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虹色アゲハ  作者: よつば猫
ベニモンアゲハ
11/41

 それからほどなくして、倫太郎は退院し。

さっそく別の手段でターゲットを探り始め、ほとんど家を留守にしていた。


 揚羽も、ターゲットとこれといった接触がなかったため。

倫太郎を心配に思いながらも、会えない日々が続いていた。



 そんなある日。

タクシーで移動中だった揚羽は……

信号で止まった場所のラブホテルに、何気に目を向けると。

出入り口から倫太郎が出てきて、目を疑う。


 隣には若くて妖艶な女がいて、腕を組まれて仲良さげに歩いていた。


 ふぅん、やる事やってんだ?

そりゃあね、まだ若いし。

カッコいいから、女がほっとかないだろうし。

バディの仕事も今落ち着いてるから、ここぞとばかりにそうなるだろうけど。


 私には見向きもしないくせにね……

拒絶された時の事を思い浮かべて、思わず胸が痛くなる。


 でもすぐに。

仕事仲間だし、6コも上だし。

連れてた女を見る限り、対象外なんだろうと。

馬鹿な考えをした自分を鼻で笑った。





 そうして、鷹巨の出方を待ってから2週間ほどが過ぎた。


 その間。

〈無理してないですか?〉

〈力になれる事があれば何でも言ってください〉

などといった労いの言葉が送られてきた以外は、何の動きもなく。


 依頼者の母親の体調を危惧した揚羽は、痺れを切らし。

延期していた作戦を練り直していた。



 すると、倫太郎に呼び出され……

すぐにその家に駆け付けると。


「この前の作戦は中止だ」


「は?

どういう事?」


 その問いに、驚くべき事実が明かされた。

なんと、今回の依頼は罠だという。


 倫太郎はこの2週間、まずは鷹巨を張っていて……

ある女との接触を捉えたのだ。


 そこで今度はその女を張って、交流関係を調べると……

障害者の男と、1人のヤクザが浮かび上がった。


 障害者の男は、その女の兄で。

揚羽が単独の頃、美人局で陥れた男だった。

それにより、薬物の購入代金が払えなくなった男は……

売人たちのリンチにあい、障害者になったようだ。


 他に身寄りもなく、ずっと兄妹で詐欺をして生計を立てていたようだが……

今は妹であるその女が、詐欺の傍ら面倒を看ているとの事だった。


 そしてヤクザの方は、その女が少し前まで交際していた相手で……

揚羽が以前、美人局の恐喝役に雇った男でもあった。


 保存している盗聴器のデータでは、組名を出して脅していたため。

恐らくそれを手掛かりに、そのヤクザを突き止め。

近付いて深い関係になり、揚羽の情報を知り得たのだろう。


 兄の介護に疲れていたようで、その頃から友人に復讐をほのめかしていたそうだ。



「なにそれ、逆恨みもいいとこ。

じゃあこの依頼者の情報は何?

ちゃんと調べたんじゃなかったの?」


「その情報に間違いはねぇよ。

でも実物を確かめにいったら、その女と別人だった」


「つまり、成りすましって事……」

揚羽はやられたといったふうに、片手で顔を覆った。


「そ。

本物がSNSで顔晒してないのをいい事に、ご丁寧に成りすましアカウントで自分の顔晒してたってワケ」


 やってくれるわね……

こっちは本気で心配してたっていうのに。


「じゃあ今回のターゲットはその女と共犯、なワケないか。

片方が完璧に身分詐称してんのに、自分だけ表の顔晒さないわよね。

ってことは、鷹巨(その男)も騙されてるって事?」


「さぁな。

けどそいつら付き合ってる感じだったし、女のために一肌脱いだんじゃね?」


「だからって、身分晒して復讐詐欺の片棒を担ぐ?

