定番のオセロを販売しよう
王国技術開発管理院、そこのトップには王弟のアルル様がつき、そこのナンバー2としてうちの父ちゃんのひとつ上のお兄さんであるパーチル伯父さんがつくことになる予定だ。
そこでは新しく発明した物の考案者に一定の権利を認め、類似のものを作成する場合は権利者に一定額の支払いをおこなうというものだ。
その第一号はハンモック式馬車で、決められた工房以外は無許可で作成できないように定められている。
もしそれを破れば国が罰することになる。
これに登録できるのは王国技術開発管理院ができてからのものとされる。
長いので以後は管理院と略そう。
ぼくは石鹸の作り方を知ってるけど、それは管理院ができる前からあるものだし、ぼくより前に作り方を考えた人がいるので登録はできない。
一定額を発明者にということになっているが、作成方法などを登録時にすべて登録せず、公開もしないという方法もとることができる。
その場合は、真似できるものならしてみろ、できたなら自由に作っていいぞってことになる。
石鹸は登録できないが、考え方は石鹸の場合と同じだろう。
作り方は秘匿され、洩れた場合は真似されてしまう。だから絶対に情報を洩らしてはいけないと。
管理院は名前に技術開発という言葉が前につき、管理以外に開発部門ももつ予定だ。
ぼくばっかり前世の知識で特許登録するのもまずいから、情報を少し投げようかななんて思ってる。
こんな感じのものがアルル様たちと話した内容やぼくの考えたことかな。
そうそう、オセロとかも登録したけど、こっちは自由に使えるようにした。
庶民にももっと娯楽が増えればいいねって、話し合いでそうなった。
といっても、爺ちゃん、じゃないや。企んだのはハルファス伯父さんか。
領地で貴族用にオセロのセットの生産がとっくに始まっていたらしい。
ヴァルツォーク領にある黒石と呼ばれる黒い石と白石と呼ばれる白い石 (そのまんまじゃん)
を削って囲碁の碁石のようなものを作り、これまた囲碁や将棋の碁盤の足つきみたいなやつで派手に彫刻がたくさん入ってるのを作った。
オセロは黒い石と白い石を使って、相手の駒を挟むことができれば、それをひっくり返して白から黒、黒から白という風に盤上の駒の色を変えていくものだが、ぼくがこの世界で作ったのは碁盤と碁石を使って、ひっくり返して色を変えるのではなく白と黒の石を置き換えるという遊び方になる。
片面に色を塗ったりとかより、この方が楽そうだったからね。だからリバーシとは呼ばない。黒白ゲームと名付けてある。
王国技術開発管理院発足の正式発表はもう間もなくだが、ハルファス伯父さんは登録されている黒白ゲームが公開されると同時に主だった貴族に高級品として作った黒白ゲームを贈り、二個目、三個目を買ってもらおうと目論んでいる。
石ではなく黒と白の色を塗った小さな木の板を駒として使う庶民向けも大量に生産しており、それも王都に大量に運び込んでいるのだという。
貴族向けの高級品は今後も続ける予定だが、作成する権利はフリーにしてあるため容易に類似品を作ることができる庶民向けは既に生産は大幅に縮小してあるという。
押せ押せだけではなく、締めるとこはきちんと締めて堅実な判断だよ、ハルファス伯父さん。
「さあさあ、王国技術開発管理院とか舌を噛みそうな名前だが、つい先日そんなものが作られたと御触れがあり、そこで発表されたものの中にあったのがこれ、今までにない娯楽、黒白ゲームだよ」
ハルファス伯父さんから大量に融通してもらったオセロ、いや黒白ゲームを販売しているリーグにぃのとこのおじさんがいた。
大通り沿いという立地のいい店である我が板芝居屋の軒先を一時的に提供しての販売である。
そこには試せるようにと、椅子とテーブルがいくつか置かれ、周囲にはそれを見学する人だかりができている。
一度試遊すると交代するようにしてあるが、遊んだ人間の多くは黒白ゲームのセットを買い、すぐ遊びたいようで足早に帰っていく。
うちの板芝居屋に用がある行商人もついでに結構買っていってるみたいだ。
王都以外に持っていけば売れると見込んでいるのだろう。
ヴァルツォーク領だけは例外なので、そっち方面に行く商人さんにだけはこそっと教えておいた。
「結構賑わってますなぁ」
先日よりこの板芝居屋で働いてもらっている老人がそのようなことを言う。
腰も曲がり、杖をついている優しそうなお爺さんだが、元々王様直属で裏の仕事をしてた人なんだそうだ。
同じ部隊にいたもの以外には顔も知られていないから安心しろってアルル様から言われた。
王様直属だったとか、ぼくに言ってもいいの?って聞いたら、大丈夫だ、洩らすようならすぐ殺してくれるよって、笑いながら言ってた。ぼくから提案したとはいえ勘弁して欲しいわ。
ちなみにこのことを知ってるのは父ちゃんとぼくだけで、他の家族は知らない。もちろん爺ちゃんもね。
「お茶をどうぞ」
「すみませんねぇ。今日なんかはまだ残暑も厳しく、冷えたお茶は何よりのごちそうです」
こちらはまだ背筋のしゃんとした老婆が商人にお茶を出している。
この店を利用している商人が少しゆっくりできるようにと今はテーブルと椅子が置かれており、そこに冷えた麦茶をサービスで持っていったのだ。
店の奥の客から見えるところには、氷式冷蔵庫が置かれており、煮出した麦茶を冷やして常備してある。
麦茶は商人の爺ちゃんのところで販売しており、気に入った客はそちらで買ったりしている。
ぼく監修のお茶の葉がいくつか売られており、そこそこの売り上げだと聞いている。
だが、まだ何の店かははっきりと定まっておらず、いろんなものを売る雑貨屋だ。
「でも、もうそろそろ秋でしょう。涼しくなり、収穫の季節じゃないですか。作物をいっぱい買い取って、そのお金で色んなものを買ってもらってと稼ぎ時でしょう」
「今年はうちが廻ってる村は厳しいかな。暑過ぎた上に雨が少なくって、今年の春小麦の出来はいまいちらしいんだ。あの黒白ゲームってのをいくつか仕入れて稼ぎの足しにでもするかな」
そう言ってお茶を一気に飲み干すと出て行った。
ちなみに小麦ってのは秋に種を植え、冬を越して春に収穫する穀物だが、冬の気温が低すぎる寒い地では春に撒いて秋に収穫したりもする。
冬を越して春に収穫するのが冬小麦で、春に種を植え秋に収穫するのは春小麦という。
日本で小麦を作る場合は、秋に種を植え春に収穫する冬小麦となる。
この商人の廻る村は結構寒い地方なのだろう。
「酒場や宿屋よりのんびりと働けるし、各地を廻る商人さんが向こうからやって来てくれるし、この職場は楽でいいのお。誰にも喋らぬと約束してから引退しても、なかなか信じてもらいにくいしのう。現役であればその点は安心してもらえるというものじゃ」
ぼそっとそんなことを老爺が言ってるが、ぼくは聞こえない振りをして何も答えない。
信用できる人材が欲しくてアルル様に持ちかけたんだけど、よかったのかなぁと思わないでもない。




