我が家は遠い
ぼくらは走っていた。
妖精界から黒い穴を通った先は森の中だった。
森から出るだけで5日はかかる深い森の奥だ。
どの方向へ行けば森から出られるのか、人里につくのかも分からず、とりあえず定めた方向へできるだけまっすぐ進んでいく。
歩き、走り、休む。
夜なんかは崖や斜面に穴を掘って、そこに身を潜めて休む。
初めて知ったよ、生活魔法の土魔法がこんなに使えるなんて。
生活魔法を使いまくってぼくらが休めるだけの穴を掘るんだもん。
木の上で休まないのかって聞いたら、木の上は疲れが取れにくいし、蛇や猿なんかの魔物がいるから嫌なんだそうな。
地上のほうが危険な魔物がいるけど、慣れない木の上で戦うより、少々手強くても地上で戦う方が楽だといってた。
夜はここまで一緒に来てくれたラグドールの猫妖精が見張りをしてくれてる。
見張りを頼んだらよく分からなかったようで、説明して見張りをお願いしたけど嫌がられた。
でも、小さな円を描いて、そこから出ないようにして、何か指定した範囲内で動く生き物を見つける遊びを提案したら嬉々としてやってくれたよ。
そんなこんなで、ようやく森から出ることができて、近くにみつけた村に入ってびっくり。
王都まで馬車で1ヶ月以上かかるような辺境だったよ。
ぼくと父ちゃんと猫妖精の三人は一夜の宿をお願いするために村長さんの家に行った。猫妖精は他の人たちには見えないんだけどね。
村には宿もないため、泊めてもらおうと思ったら村長さんの家でお願いするんだよ。
森の中を5日間も彷徨ったため、服もぼくらの体も汚れており、家の中から黒い穴を通って妖精の女王のところに行ったもんだから、父ちゃんは武器もお金も何も持ってない。
そのため父ちゃんはぼくのウエストポーチに入ってた解体用ナイフを武器の代わりにしてたんだ。
そしてぼくのウエストポーチの中にはそれなりのお金も入ってた。
いつなんどき商売の種に出会うとも限らないしね。
「これ謝礼です」ってお金を手渡したら快く泊めてくれることになった。
ちょうど行商人が来てて、その人も一緒だよっていうから挨拶に行ったら、板芝居を子供だけじゃなく村人全員といってもいいくらいの人たちに披露してた。
父ちゃんが描いたものに間違いないし、ぼくが書いたどっかの伯爵家を賛美する英雄譚だった。
読み方はそれほど上手くはなかったけど、子供から大人まで手に汗握り興奮してそれを聞いてる。
「あの方はここの領主様のご先祖様なんだぞ」「すげー」なんて大人が子供に教えている姿もあった。
読み終わったら商人さんに話しかけようと思って待ってたけど、終わったら商人さんは村人にかこまれ、なぜかもう一度同じ話を読んで聞かせることになってた。
しょうがない、ぼくらはとりあえず体の汚れだけでも落とさせてもらおう。
着替えがないから、服はそのままなんだけどね。
「大人気でしたね」
父ちゃんが声をかけ、ぼくらは挨拶を交わす。
「そうなんですよ。板芝居でお金をとってはないけど、村人からの歓迎の度合いが以前に比べて断然よくなりましたよ」
「それはよかったですね」
まぁ、皆に喜ばれてるなら作った甲斐はあったよ。
この商人さんに聞いて王都まで一ヶ月はかかるってことを知ったんだけど、そんな辺鄙なとこにまで貸し板芝居屋できてるって聞いて二度びっくりした。
なんでも、アッチーノ伯爵様のいるアッチーノ町に貸し板芝居屋があるらしい。
商人さんにその町まで一緒に乗せて行ってくれないかお願いしたけど、この後他の村をいくつもまわらないといけないからって断られてしまった。
しょうがないので、旅に必要な道具や安っぽい剣を売ってもらって、自分たちの足で行くことにした。
服や下着は村人が布を買って自分で縫うから無いって言われたので、村人にお古を売ってもらった。
継ぎ接ぎなんかがあったけど、汚れてるよりはいいよ。
