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虹色アゲハ  作者: よつば猫
カラスアゲハ
19/41

 そんな中、とうとう久保井が動き出した。


 揚羽がいつものように、2人のやり取りを盗聴していると……


『あのね仁希、お金どうにかなるかもしれないっ』


 お金っ?

いつの間に……

恐らく、ピロートークで無心したのだろう。

さらに、続いた会話によると……

お金の工面方法も、久保井のアドバイスによるものらしかった。


 それは、一括で支払っている学資保険を解約するといった内容で……


 バカじゃないの!

大事な子供のためのお金に手を付ける柑愛と、それを狙う久保井に怒りが込み上げる。


 すぐにでも阻止したいところだったが……

さすがに今それを伝えるのは、盗聴を勘づかれる可能性が高いため。


 揚羽は次の日、柑愛に電話する事にした。




「実はね、大事な話があるんだけど……

落ち着いて聞いてね?

あの久保井仁希は、結婚詐欺師よ」


『は?

なに言ってるんですか?

どんな勘違いか知りませんけど、違いますから』


「間違いないわ。

私の親友が被害に遭ったの。

本当は、久保井がその犯人かどうか確かめたくて、柑愛ちゃんに連絡先を訊いてたんだけど。

教えてくれなかったから、確信するのに時間がかかったの」


『うそ……

嘘よそんなのっ』


 もちろん親友の話は嘘だが、大勢騙してる久保井には判らないと踏んだのだ。


「本当よ。

シングルマザーをターゲットにしてるみたいで、親友もそうなの。

それで、学資保険の解約返戻金を奪われたんだけど……

柑愛ちゃんは、そんな話されてない?」


『そんなっ……

証拠は、証拠はあるんですかっ?』

柑愛は声を震わせた。


「証拠はその子の証言よ。

もっと明白なものがあれば、とっくに警察に突き出してるわ」


『なんだ……

じゃあ違うかもしれませんよねっ?

てゆうか……

それ、作り話なんじゃないですか?

そうだ、きっとそうよ。

揚羽さん、私が保険会社に行ったの見てたんですねっ?

それでこんな嘘思いついて……』


「あのね……

そんな嘘ついて、私に何のメリットがあるのよ」


『ありますよ、嫌がらせでしょ?

自分が仁希に相手にされなかったからって、水を差すのはやめてくださいっ』


「……あんた、どこまでおめでたいの?

信じないならそれでもいいけど。

子供を愛してるなら、そのお金に手を付けるのはやめなさい。

それでフラれたら、それこそ証拠になるんだし」


『だからっ、そっちに誘導するのはやめてください!

あたしたちを別れさせたいんでしょうけど、その手には乗りませんからっ。

てゆうか、こんな事して恥ずかしくないんですかっ?

揚羽さんにはがっかりしました』


「ああそう。

じゃあ好きなだけ騙されれば?」



 バカな女……

あんたみたいな女がいるから、結婚詐欺が絶えないのよ。

電話を切ったあと、そう苛立つ揚羽。


 だけど……

あの時の私もきっと、そうだった。

ふうと溜め息をついて、そう思い直す。


 愛する人を信じたくて……

希望に縋りつきたくて……


 そう、1人で子育てするのは大変だ。

子供が病気になれば、その間ずっと仕事を休まなければならない。

それは共働きでも同じ事だが……

ひとり親の場合、自分の収入のみで全てを賄わなければならないため、数日の欠勤でも死活問題になる。


 にもかかわらず、一週間近くも店を休んでいた事を考えると。

恐らく柑愛には、他に頼れる場所がないのだろう。


 無理をして倒れれば、全てが立ち行かなくなり。

その危険性と隣り合わせの中、無理をするしかなくて……

そうやって1人で戦ってるから、支えが欲しくなるのだろう。

辛いからこそ、救ってくれる希望に縋り付きたくなるのだろう。


 かつての私のように……

そう重ねて、胸を痛める揚羽。


 そしてそんなボロボロの心を、さらにグチャグチャに踏み潰そうとしている久保井に。

絶対許さないと、心火を燃やす。


 あぁも焦りたくなかったけど……

仕方ないから、保険を解約する前に強行突破してあげる。





 後日、揚羽は……

ハッキングの位置情報で得た潜伏先らしきビジネスホテルで、久保井が帰ってくるのを待ち伏せた。


 その到着を前に、深呼吸をして自分を落ち着けると。

盗聴器をオンにした。


 それを捉えた倫太郎は、とうとう久保井をターゲットに動き始めたんだと認識する。



「あれ、揚羽ちゃん。

こんなとこで何してんの?」


「久保井さんを待ってたんです」


「俺を?

