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虹色アゲハ  作者: よつば猫
オオルリアゲハ
12/41

 揚羽はその日、ようやく久保井が柑愛に名刺を渡しているのを目にした。


 あれから田中専務は仕事が立て込んでいるらしく、しばらく顔を出せないとの事で。

久保井もここ1週間は来店してなかったため。

先行きが不安になっていた揚羽だったが、ほっと胸を撫で下ろす。



「柑愛ちゃん、やっと名刺もらえたみたいね。

約束通り、ちょっと確認させてもらえる?」


「えっ……

まだもらってないですけど」


「えっ?

でもさっき、もらってるとこ見たわよ?」


「あれは……

面白い名刺を見せてもらってただけです」


 軽く目が泳いだのを、揚羽は見逃さなかった。


「ふぅん……

じゃあもらったら、ちゃあんと教えてね?」

口元に笑みを浮かべながらも、目で訴るように見つめると。


 柑愛はすぐに視線を逸らして、ペコリと背を向けた。


「あ、あと。

久保井さんには気をつけてね?」


 振り向いた柑愛は一瞬怪訝な顔を覗かして、再び会釈をして去っていった。


 ちゃんと釘を刺したのに、もう久保井に絆されちゃった?

柑愛が嘘をついてると睨む揚羽。


 まぁいいわ。

確信を得るまで、このまま泳がせとくか……





 後日、毒女への反撃準備が整った揚羽は……

親が回復した旨を伝え、鷹巨とのデートに漕ぎ着けた。


 手料理の約束は、監視カメラ避けるため。

手に怪我をしたという理由で、事実上無期延期に持ち込んでいた。


「延期になったお詫びに、今日は私にご馳走させてください」


「いえっ、手料理楽しみにしてるんで、ここは僕に奢らせてください」


「そんなっ……

遊園地でも全部出していただいたのに」


「それは僕が誘ったんで当然です。

でも……

出来ればこれからも、そうやって僕にカッコ付けさせてもらえると嬉しいです」


「もうっ、鷹巨さんってどこまで優しいんですか?」


 結婚詐欺師じゃないくせに……


 今回延期を伝えた時も、相変わらず「いつでもいいですよ」と言う始末で。

詐欺師にしては間抜けだと思っていたが、やっぱり一般人なんだろうと改めて思う。


 だからこそ。

聡子を陥れたいはずなのに上手く美人局に誘導出来ず、待つ事しか出来ないんだろうと。


 でも実際、鷹巨本人はそれだけじゃなく。

どうしても聡子が悪い人間に思えず、訴えるのに抵抗を感じていたのだ。



「次どこ行きますっ?」


「あ、行きつけの服屋さんに寄ってもいいですか?

それで……

鷹巨さんの好みで見立ててもらっても、いいですか?」


「もちろんですっ。

僕好みで良ければ、喜んで」



 そうして。

選んでもらった服を、嬉しそうにレジに運んだ揚羽は……

そこで10%オフの葉書を提示すると。


 それを見た店員が丁寧に頭を下げた。


「誕生日おめでとうございますっ。

承ります」


「えっ、今日誕生日なんですかっ?」


「いえ、来週です」


 その葉書は今月が誕生日の顧客に送られたDMで、揚羽が工作により手に入れたものだった。


「だったらこの服、僕にプレゼントさせてくださいっ」

バツが悪そうに、慌てて財布を取り出す鷹巨。


「こんな金額いただけませんっ。

それに、誕生日は来週ですよ?

