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虹色アゲハ  作者: よつば猫
ナミアゲハ
24/41

 そうして連れて行かれた場所は、アリの巣みたいな作りのダイニングバーで……

ほぼ個室のその席は、薄暗さの中に木の温もりと照明の柔らかさが溶け込んでいて、絶妙な雰囲気を醸し出していた。


「料理も美味しいし、すごく落ち着くけど。

ここ選んだのって、あわよくばとか考えてない?」


「あ、バレてた?

じゃあ正々堂々といくけど。

ベンチシートだし、隣行ってい?」


「ストーカーしといて、そこ遠慮する?」


「じゃあ、キスもしてい?」

隣に移動してきた鷹巨に、そう見つめられ……


「……ん、いいわよ」


 応えるや否や、後頭部に手が回されて。

甘いキスが絡み込む。


 その甘さに溶かされて……

また夢中で、互いに唇を求め合うと。


「好きだよ、聡子……」


 その瞬間、揚羽の胸は切なさと罪悪感で締め付けられる。


 その気持ちには応えてあげられないのに。

その甘さは必要で、もっと欲しくてたまらなくて。

この前も、そしてこの先を見据えた今も。

結局利用している自分に、遣る瀬無くなったのだ。


「っごめん、鷹巨。

やっぱりこれ以上、利用出来ない」

キスから逃れて、そう俯くと。


「俺は利用して欲しいのに?」

切なげな声で問いかけられる。


「だから私が嫌なの!

そういう気持ちを利用するのが、一番許せない事だから」


 そう、お金を取らないだけで、それじゃ赤詐欺と変わらない。


「……そっか。

じゃあ俺の事……

好きか嫌いかだったら、どっち?」


「はっ?

そんな事聞いて何になるの?」


「いいから。

利用した代わりに、ちゃんと答えて」

真剣な目で訴えられて。


 戸惑いながらも、渋々答える。


「その二択しかないなら……好きだけど」


「だったら十分だよっ。

俺と付き合お?」


「はあっ?

どうやったらそうなるわけ?」


「だから、その好きから始めて。

あとは少しずつ、大きくしてけばいいかなって。

要はお見合い結婚みたいな感じで、お見合い恋愛的なっ?

それを利用って言うんなら、条件で選ぶお見合い結婚なんかもっとそうだよ。

それでも徐々に愛が育まれたりするんだから、あとは俺の腕次第って事で」


「もうっ、どこまでしつこいの?」


「しつこいよ?

それだけ好きだから」

その言葉と同時。


 チュッと不意打ちのキスを食らって、思わず心臓が揺さぶられる。


「っ、そんな事しても時間の無駄よ?

私は誰も好きになったりしないから」


「じゃあその分俺が好きになるよ」

そう言ってまた、甘いキスを絡める鷹巨に。


 揚羽の身体はふわりとなって、その胸はぎゅっとなる。


「やめてよっ、ズルい……」

流されそうな自分を断ち切るように、再びキスから逃れるも。


「聡子もズルいよ」

クイと向き戻されて、また唇を塞がれる。


「っ……

も、やめてってば!

私の何がズルいっていうのっ?」


「だって利用出来ないとか言われたら、もっと好きになるに決まってるじゃん。

てゆうかさ?

ズルいって思うのは、それに対して好意を持ってる証拠だと思うんだけど。

だったら全然利用じゃないし。

だから付き合お?彼女になってよ」


「もぉ、困らせないでよ……」


「ごめん、困らせたい。

いい(・・)って言うまで、ずっとキスするよ?」


「大した度胸ね……

だったら(キスして)いい(・・)わよ、好きにすれば?」


「やったほんとにっ!?