でもここ、教えた覚えないんだけどな」


「はい。

久保井さんが帰る時、尾行させてもらったんです」


「へぇ、何のために?」


「心当たりがないですか?」


「いや、ありすぎてわかんないやっ」

そう久保井は吹き出した。


 憎らしいほど余裕ね……

相手にもしてない久保井の態度に、怒りが露わになる。


「じゃあ教えてあげるわ。

柑愛から、学資保険の解約返戻金を奪おうとしてるみたいだけど。

今すぐやめないと、警察に通報するわよ」


「ふぅん、それ本性?

面白いね。

けど揚羽ちゃん、勘違いしてるよ。

俺は借りるだけで、すぐに返すつもりだし」


「そんな嘘が通用すると思う?

あんたが結婚詐欺師って事は、調べがついてんのよ」


「それどこ情報っ?

そんなの信じるなんて、揚羽ちゃんって騙されやすい人?」

自分を騙した張本人から、そう笑い飛ばされて。


 揚羽はカチンと逆上する。


「とぼけんのもいい加減にしたらっ?

それが通用する相手かどうか見抜けないなんて、あんた三流の詐欺師?

あぁそっか、同じ名前で詐欺するぐらいだし、ただのバカか。

そんなバカの分際で私の親友を騙したなんて、いい度胸じゃない。

残念だけど、その子の証言で訴えさせてもらうから」


「なんだ、完全にバレてたんだっ?

でもおかしいな。

バカでも証拠は1つも残してないのにな。

まぁあるなら訴えていいよ」


「明白なものはね。

でもそれで充分なのよ?

私にはとても懇意にしてる、警察キャリアのお客様がいてね。

癒着を黙ってる代わりに、なんでも力になってくれるの。

だから、あんたなんてどうにでもなるのよ」


 もちろんそれはハッタリだったが……


「うわ、すごいな!

じゃあ俺はどうすればいいワケっ?」


 相変わらず動じない久保井に、歯がゆさを感じる揚羽。


「そうね、まずは……

最初に言った通り、柑愛からすぐに手を引いて。

そして親友が騙し取られたお金と、慰謝料と示談金を合わせて……

一千万、払ってもらうわ」


「一千万っ?

大きく出たね。

でもそれって脅迫だよね?

悪いんだけど、今の会話全部録音してるからさ〜。

訴えたら、そっちも無傷じゃ終われないよ?

ほら俺は裏稼業だからいいけど、揚羽ちゃんは表の人間でしょ?

しかも職種的に、色々隠してる事も多いだろうし。

それもバレちゃっていんだ?」


 この男っ……

いくら焦って事に及んだとはいえ。

筋金入りの詐欺師なだけあって、一筋縄にはいかない状況に。

してやられたと苦汁を味わう。


「まぁそれでも訴えたいなら、好きにすればいいけど。

例え立件出来ても、そんな金額手に入んないし。

どうせなら、無傷で圧勝したくないっ?」


「つまり、何が言いたいの?」


「つまり、俺と勝負しない?

そしたら柑愛からは手を引くよ」


「勝負?」


「そっ。

揚羽ちゃん面白いから、気に入っちゃったんだよね。

だから、その調子で俺の事落としてみてよ。

それでも一応(・・)、プロのホステスでしょ?」


 こいつ、どこまで舐め腐ってんの!?


「いいわ、受けてあげる」

挑発に乗ってしまった揚羽は、すぐに了承してしまう。


「それで、落としたら?

私が勝ったらどうする気?」


「その時は、一千万も払うし自首もするよ。

けど逆に、揚羽ちゃんが俺に落ちたら……

恨みっこなしで、今までの人生捨ててくれる?

そんで、全部俺がもらおうかな」


 そうね……

そうやって私は、あんたに全てを奪われた。

瞬時に、その時の絶望が甦る。


「あれ、怖気付いちゃった?

やっぱやめとく?」


「冗談でしょ。

相手は詐欺師でも、三流バカだし。

せいぜい足をすくわれないようにする事ね」


 そう、あんたなんかに落ちるわけない。

二度と同じ手は食わないわ。





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