

眠れなくなるわよ?」


「じゃあ一晩中抱き合う?」


「ちゃんと寝てたの?」


「寝てたよ!

じゃあOKって事っ?」


「別にいいわよ?抱き合って寝るくらい」‬


「ええ、そっち!?」‬


 揚羽はふふっと吹き出しながらも。

そんな鷹巨を愛しく思えていた。




「んっ、美味しっ……

なにこのモンブラン、死ぬほど美味しいっ。

来てよかった」


「良かった〜。

じゃあ毎日何か用意しとかなきゃ」


「……毎日来させる気?」


「そりゃ、毎日会いたいよ。

付き合ってるんだし」


「やっぱり付き合ってるの?」


「うん、だって聡子も……

浮気を謝るって事は、そういう関係って認めてるわけだし」


「あれは……」

胸元のキスマークなんて言い訳しようがないと思い、敢えてそう言ったのだったが。


「だからいつでも来れるように、はい」

と合鍵を渡される。


「……さすがにこれは、バカすぎない?

帰ったら何もかも無くなってるかもよ?」


「あははっ、聡子さえ残ってくれればいいよ」


 そう言われて、思わずキュンとなる揚羽。


「可愛い、聡子……

大好きだよ」

その言葉とともに。


 唇から口内へと入ってきたものは、モンブランより甘く溶けて……


 その夜2人は、何度も何度も抱き合った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