ぼくらは町まで走った。
身体強化魔法を使い、走りまくった。
猫妖精さんはかけっこだって言ってとても楽しそうだったよ。
ぼくなんか途中でへばったけど、おぶってくれて父ちゃんがマジで走ってた。
ぼくといっしょの時とは比べ物にならないくらいのスピード出てたよ。
馬なんか目じゃなかったね。
「身分証は?」
「はあ?」
「身分証」
「持ってません」
「いい大人が身分証失くしたの? それとも村からでてきたばかりで持ってないの?」
「出てくるときに持ってくるのを忘れたんです……」
町に入ろうとしたとこで父ちゃんがストップかけられてしまった。
ぼくはウエストポーチに冒険者証入れてたから助かったんだけどね。
今まで村とかではそのまま入れてたから失念してた。
身分証がないと町に入れてくれないんだよね。
村人とかは持ってなかったりするけど、村長からその都度いついつ物を売りにいくため入町を許可してくださいって手紙を持たされてくるらしい。
というわけで、父ちゃんを外に待たせてぼくだけ町に入れてもらった。
「板芝居屋ってのがあるって聞いたんですが、どこでしょうか」
町を歩く行商人っぽい人に聞いて、そちらへと向かう。
町の入り口で兵士に聞かなかったのは、身分証のない怪しい人間と板芝居屋が関係あるって思われたくなかったから。
「こんにちわー」
「はいはい、こんにちは。ぼく、申し訳ないんだけどここは商人さん相手のお店なんだよ」
温和そうなお爺さんがそう教えてくれたけど、用件はちょっと違うんだ。
「はじめまして、ぼくぷっくる、5歳!」
定番の挨拶の後、近づいて小声で話しかける。
近寄ろうとするぼくから離れるとか飛びのくなんて怪しい動作はしない。
普通ののんびりしたお爺さんかなって思ってしまう。
「板芝居の考案者プックル。アルル様に連絡取りたいんだけど、できる?」
「板芝居に興味があるのかね。奥で茶でも飲むかい?」
店の奥に案内され、お茶を出してくれたがそれを口にしていいのか迷う。
「えーと、さっきも言ったけど爺ちゃん達を雇ってお仕事してもらうよう提案したのはぼくね。このお茶飲んで安全?」
「ほっ、ほっ、ほっ。わしらは皆あなた様の顔を知っておりますよ。皆感謝しております。どうぞお茶をお召し上がりください」
「よかった。実を言うと、8日前かな。ぼくと父ちゃんはたぶん妖精の魔法で王都の自分の家からこの領の端にある森に飛ばされてしまったんだ。家族が心配してると思うから連絡をとりたいんだけど、何か急ぎで連絡をとる方法ってある?」
「ほうほう、そのようなことが。プックル様とはいえわしらの連絡方法をお教えすることも使わせることもできませぬ。しかしこの町の魔道具屋に頼んでみるとええ。その者の本職は魔導師で使い魔を飼っておるのじゃ。その使い魔ならば王都まで1日もあれば着くはず。もっとも結構ごうつくではあるがの。手持ちが無ければこちらで用意するがどうじゃ?」
「たぶん大丈夫だと思う。情報ありがとうございました。それとお茶おいしかったです」
「ほっ、ほっ、ほっ。あなた様の叔父上のところで買ったお茶を気に入ったで、こっそりプックル様が作ってるところを覗いて調べたのですじゃ」
なんと! 我が家の防諜体制どうなってるのよ。
どうすれば安全になるかを考えながら板芝居屋を後にするのだった。
魔導師にお願いして、いや、大金払って無事連絡がついたということだけは言っておこう。
ものの数時間で鳥型の使い魔は王都まで飛んで行き、精神が繋がっている魔導師の指示で爺ちゃんの屋敷の門番にぼくの爺ちゃんか婆ちゃんを呼んでって手紙を渡し、爺ちゃんを呼んでもらった。
そして爺ちゃんに今の状況を書いた手紙を渡し、爺ちゃんからの返事と白金貨を受け取ってきてもらった。
爺ちゃんにはでかい借りができた。
魔導師の言ったお金はぼくの所持金だと全然足りなかったんだもん。




