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おうちに帰ってゆっくりしたいのに

 案内された部屋の扉を開けてもらい中に入ると、そこにはアルル様とハルファス伯父さんが待っていた。


「お疲れ様、まぁ座りなさい」


 アルル様に声をかけてもらい、ぼくらはソファに腰を落とす。

 ソファといっても、ちょっと豪華な長椅子にクッションが付いているだけのような、前世のスプリングの入ったものに比べると随分と弾力性やふかふかさが落ちるし、なんだかなぁって気分になってしまう。


「今度はなにを?」


 もう疲れたから帰って横になりたいんだけどって思いながら聞いてみる。


「プックル、王弟様の前だぞ。もっと丁寧な言葉遣いで話しなさい」


「だって、丁寧な言葉遣いなんて教わってないよー」


「そういえば教えてないな。というわけで失礼かもしれませんが、息子のこのままの喋り方でご容赦ください」


「よいよい、そやつが臍を曲げると嫌がらせをしかけてくるからな。この前も屋敷に来るときは予め約束をしてから来るように言ったら、それからぱたっと顔を見せなくなり、冷蔵庫なるものも我が家にはよこさなかったのだ」


「えー、わざわざ約束とってから行くの面倒なんだもん」


 氷式の冷蔵庫を作った頃に遊びに行ったら、冷蔵庫をあげたかもしれないけど、そのころ会わなかったしね。

 それに爺ちゃんに出来上がったもの渡した際に、王家にでも献上しておいてっていったのに、アルル様に渡さなかったのは爺ちゃんの責任だよ。


「ごほん、待たせたかな」


 そんなことを考えていたときに、爺ちゃんがやってきてぼくの隣に座った。


「爺ちゃん、抜け出してきてよかったの?」


「よいのだ。あそこは既に決まってある内容を形式ばってやり取りするだけの、時間の無駄な場なのだ。とりあえず一度顔を出すだけで役目は果たしておる。それよりプックルや~、かっこよかったぞ。爺ちゃんの目にしかと焼き付けておいたわい」


「わたしは次期当主であって、現在はまだ何者でもないから並ぶ必要は無いのさ」


 ハルファス伯父さんの方を見たら、言い訳がましくそんなことを言ってきた。

 いや、別に責めてるわけではないし。


「それより、随分待たせたな。ハルファスが来てくれたおかげで貴族や文官への根回しが片付き、やっと王国技術開発管理院を発足することができた。お主ら一族には世話になってばかりだ」


「めっそうもございません。我が甥を助けるためであれば苦労は厭いません」


「えーと、俺、帰っていいか? 気ままな庶民としては面倒そうな話には近づきたくないのよ」


 おい、父ちゃん、それでいいのかよ。ぼくの父ちゃんだろ。

 でも面倒なものに近付きたくないのには激しく同意する。

 アイデアを保護して、利益の一部をこっちに回してくれさえすればいいんだ。

 管理者ではなく、ユーザーとしてやっていきたいのよ。


「アルル・フォン・ビスタークの名において命ずる。そのまま座って話しに参加せよ」


「はっ! ラパウル、しかとその(めい)承りました」


 王弟様からの命令という形をとられちゃ従うしかないよな。


「王国技術開発管理院のトップは儂がなることに決まっておるが、実際に働くことになるまとめ役はお主のところの三男でよいな。あやつは人の下で働くより、人を使う側なれば力を発揮するであろう。それに色々と新しいことをやるのは好きであったな、そうであろう」


「無能な上司であってもこき使うのが巧く、上司からはもう勘弁してくれとたらい回しされたとか。愚かな弟です、もっとうまくやれたはずなのに」


「パーチル兄さんも変わり者だからな」


「「「お前が言うな」」」


「俺はほら、結婚を反対して駆け落ちするまでは結構真面目だったよ?」


「それより、アルル様ってそんなにいろんなところのトップを掛け持ちして、他の貴族とかから何か言われたりしないの?」


 とりあえず話題の修正だ。

 今日は疲れたから、早く帰りたいのよ。


「儂は王弟という王族としての身分だけで貴族ではないからの。儂がトップを勤めるということは王家、いや王が直接管理することと同じなのだ」


 奇麗に手入れされたカイゼル髭をしごきながら、アルル様はそう説明してくれた。

 この国はうまく回ってるみたいだし、王の権力が強いってのは悪くないみたいだね。


「了か~い、アルル様の名前で好き勝手やっちゃえってことだね」


「いや、そのようなことは一切言ってはおらぬだろ」


 そう言いながら頭を押さえていたが、手を叩き、「誰か」と人を呼ぶ。


 すぐにメイドさんがカートを押してきて、お茶の用意を始める。

 紅茶かな。

 ティーポットからカップに半分くらい注いだあと、各人に入れる砂糖の量を聞く。

 そしてメイドさんは砂糖を入れて混ぜた後に……氷を投入???