うわどーしようっ」


 激しく喜ぶ鷹巨に、面食らって……

すぐにハッとする。


「違う!キスの方よっ」


「じゃあキスもいっぱいする」


「んっ、もぉ………」



 抵抗する手は、次第に力が抜けていき……

2人は甘い甘いキスに溺れていった。





「何か掴めた?」


 数日後、揚羽は倫太郎の家を訪れて、久保井の調査経過を確認していた。


「や、情報操作されてる。

けど、久保井も名義の女も、たぶん組織ぐるみで動いてる。

それも、下手に手ぇ出せないくらいヤバめの」


「そうなのっ?」


 どうりで、と。

憎らしいほどの余裕さや、完璧なまでに手掛かりを残さない狡猾さに合点がいく。


 そして思わず。

名義の女はただの仲間かと、どこかホッとしてしまい……

慌てて打ち消そうとした矢先、タイミングよく鷹巨から電話が入る。


「ちょっとごめん」

倫太郎に断りを入れて、縋る気持ちで電話に出ると。


『もしもし聡子っ?今大丈夫?』


「……大丈夫よ、どうしたの?」


 まるで胸の内を心配された気分になって、心がほころぶ。


 反して倫太郎は、客に対したものとは違う優しげな口調に。

相手は岩瀬かと、胸を痛める。


『今さ、お客さんから行列が出来るケーキをホールでもらったんだけど。

モンブランとか食べれる?』


「食べれるどころか、大好きよ?」


『良かった!

じゃあ仕事が終わったら一緒に食べよ?』


「嫌よ、太るじゃない。

1人で食べたら?」


『ええっ、じゃあ脂肪と糖の吸収を抑える飲み物買っとくし。

一口だけでも!』


「ふふっ、冗談よ。

でも遅くなるのに大丈夫?」


『全然!

じゃあ終わる頃迎えに行くよっ』


「はっ?

来なくていいわよ。

そんな暇あったら少しでも身体休めてて」


 すると、なぜか無言が返されて……


『好きだよ、聡子』


 不意打ちの言葉に、今度は揚羽が絶句する。



『あ、もしかして照れてる?』


「っ、照れてないわよ!

もう切るわよっ?」


『待って聡子っ。

聡子は?俺の事、ほんのちょこっとくらいは好き?』


「はあっ?

なに調子乗ってんのっ?」


『ごめんごめん。

じゃあ、好きか嫌いかだったら?』


「っ……

言わないから!」

倫太郎の手前、言いにくく感じる揚羽。


『この前は言ってくれたのに?

今から大事な商談だから、言ってくれたら勇気が出るのになぁ。

ほらっ、さっきみたいな感じで。

俺をモンブランだと思って言ってみてよ』


 大好きよ?

その言葉を思い返して……


 言えるわけないじゃない!


「だからもぉ、困らせないでよ……」


『あははっ、可愛い聡子。

もうそれだけで頑張れるよ。

じゃあまた夜に』


 通話はそんなふうに終わったものの。


 普通の女の子みたいに、あどけなく笑ったり、照れたり焦ったり困惑したり……

岩瀬にだけ見せる可愛らしい揚羽の姿に、倫太郎の心は打ちのめされる。


「ごめんね倫太郎。

ええと、ヤバい組織なんだっけ」


「ん……

つか危ねぇし、男出来たんなら足洗えば?」


「……そんなワケにはいかないわよ。

あの男だけは、絶対にケリつけなきゃいけないし」


 交際を否定しなかった揚羽に、胸が張り裂けそうになる倫太郎。

一方揚羽も、簡単にバディを解消しようとする倫太郎にショックを受けていた。


「ただ、その(男絡みの)事なんだけど……

これからは鷹巨の家にいる時も、帰宅扱いでいいから。

倫太郎は気にせず眠って?」


 実際のところ、鷹巨との関係はうやむやなままだったが……

倫太郎に迷惑や心配をかけないように、交際の否定をせずそう言ったのだった。


 でも当の本人は、これからは鷹巨に守ってもらうと言われた気がして。

もう自分は用無しだと切り捨てられた気がして。

胸が切り裂かれて、苦しくて……


「……わかった」

やっとの思いで、その一言を絞り出したのだった。





 そんな夜。

平日にもかかわらず、久保井が閉店30分前にやってきた。


 そのためナンバーワンの指名席も、他に1つしかなく。

その席ももうすぐ終わるため、揚羽がつくのは最初の10分ほどだった。


「あ、ウーロンでいいよ。

車だから」


「何しに来たワケ?」


「そんな事言うっ?

近くに用があったから、ちょっとでも会いたかったのに」


「ありがと。

私も会いたかったわよ?」

にっこり笑顔を貼り付けると。


「うわ、嘘くさっ。

電話番号教えても全然連絡くれないし。

俺の事落とす気あるっ?」


「あるわよ?

だからこそ、私の事好きになりかけてるんでしょ?

そっちこそ、あれ嘘だったの?」


 すると久保井はくしゃっと吹き出す。


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