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虹色アゲハ  作者: よつば猫
ミカドアゲハ
17/41

「はあっ?」


 盗聴器越しに聴いていた倫太郎も、同じく「はあ!?」と面食らう。


「……あぁ、そう。

でもごめんなさい」


「速攻っ?」


「当たり前でしょ?

どう考えてもおかしいでしょ」


「確かに、出会い方は悪かったけど……

でも俺、復讐に協力してる時から、聡子さんの事は悪い人に見えなくて。

今となっては、優しい人だなって」


「どこをどう解釈したらそうなるワケ?

あの女への仕打ち、見てたわよね?」


「だから、それも。

厳しい状況に追い込む事で、足を洗う方向に持ってって、更生させようとしてたんだなって」


「はあっ?」


 確かにそういった意図もあったが……

それは再犯防止と、これ以上被害者を増やさないためが主な目的で。


「あんたの頭もたいがいお花畑ね。

私はあの女がどうなろうとどうでもいい」


 そう、毒女の兄に復讐を依頼した被害女性は、当時自殺未遂にまで追い込まれ。

毒女も、そんなふうにたくさんの被害者を苦しめていたため。

突然の報いだと思っていた。


 それでも今は後悔や反省をしているのなら、少しは現状を考慮するところだが。

逆恨みするような相手に、同情の余地はなかったのだ。


「でも被害者の事は1番に考えてくれてる。

加害者に謝罪させようとしたり。

タダ働きになるのに、依頼料も全部返してくれたり」


「別にお金目的じゃないからね」


「ほらっ、それってつまり被害者の救済が目的って事だし」


「やめてよ、そんなつもりさらさらないわ。

強いて言うなら、自己満足で自分がスッキリしただけ」


 そう、自分が救われたいだけよ。


「だとしても、結果的に救ってる。

しかも無償でもいいなんて、そんないい人いないよ」


「いい加減にして!

都合よく妄想するのは勝手だけど、私は復讐にしか興味がない冷酷な人間よ」


 そう、いい人なんかじゃない。

そんな人間になったら、あの男に復讐出来なくなる。


「……俺には、悪ぶってるようにしか見えないよ」


 その言葉に、思わず揚羽は胸を締め付けられる。



「っとんだ甘ちゃんね、あんたに何がわかんの?」


「じゃあさ。

わかりたいから、今度の日曜デートしよう?」


「はいっ?

……何企んでるの?」


「そりゃあ、彼女にしたいなって」


 バカバカしい答えに、冷めた視線を突き刺す揚羽。


「あははっ、そういう冷たい顔もいいね」


「マゾなの?

悪いけど、あんたに構ってる暇はないし、わかってもらわなくて結構だから」


「でも簡単には諦められないんだっ。

本当に信じられるのは、聡子さんみたいな人だろうなって」


「……バカなの?」

こんなとこじゃ口には出来ないけど、詐欺師なのよ?


「一番信用しちゃいけない人間だから」


「だから、そういうところ。

信じるなって言ってくれる人の方が、逆に信じられるなって」


 確かに……

信用される行動をしてないヤツほど、信じてを乱用するかもね。


「そこまで言うなら。

何があっても、私の事信じなさいよね」

そう言えば、今度は不信感を持つって事でしょ?


「もちろん信じるよ」


「どっちなのよ!

結局なんでも信じるんじゃない」


「えっ?あ、そっか。

でも俺、元々さ……

信じられない事だらけの世の中だから、好きな人くらいは信じたいなって思ってて」


「ほんと懲りない男ね。

それであの女に利用されたっていうのに、今度は私からも利用されたいの?」


「それでもいいよっ?