下手したら、誰もが羨むような人生を犠牲にするかもしれないのに。

それじゃ完璧エリートじゃなくて、ただのバカじゃない」


「バカでも、マジで惚れたら何でもするだろ……」

まるで自分の事のように、 切なげに呟く姿に。


「倫太郎も?」

思わずそう訊くと。


「……するよ、何でも」

その切れ長の大きな目で、じっと見つめられ……


 ドキリと心臓が跳ねた揚羽は、誤魔化すように話を切り替えた。


「でもよく調べたわね。

女遊びに限らず、ちゃんとやる事やってたんだ?」


「ったり前だろ。

つか女遊びとかしてねぇし」

むしろ、どんだけ大変だったと思ってんだよ……


「別に隠さなくてもいいじゃない。

仲良くホテルから出てきたくせに」


「っ、あれはっ……」

見られてたのかと、途端動揺する倫太郎。


 だけど。

揚羽の役に立ちたくて、情報のために行為に及ぶしかなかったとは言えず。


「まぁ、アンタと違って若いし?」


「……殺されたいの?」



 ハッキングで得られるのは、コンピュータやネートワーク上の情報だけで。

そこに上がってなければ何も掴めない。

そういった場合や今回のような場合、倫太郎は足で稼いだり体を張って情報収集に奔走していた。


 そのため普段から、空いた時間は裏の情報網作りに動いていた。

もちろん、揚羽の動向をチェックしながら。


「とにかく。

どっちにしろ表の顔は、美人局用に晒してたんじゃね?

自分の兄貴がそれでヤラれたから、その手でくると思ってんだろ」


「なるほどね。

美人局ならその表の顔に食いつくだろうし。

表の顔なら正々堂々訴えれるし、それをネタに恐喝もしやすいもんね」


 事実食いついた揚羽は、その時倫太郎が反対しなかったら危ないところだったと身の縮む思いになる。


 さらに、訴えるにはそれなりの証拠が必要なため。

鷹巨の家には防犯用と称して、すでに監視カメラや盗聴器等が仕掛けられていたに違いなくて。


 あの時作戦を実行していたら、たとえ美人局を行わなくても。

顔を晒した犯行の様子が、一部始終記録されていただろうと。

大きく溜息を吐かずにはいられなかった。


 そして今も。

倫太郎の情報収集がなければ、またその術中に向かうところだった。


「ほんと、頼りになるバディね」


 探偵でもないのに、ここまで調べ上げるなんて……

きっと身を粉にして暑い中動き回ってくれたんだろうと、しみじみ思う。


「っ今さら?」

嬉しくてニヤけそうになった倫太郎は、乾いた笑いでそう誤魔化す。


「いつも頼りにしてるわよ。

調査おつかれさま」


 すると何か思い出した様子で、照れくさそうに視線を流す倫太郎。


 その様子を目にした揚羽も。

あの独り言が聴かれてたんだと、思い当たって恥ずかしくなる。


 あぁも、なにこの沈黙……

ガラにもない事するんじゃなかった。



「それより、体調は大丈夫なの?

病み上がりなのに、けっこう無理したんじゃない?」


「余裕だろ」


「ならいいけど……

お腹は空いてるでしょ?

約束してた生姜焼き、作ってあげる」


「いつの話だよ。

つか材料ねぇし」


「冷凍室見てないの?

ていうか、あんたがずっと留守にしてたから作れなかったんでしょ」


 そのため、作りにきた揚羽は材料だけ置いて帰っていた。

そして倫太郎は、GPSで揚羽が何度も訪れていたのを知っていたが……

特に連絡がなかったため、調査に集中していたのだ。


「あ、アイスもある」


「差し入れよ。

どれも好きでしょ?」


「なんで知ってんだよ、ストーカー?」


「いや気付くでしょ。

むしろどの口が言ってんの?」


 確かに、ボディガードのためとはいえ。

揚羽の動向をチェックしてる自分の方がそうだと思いながら、倫太郎は嬉しそうにハハッと笑った。


 そうやって気付いてくれた事だけじゃなく。

揚羽が料理やアイスの差し入れのためだけに来てくれてたのが、嬉しくてたまらなかったのだ。


「じゃあ食ったら作戦会議な」


「なに、ずいぶん張り切ってるわね」


「ったり前だろ?

このまま、舐められたまま終われねぇだろ」


「ふふ、そうね。

しっかり利子つけて返さなきゃね」


 そう、私を騙した事を後悔させて。

2度と逆恨みなんか出来ないようにしてあげる。


 依頼者から毒を持つ蝶へと脱皮した、毒女どくおんなを思って……

揚羽は眼光を鋭くするのだった。




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