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虹色アゲハ  作者: よつば猫
ミカドアゲハ
18/41

 その夜、仕事を終えると。

心がボロボロに疲れ果てた揚羽は、倫太郎に甘えたかったが……

同じ局面で拒絶された手前、出来なくて。


 かといって他に甘えられる場所もなく。

でも独りにはなりたくなくて……

以前のように、店の近くの公園に向かった。


 その時。


「聡子さんっ」

例の天然記念物男に、腕を掴まれて引き止められる。


「よかった会えて〜。

前にここで会った時、すごいサマになってたから。

もしかして夜の仕事が本職じゃないかなって、この辺ウロついてたんだ。

ほら、マンションには来るなって言われてたからさ」


「……でもその後に、しつこい男は嫌いとも言ったはずだけど?」


「言ったね」

鷹巨はふっと吹き出した。


「でも好きと嫌いは紙一重だから。

嫌われても会いに来なきゃ、何も始まらないかなって」


「いや来られても何も始まらないから」


「だとしても、やれるだけやってみたいんだ」


「だからって、やり手営業マンが聞いて呆れるわ。

毎週ストーカーするとか、あんた暇人?」


 思わず倫太郎の口調を真似て突っ込むと、ますますその本人に甘えたくなった揚羽だったが……

何かと理由をつけて家にも来てくれないほど、一線引かれてる関係だと。

改めてその感情を押し潰す。


「まさかっ、これでも多忙だよ?

でも聡子さんのためならいくらでも時間作るし。

前みたいに、元気がない時はいくらでも慰めるよ?」


 そう言われて……

そういえば人の表情を逃さない男だったと、思ったと同時。

甘えどころを見つけて、だったらまた利用させてもらおうと思い立つ。


「ふぅん、じゃあ楽しませてよ。

楽しくなかったら速攻帰るからね?」


「あははっ、仰せの通りに。

では女王様、お手をどうぞ」


「……バカなの?

指名客に彼氏と思われたら、って……

ちょっと!」


 鷹巨は強引に揚羽の手を取り、走り出した。


「走ったらわかんないよっ」


「余計目立つわよバカ!

しかもヒールなんだから考えなさいよっ」


「あそっか、じゃあ」

くるりと体を翻した鷹巨は、ひょいと揚羽を抱き上げた。


「ちょっ……

やめてよ!下ろしなさいよっ」


「暴れると余計目立つよ?

俺に抱き付いて、顔隠してた方がいんじゃない?」


 こんっの策士!

後で覚えてなさいよっ?

そう思いながらも、その温もりに癒しを感じてしまうと……


「……うん、いい子」


「はああ!?

誰に向かって言ってんのっ?」


「ほらっ、顔隠さなきゃ」


 ああもう!

もどかしい思いで、再びぎゅっと抱きつく揚羽。




 そんな調子で、連れて行かれた場所は……


「うそ、インコがいる」


「そう、夜の鳥カフェなんだ」


 そこは普通席の他に、天井から吊られた鳥籠のある席が2つあり。

希望者は予約順に、20分単位で座れるシステムだった。



「おう鷹巨、いらっしゃい。

こんな綺麗なお姉さん連れて〜。

見せびらかしに来たのかぁ?」


「まぁね。

ソラの席、座れる?」


「おう!電話予約してくれてたよなっ?

あと10分待ってくれよ〜」


 そう目配せしたマスターは、鷹巨の友人だそうで。

電話予約してた事にして、優遇してくれたのだった。



 その席に座ると、早速。


「ワ〜、カワイイ、カワイイネ」

青いインコが揚羽に声掛けてきた。


「ふふ、キミの方が可愛いわよ」


「このコ、ソラって言うんだ。

オスだから、やっぱ綺麗な女性には目がないのかなっ」


「ナンダコイツ、ウケル〜。

ナンダコイツ、ウケル〜」


「馬鹿にされてるわよ、鷹巨」

思わずそう吹き出す揚羽。


「こいつ、鳥のくせにっ」


「やっぱり動物の本能でバカは見抜けるんじゃない?」


「うわ、辛口。

まぁそんなストレートなとこも好きだけどさ」

甘い視線を向ける鷹巨に。


「ウケル〜、ウケル〜」

再びそう突っ込むソラ。


 揚羽は言葉を失くして、クスクスと笑い崩れた。


「いや笑いすぎっ。

あぁも、ソラ!

