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虹色アゲハ  作者: よつば猫
オオルリアゲハ
14/41

「まずは…

こちらの結婚詐欺師から奪い返した、ご依頼金の300万円です。

お納めください」

そう封筒を差し出すと。


 セリフにそって手の平を向けられた鷹巨は、「えっ」と意味がわからない様子を示し。

毒女は一瞬バツが悪そうな顔を覗かして、「ウソでしょ、いつの間に」と混乱を極めた。


 やっぱり鷹巨は被害者か……

2人の様子から、そう判断する揚羽。


 結婚詐欺師という設定を本人に隠していたのは、聡子が赤詐欺専門の詐欺師と知られないためだろう。

それがバレれば、聡子に狙われた兄が赤詐欺という事を物語るからだ。


 すると毒女は開き直った様子で冷笑した。


「やるわね、だけど……

アポなしでなんの報告もなく、しかもこんな形で渡すなんてルール違反じゃない?

そんなんじゃ依頼料は払えないから」


「確かに、正規の依頼ならルール違反でしょうが……

依頼された復讐代行サイトには、虚偽の申告には然るべき処置をいたしますと書いてましたよね?

なので、何も文句は言えませんよ?」

と、依頼者の名をさん付けで呼んだ後。


「あ、違った。

詐欺師の」と声色を低くして、その本名を口にすると。


 再び毒女の顔が驚きで染まり。

チラリと覗き見た鷹巨も、耳を疑う素ぶりを見せた。


「確かお兄さんは、詐欺で奪ったお金を奪い返されて。

薬物の代金が払えなくなって、売人からリンチされたのよね。

それで逆恨みして、復讐しようって?」


「全部お見通しってワケ。

赤詐欺専門って割には、美人局以外にも脳があったんだ?」


「逆にあんたは美人局でくるとしか思わないなんて、どんだけ脳無しなの?」


 そう言い返されて、毒女は揚羽をキッと睨んだ。


「脳ナシはどっちよ。

わかってて依頼を達成するとか、頭スッカスカなんじゃない?

残念だけど、受け取ったもんは返さないから」


「どうぞ?」

後で回収するし。


「こっちはあんたみたいな小物相手にしてないから、受けた依頼をこなしただけだし。

あんたの男のお金だから、痛くも痒くもないからね」


 そこで、黙って状況を読み取っていた鷹巨が、青ざめた顔で呟いた。


「でも俺、取られた覚えなんか……」


 揚羽は胸を痛めながらも、不敵な笑みを鷹巨に向けた。


「それは後でわかるわ」

カード会社から請求が来るからね。


 そう、鷹巨がプレゼントを購入した偽サイトでは、非会員はカード払いのみという設定にしていた。

怪しまれないように、会員になれば支払い方法が増える設定にしていたが……

会員登録にはカード情報の入力が必須のため、結局はどちらでもその情報が得られる仕組みになっていた。


 倫太郎が睨んだ通り、鷹巨の場合その収入から限度額も高額で。

つまりそのカードから依頼金を調達していたのだ。


「あと、受け取るなら依頼料はきっちり払ってもらうわよ?」

そう請求書を差し出すと。


「180万!?

ふざけないでよっ、そんな金額払えるワケないでしょっ?

だいたい、最初に提示された金額と違うじゃないっ。

……っほら!」

毒女は、それが記載されたメールを見せ付けてきた。


「だから……

差額は然るべき処置の一環に決まってるでしょ?

どこまで頭お花畑なのよ」


 苦虫を噛み潰したような表情を見せる毒女。


「でもそんな金額、すぐには払えないわっ。

せめて期限を設けてよ」


「払えるじゃない。

その依頼金から抜き取ればいいだけでしょ?」


「これはっ……

鷹巨のお金だから」


「へぇ、返す気あるんだ?

てっきり、鷹巨を上手く言いくるめてネコババするのかと思ってた」


「っ、しないわよそんな事。

嫌われたくなかったから、嘘はついてたけど……

愛してるもの」


「じゃあ今すぐ返しなさいよ。

それで鷹巨に180万建て替えてもらったら、返済猶予も出来るじゃない」


「それはっ……

鷹巨のお金がほんとに取られてるってわかったら返すわよ。

もしかしたら、あんたのハッタリかもしれないし」


 揚羽は呆れたふうに溜息を吐き零した。


「身銭切ってまでそんな事して、私になんのメリットがあるのよ。

つくづく往生際も頭も、だいぶ悪い詐欺師ね。

だいたい、愛してるなら極力晒したくないって思うもんでしょ。

なのに鷹巨だけ晒して、復讐詐欺の実行犯をさせるなんて。

でもまぁ……

ここまで完璧なスペックなら、それを使わない手はないし。

逮捕も恐喝も両方成し遂げるには、必要なだけど。

そこまで謀れる頭はなさそうだし、あんたみたいな小物にそんな技量はないか」


「小物小物って、それぐらいで技量とかウケるんだけど。

こっちは余裕で両方やるつもりだったし、それを見抜けないあんたの方が小物なんだけど」


 はい認めた。

まぁこんだけ蔑まれたらアピールしたくもなるわよね。


「見抜けなかったら、そんな誘導尋問してないわ。

お疲れ様。

せっかく鷹巨を捨て駒にして、恐喝も逮捕も謀ってたのに。

そしたら私たちのどっちが成功しても、金銭が手に入るはずだったのに。

とんだ無駄骨だったわね」


 鷹巨を捨て駒だと認めざるをえない、一連のやり取りに。

毒女は悔しそうに苛立ちの表情を覗かせた。


「別に暇つぶしでやってただけだし。

こんな金、返してやるわよ。

けど、手持ちがないから依頼料は建て替えてもらうけど」


 そう言って、抜き取ったお札を数え始めた。


 建て替えてもらうって、返す気なんかないくせに……

そしたら損はしないもんね。


 依頼料を受け取った揚羽は、立ち上がって下座の後方に進むと。

襖の前に置かれた椅子に腰を下ろして、金額を確かめ始めた。


 移動は身を守るための行動で。

襖の向こうでは倫太郎が、中の状況に神経を張り巡らせていた。



「確かに180万、いただくわね」


「じゃあ私は帰らせてもらうから」


「なに寝ぼけた事いってんの?

まさか、これで終わると思ってんの?」


「はっ?

これ以上なにがあるってゆうのよ」


「いやこっちが、は?

まずは、鷹巨に何か言う事ないの?」


 その言葉に驚く鷹巨。


「……ごめんね、鷹巨。

でも一緒にいた時間は本当に、詐欺師なんか辞めたいくらい、」

「この期に及んでなに取り繕ってんのよ。

誠心誠意謝れって意味でしょ?

もういいわ、話にならない」

揚羽はそう毒女の弁解を遮ると。


「じゃあ、本題に入るわ」

足を組みなおして、偉そうに見下ろした。


 さ、ここからが本番よ。


「うちの組織に喧嘩を売った落とし前、付けてもらわなきゃね」


「組織?……落とし前っ?」


「そうよ、私が単独犯だとでも思った?

残念だけど、逆恨みした相手が悪かったわね」


 そう、私には天才ハッカーがいる。

せいぜい後悔するのね。


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