 いや、別にいいんだけどね。


 目の前に置かれたカップを口に運ぶ。

 うん、冷たいってほどではないけど、ぬるいよりは温度は下って感じかな。


 アルル様は自慢したそうなドヤ顔をこちらに向けている。


「其の方が氷の攻撃魔法で氷を作る方法を思いついたのよな。そのおかげでこの夏は冷たい飲み物も飲むことができて過ごしやすかったぞ。冷蔵庫とやらは我が家には届かなかったがな」


 うっさいなー、一言多いんだよ。

 その髭を毟ってやろうか。

 駄目だ駄目だ、疲れて心が少しささくれだってる。


「そのことなんだけど」


 そうひと言口にして、生活魔法で氷を作り空になったカップにコロコロと入れていく。

 うちの父ちゃん以外の三人は目を見開いて驚いている。


「そ、それは?」


「生活魔法で氷を作った。ふっふっふっ、以前は氷の攻撃魔法から間接的に氷を作り出していたが、今では生活魔法で氷を作れるようになったのだ。技術は進歩しているのだよ。あっ、ちなみに我が家以外には洩らさないように口止めしてありますので、ご安心を」


「筆頭宮廷魔道師を呼べ、すぐにだー」


 アルル様の大声に騎士が走っていく。

 城内を走っていいのかどうかしらんが、結構まじで走ってるよ。

 閉めるのも忘れて飛び出していった扉から廊下を覗きながらそんなことを思った。


 その後なんちゃら技術院の話をしようと話題を振ったが、氷の生活魔法に興味心身で皆興奮気味になってしまっている。

 もう、ほんと早く帰りたいから勘弁してよ。


 しばらくして、急かす騎士など気にもとめず、おっとり刀でローブに身を包んだ初老かもう少し歳がいってるお爺ちゃんが入ってきた。


「アルル坊よ、なんの用じゃ。また氷を作れとでもいうのか? これでも忙しいのであまり無理を言うでない」


「そんなことより、おい、プックル」


「はいはい」


 心の中でアルヴァ様に祈りつつ、氷の生活魔法の呪文を口にして、掌に四角い小さな氷を出していく。

 ごめん、実はぼくはまだ生活魔法で氷を出すことができないんだ。

 アルヴァ様経由で同じような魔法を使ってるだけなんだよね。


「おぉ、氷を直接魔法で作っておるのか。その詠唱文句からすると生活魔法かの」


「はい、生活魔法の呪文と攻撃魔法の氷の呪文を組み合わせてみました。ただ普通に唱えてもなかなか巧くいかず、こつがあるみたいですけどね」


 ふむ、と言いつつ男はぼくの唱えた詠唱文句をそのまま唱えているようだが、氷は現れない。


「ぼくのやり方はちょっとイレギュラーというかずるだけど、リーグにぃが氷の生活魔法を使うの巧いよ」


 そう教えてあげたら、筆頭宮廷魔道師さん、そういや名前教えてもらってないわ。

 老人はその者にやり方を教わってくると言って、バタバタと走って出て行ってしまった。

 ぼくに教えろとか言われなくて良かった。


「それじゃぁ、話を戻そうよ」


「いや、それより氷の生活魔法だ。恐らく知られていなかった新しい魔法といえるだろう。氷を使って何ができると思う?」


「う~ん、いろいろ出来ることあると思うけど、海から魚を運んでくるのに氷を使うと、鮮度を保ったまま輸送できるよ。他には、う~ん、すぐには思いつかないや」


「よい、すぐに思いつかずとも何かと役に立てられよう。まだ決まりではないが、氷の生活魔法が発見されたことは我が国の宮廷魔道師たちより発表させたいと思う。手柄を横取りするような形になって申し訳ないが、どうだろうか。もちろん相応の謝礼はさせてもらう」


 昭和の始めや中頃みたいに氷屋さんやりたかったんだけどな。

 知り合いにだけ氷の魔法を教えて、氷式冷蔵庫を持ってる人や、氷を使いたい飲食店などのお店屋さんに売って回るの。

 リヤカーに大きな氷を載せて、売るときはのこぎりで切って売るとかいいな~。

 そんな妄想は脇においといて、別に手柄をとられるとかそういうこは気にならないから、別に国からの発表ってことでもいいんだよね。


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