ちょっとは援護しろって」


「ソラチャン、カシコイネ。

ソラチャン、カシコ〜イネ」


「いや賢いならもっとさぁ、」


「コンナジカンナノニ、ネムクナイノ?」


「眠くないよっ、そうじゃなくてっ……」


「もうやめて鷹巨っ、お腹痛いっ」


 恐らく、普段掛けられてる言葉を反復しているだけなのだろう。

それでも揚羽は、こんなに笑ったのは記憶にないくらい久しぶりだった。


 そして鷹巨は、そんな揚羽を嬉しそうに見守っていた。



「けっこう楽しめたわ。

じゃあ帰るわね」


「楽しめたのに帰るんだ?」


「あんまり夜更かしすると、お肌に悪いからね」

というのは口実で。


 自分が帰らないと、その動向を見守ってくれてる倫太郎が眠れないからだった。



「そっか、じゃあ送るよ。

そのために飲まなかったし」


「結構よ。

もう乗らなきゃいけない理由はないし、あんたを信用してるわけじゃないからね」


「そっか……

じゃあ今度お店に行っていいっ?

指名するよ」


「それも、間に合ってるから結構よ」


「そっかぁ……」

しゅんとする鷹巨。


「でも……

また元気を失くしたら、ソラちゃんのとこなら付き合ってあげてもいいわよ」


「ほんとにっ!?

よっしゃ!ありがとうっ」


 子供みたいに喜ぶ姿を、ため息混じりに微笑みながらも……

自分の方がありがとうだと。

久保井の事を一時でも忘れさせてくれた鷹巨に、内心感謝する揚羽だった。





「どう?

名義の女の事、何かわかった?」


 その日揚羽は倫太郎に電話して、事の経過を確認していた。


 2対2同伴の際、久保井にもウイルス付きの同伴場所を柑愛経由で送っていたが……

それは完全に詐欺用携帯で、得られたのは位置情報くらいだった。


『あぁ、まだ調査中だけど……

その女は詐欺師だった』


「詐欺師?

って事は、久保井のバディ?」


 どうして自分じゃ駄目だったんだろう。

そんなくだらない考えが、ふいに脳裏をよぎった。


 信頼されるバディ(その女)と騙された自分は、一体何が違ったんだろうと。


『……おい、聞いてんのか?』


「あぁごめん、なんだった?」


『や、引き続き調べとくっつったんだけど。

返事ねぇから』


「ごめんごめん、こっちも他の情報集めてみるわ」


『……ん、じゃあな』

揚羽の様子を心配しながらも。

相変わらず何も出来ずに切ろうとすると。


「待って倫太郎っ、お腹空いてない?

何か作ってあげようか?」

思わず引き止めてしまう揚羽。


『は?

まぁ作ってくれんなら、喜んで食うけど……』

本当は食べたばかりだったが、そんな嬉しい申し出を断るはずがなかった。




 そうして、倫太郎の家を訪れた揚羽は……

食事の最中。


「ねぇ倫太郎。

私って、バディとして使えない?」


「は?

だったらこんな長く一緒にいねぇだろ。

なに気にしてんだよ」


「ん……

なんとなく、自信喪失?」


「バカじゃねぇの?

まぁ、怖いもの知らずで心配んなる事はあるけど。

最高のバディじゃね?」

当然だとでもいうように、鼻で笑う倫太郎。


 途端、瞳がじわりとして……

下唇を噛む揚羽。


「……ありがと。

生意気版ソラちゃんね」


「は?

誰だよそれ」


「ふふ、ちょっとね」

その夜の鷹巨との接触は、また倫太郎が心配して駆けつけるかもしれないと思い、盗聴器をオンにしなかったのだ。


「……つかなに弱気んなってんだよ、更年期?」


「はあ!?

まだそんな歳じゃないわよっ。

あんたマジで殺されたいの?」


「ははっ、やってみろよ。

お前のためならいくらでも死んでやるよ」

思わず口走って。


 マズい!と焦る倫太郎。


「なに本気にしてんだよ、自意識過剰っ?」


 目を大きくしている揚羽に、慌てて突っ込む。


「誰も本気にしてないわよ……

ほんっと減らず口ね」

そう返しながらも。


 揚羽もまた、ドキリとした胸を誤魔化していた。





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