そうだ、タクシー使うくらいなら俺が足になっても全然いいし」


 なるほど、今わかったわ。

毒女から騙されてるのか、それとも一肌脱いでる共犯なのかと二択にしてたけど……

この男はきっと、どっちもだ。


 つまり、騙されてる部分もありながら。

好きな相手のために、一肌も二肌も脱いでしまうタイプなのだと。


「残念なイケメンね」


 こうも完璧なスペックを持ちながら、その残念さは……

もはや天然記念物だと、呆れる揚羽。


「もうちょっと賢くなってから出直してくる事ね」


「賢くって……

俺これでもやり手営業マンで通ってるし、策士だよ?」


「自分で言うのってどうなの?」

そう突っ込みながらも。


 その実力は認めざるを得ないと、一転して面目が立たなくなる。

仮にも揚羽は、一般人相手に心を掴まれそうになり、一杯食わされたのだから。


「あと本気で出直されても困るから、ここにはもう2度と来ないで。

そしたら連絡してあげる」


「ほんとにっ?

でも連絡がなかったら、また来るから」


 揚羽はあしらえない鷹巨に、ふぅと脱力すると……


「1つ教えといてあげる。

私、しつこい男は嫌いなの」


 そう言ってダミーマンションのエントランスロックを解除して、その中へと立ち去った。




 程なくして、その場に倫太郎が到着すると。

鷹巨の姿はもう見当たらなかったが……

今までのやり取りを聴いていた倫太郎は、ストレートに気持ちを伝えられる鷹巨を羨ましく思い。

やり切れなくなって、無性に揚羽に会いたくなる。


〈大丈夫か?〉

とりあえずそうメッセージすると。


 すぐにその本人から電話がかかってきた。


『大丈夫だけど、もしかして来てくれたの?』


「まぁ、来た意味なかったけど」


『ふふ、でもありがとう。

ねぇせっかくだから、部屋寄ってかない?』


 瞬間、心が躍る倫太郎。


「……なんか、食いもんあんなら」


『はいはい、なんか作ってあげるから、合鍵使って上がってきて』


 倫太郎は、それを使った事はなかったが……

何かあった時のため、お互い交換していたのだ。



 ところが。

弾む気持ちで車を停めようとした矢先、メールが入り。

倫太郎は苦渋の思いで、用事が出来たと揚羽に断りの連絡を入れたのだった。





 その週末、ようやく田中専務の仕事が落ち着き……

揚羽は柑愛と一緒に、約束していた久保井との2対2同伴に来ていた。


「いやもうほんとに大変だったよ。

システムが全部パァになるし、なかなか復旧出来ないし、取引先の対応には追われるしでさぁ」


「それは災難でしたね……

結構ご無理をされたんじゃないですか?

同伴は来週でもよかったのに」


「いやいやっ、ずいぶん待たせちゃったし。

揚羽ちゃんに会えただけで、今までの疲れも吹き飛ぶってもんだよ」


「ほんとですかっ?

だったらもっと吹き飛ばしたいんで……

お店に入ったら、愛情たっぷりの肩揉み(マッサージ)をさせてくださいね?」


「ほんとかいっ?それは嬉しいなぁ。

ちょっと来ないうちに、あの2人があんなラブラブになってるから悔しかったんだけど。

こりゃあ僕の方が幸せもんだなぁ!」


 田中がそう言うように……

柑愛と久保井は、人目もはばからずイチャついていて。

揚羽は見るに耐えない思いで、2対2同伴を後悔していた。


 柑愛の携帯を乗っ取って以来。

揚羽は2人のやり取りを耳にしたり、文字で見たりはしていたものの。

実際目の当たりにすると、不可抗力に胸が疼いて……

それが腹立たしくてたまらなかったのだ。


 すると、ふいに久保井と視線が絡んで。


「っ、本当に仲がいいですね」

慌てて笑顔でそう取り繕うと。


「うん、いつかは結婚したいと思ってるし」

返ってきたその言葉に……


 感激する柑愛と持て囃す田中専務に紛れて、揚羽は胸を抉られる。



 かつて自分も久保井に言われた、プロポーズを思わせるその言葉は……

今までで一番嬉しかった言葉で。

この上なく残酷な言葉で。


 憎らしくて、遣り切れなくて……

でももう2度と、久保井なんかに心を乱されたくなくて……

今に見てろと、必死に自分を奮い立たせた。



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