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虹色アゲハ  作者: よつば猫
オオルリアゲハ
13/41

 そして偽誕生日、当日。

鷹巨は高級フレンチを予約していて……

揚羽はそこでお祝いをしてもらっていた。


「このスズキのポワレ、絶品ですねっ」


「でしょっ?

今が旬だし、僕のお気に入りなんですっ」

ほんとに楽しそうな笑顔をみせる鷹巨を前に。


 このあとその笑顔が絶望に塗り潰されるのかもしれないと、可哀想になる。


 だとしても、手加減はしないし。

鷹巨のためにも、現実を突きつけなきゃと思い直す。



 それから食事を終えると、リクエストしていたプレゼントが渡された。


「うそ、ひと通り揃えてくださったんですかっ?

どうしよう、感動です……

しかもチョイスセンスまで最高ですっ」


「喜んでもらえて良かったです。

実は、そうゆうのあんま分かんなくて。

気に入ってくれなかったらどうしようって、内心ドキドキしてたんで」


「いえもう気に入りすぎて、使うのが勿体ないくらいです。

お料理も本当に、びっくりするくらい美味しかったですし……

こんな素敵な誕生日は初めてです」


「ほんとですかっ?

うわそれ、僕の方が嬉しいですっ」



 そんなふうに、いい雰囲気で……

店を後にすると。


「あの、もう少しだけ一緒にいたいんですけど……

僕の家に寄ってもらってもいいですか?」


 仕掛けてきたわね。


「はい、私も一緒にいたいです」



 そうして……

2人ともワインを口にしていたため、タクシーで移動すると。


 もうすぐ着くという頃。

毒女が自宅から動く気配がないと、倫太郎からメッセージが届く。


 どういう事?

本命がいなきゃ意味ないじゃない……


 監視カメラが仕掛けられてるであろう部屋に、上がるつもりなど当然なく。

どうするかと、思考を走らせた時。


「運転手さん、すみません。

着いたらメーターを切らずに、少し待っててもらっていいですか?」


 不可解な発言をする鷹巨に、揚羽はますます困惑する。


 とりあえず、相手の出方を見る事にすると……

目的地に着くなり。


「じゃあちょっと、待っててください」

揚羽にまでそう言って、運転手にもぺこりとそれを促すと。


 鷹巨はマンションの中に消えて行った。



 なるほど、今から毒女を呼ぶつもりね?

それともカメラの起動でも?


 ひとまず、鷹巨が戻って来たらコンビニに誘導して、時間稼ぎをしようと目論む揚羽。



 ところが、戻って来た鷹巨は……


「改めて、誕生日おめでとうございます」

豪華なフラワーアレンジメントを差し出して来た。


 ふわりと、甘くて残酷な匂いが鼻をかすめる。


「ブッドレア、好きでしたよね?

だからプレゼントしたくて」


「え……

まさかそのためにここへ?」


「はい、サプライズしたくて」


 別の意味で驚いたわよ……

あんた復讐する気あんの!?


「すごく、嬉しいです……

泣きそうなくらい、嬉しいです」



 吐きそうなくらい、嫌気がさすわ。

鷹巨に見送られた後、その匂いが立ち込める車内でそう毒づく。


 結局、鷹巨の行動から……

毒女は来れないのかもしれないと判断した揚羽は、日曜に決着をつける事にしたのだ。

さすがに、何が仕掛けられてるかわからない毒女の家に、乗り込む気はさらさらなかった。


 偽装住居に着くと、すぐにそのフラワーアレンジメントを捨てようとした揚羽だったが……

あまりに豪華で目立つため。

そのマンションに聡子が住んでると思っている鷹巨が、何かのきっかけで通った時。

捨てたのがバレてしまうと考え、渋々次のダミーマンションまで持ち越す事にしたのだった。





 その週末。


 あ、嫌気がさす匂いの根源……

例のごとく店にやって来た久保井に、そう毒づく揚羽。


 もっとも、その男の匂いは抱きしめられなきゃわからないレベルだけど。

思ったと同時、その記憶に胸が潰される。



 再び憎しみが込み上げながらも、なんとかやり過ごして……

時間を迎えて帰ろうとしている久保井に、お見送りの言葉をかけると。


「じゃあ来週、また電話して?」

久保井は揚羽をスルーして、隣の柑愛にそう告げた。


 ふぅん、シカト。

でもありがとう。

これでもう嘘つけないわよね?


 久保井が毎日通ってたのは最初の一週間だけで、今は週末しか来ておらず。

その言葉から連絡先は、先週入手していた事が窺えた。


 なのに柑愛から報告されてない事を考えると。

睨んだ通り、名刺の件は嘘だったと確信する。



「連絡先、聞いてたんじゃない。

その様子じゃ名刺も、ちゃんともらってるわよね?

まぁ私としては、確認させてもらえばそれでいいけど……

じゃ、見せてくれる?」


「……ムリです。

誰にも教えるなって言われたんで」


「だから何?

私が漏らさなきゃバレないんだし、約束したわよね?」


「……すみません。

でもあたし、久保井さんの事が好きなんですっ。

だから、好きな人との約束を優先したいってゆうか……」


 久保井は筋金入りの結婚詐欺師だし、そうなるのも時間の問題だとは思ってたけど……

やっぱりそう来たかと、ため息を吐く揚羽。


「あのね柑愛ちゃん。

忠告したわよね?あの男は危険だって」


「……てゆうか、揚羽さんに何がわかるんですか?

そんなの、久保井さんを取られたくなくて言ってるだけでしょ?

だいたい、久保井さんの事ならあたしの方がたくさん接してわかってます!」


「……そう。

だったら好きにすればいいわ」


 こっちはあんたを隠れ蓑にして、情報はハッキングするまでよ。


 でもその前に。

明日の毒女から片付けなきゃねと、揚羽は苛立ちをそっちに向けた。


 その毒、たっぷりはね返してあげる。





 日曜。

揚羽は誕生日のお礼と称し、鷹巨を高級和食店に誘い出していた。


「聡子さん、さすがにここはお気持ちだけで。

ずっと来たいと思ってたんで、僕にご馳走させてください」


「それじゃお礼にならないですし、もうすぐ多額のボーナスが入るので気にしないでください。

それに……

私もサプライズを用意してるので、食事どころじゃなくなるかもしれませんよ?」


「そうなんですかっ?

うわなんだろ、すごく楽しみですっ」


 ごめんね鷹巨。

悪いけど、楽しいとは真逆になるわ。



 そうして、手配していた個室入ると。

鷹巨は目を大きくして固まった。


 目の前には毒女が座っていて。

この状況に怪訝な視線を向けていたが……


「はじめまして、石野聡子です」

揚羽がそう微笑むと。


 毒女の目も見開かれる。



 そう、鷹巨がアクセスした偽通販サイトには、ウイルスが仕込まれていて。

天才ハッカーによって、携帯を操作されていたのだ。


 それにより、メッセージで毒女をこの個室に呼び出し。

その送受信はすぐに消去され、やりとりの間は通知音も切られていたため。

鷹巨は気付く事なく、毒女も鷹巨からの連絡だと思い込んでいた。


 そして同じ手口で……

聡子の顔写真が手に入ったと、事前に別人の画像を送っていたため。

毒女は、知らない女が同行している状況を怪訝に思い。

名前を聞き、当然驚いたのだった。



「どういう事!?」

「いや俺もさっぱりっ……」


 揚羽は動揺する2人に「ご説明しますので」と、上座に並んで座らせた。


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