私は縁起を気にする方なので、早くいただくのはちょっと……

なので、お気持ちだけで」


「そんなわけには……

何か他に、欲しいものとかないですかっ?」


 そりゃあ、この流れじゃ引き下がれないわよね。


「いえほんとにっ……

あ、じゃあこれをいただいてもいいですかっ?」

打開策を思い付いた素ぶりで、揚羽は携帯を取り出した。


 そしてハンドメイドの通販サイトを開いて、それを鷹巨に提示した。


「私、この作家さんの食器を集めたいと思ってて……

また鷹巨さん好みで、選んでもらってもいいですか?」


 それらはどれも安価で、遠慮する聡子らしいチョイスだった。



「どれも素敵ですね。

わかりました、じゃあサイトのリンクを送ってください」


「はいっ。

ありがとうこざいます、楽しみにしています」


 送ったリンクは、本物そっくりの偽サイトに繋がるもので。

詐欺師とバレているため、今までの流れは怪しまれないための演出だったのだ。




「じゃあまた、誕生日に」


「えっ……

平日なのに、一緒に過ごしてくれるんですかっ?」


「もちろんですっ。

聡子さんのためなら、いくらでも時間を作ります」


 なるほど、その日なら罠に誘導しやすいもんね。


 そう、誕生日演出で甘いムードに持っていったり。

もしくは、平日で短い時間しか過ごせなかったからといった理由で。

もっと一緒にいたいと、家に誘いやすいのだ。


 しかも、お祝いしてもらった立場なら断りにくく。

美人局を企んでるなら、喜んで食いつくはずだからだ。


 そこで揚羽も、その頃にはこっちの手筈も整ってるだろうと……

その日に決着をつけてやろうと目論んだ。


 相手が美人局の現場を押さえるつもりなら、毒女も結果を気にして近くで待機するはずだと踏んだのだ。





「は?

まさか2対1でケリ付ける気じゃねぇよな?」


「そのつもりだけど何?」


「バカ、どう考えても危ねぇだろ」


「大丈夫でしょ。

あの男は一般人だろうし、女の方は逆らう気も失せるだろうしね」


「だから、追い詰められたらヤケんなって何するかわかんねぇだろっ」


 倫太郎の言葉は、例の最後にした美人局を物語っていた。


「でもあの男の反応を確かめたいのよ。

もし騙されてるなら、あの男も被害者だし」


「知らねぇよ。

いいからあの女とサシでやれよ」


「そんなワケにはいかないわよ。

赤詐欺に復讐代行してる私が、その被害者かもしれない相手を見過ごせると思う?」


 揚羽はあれから気になっていた。

鷹巨は騙されてるのか、それとも一肌脱いでる共犯なのかと。


 その結果。

目的のためにヤクザと交際した毒女の手口や、考え付いた状況から……

鷹巨はただの捨て駒でしかないように思えていた。


 騙されてるなら、もちろんそうだが。

共犯の方だとしても、そうじゃないかと。


 身分を晒してまで、復讐詐欺の片棒を担ぐほど好きなら。

鷹巨の性格や立場や懐具合を分析する限り、恐喝に加担するよりお金を貸す方が自然だ。

となると逮捕目的で共謀してる可能性が高いが、詐欺師が利益なしに動くとは思えない。


 つまり毒女は、逮捕と恐喝の両方を企んでいて……

それなら揚羽と鷹巨のどちらが成功しても、お金が入る。

障害者の兄を支えるには、それが1番必要なものだろうと考えたのだ。


 そしてその場合、どちらが成功しても鷹巨は切り捨てなければならない。

揚羽が成功した場合、鷹巨から奪ったお金を返さずにネコババするため。

鷹巨が成功した場合、身分を晒してる当人に罪と報復の矛先をなすりつけるため。


 訴えられたくなかったらと恐喝して、金銭を奪った挙句。

兄の報復のため、裏切って訴えれば……

約束が違うと報復される危険性が高い。

だとしても、身分を詐称してる毒女だけドロン出来るからだ。


 もしそうだったら、鷹巨はどれだけショックを受けるだろう……

揚羽は胸が痛んだ。



「……ったく、だったら俺も同行する」


 いつもは近くで待機している倫太郎だったが、そう妥協すると。


「美人局じゃないんだから、倫太郎(切り札)を不必要に晒したくないの」

と言い逃れる揚羽。


 そう、身分を詐称してない倫太郎を晒すわけにはいかなかったのだ。

復讐するような相手には、尚更。


「だからってアンタになんかあったら意味ねぇだろ。

変装してでも側で守るからな。

じゃなきゃその案には乗らね」


「じゃあ距離を空けて話すから、倫太郎はすぐ側で隠れててよ」


「そんなんでいざって時に間に合うか?」


「間に合うわよ、倫太郎なら。

だって私たち最高のバディでしょ?」


「言ってろよ」

倫太郎は嬉しそうに笑って。


「けど今度こそ、命懸けで守ってやるよ」

当たり前のようにさらっと零した。


 命懸けでって……

その言葉に、揚羽はドキリとしながらも。

「大げさね」と笑って流した。




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