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木にあいた穴

「いけー」

「ガウ」


 あまりぼくと会話することが多くはない妖精さんとガジローくんが吠える。

 ぼくの魔法で作った、家庭の冷蔵庫の氷みたいなやつの山にガジローくんとその背に跨った妖精さんが突っ込んでいく。

 山を崩すと二人は別れ、氷の合間でゴロゴロしたり弾いたりして遊んでいる。

 最近のお気に入りの遊びみたい。

 でも小さな体にその氷は大きいんじゃないかな。


 そうだ!


 布の袋の中に作った氷を入れてっと。木槌で砕く!

 クラッシュアイスの出来上がりっと。


 それを山の形にして二人を呼ぶ。


「お~い、君たち。氷を砕いて小さくしたから、こっちの方が遊びやすいと思うぞ」


「どーん」「ガウ」


 ライドオンしないで別々にクラッシュアイスの山に飛び込む。


「こっちの方が面白い!」


 ぼくが最初に出した氷なんかは妖精さんの頭くらいの大きさがあったけど、今度のは砕いて小さくしてある。

 それを妖精さんは手で掬ってガジローくんへとかける。

 ガジローくんは負けじと後ろ向きになり、連続して後ろ足を蹴り上げ妖精さんを氷で埋もれさせてしまう。

 ふふっ、ふたりとも楽しそう。


「もーっ、ん?」


 ガジローくんが氷を蹴る足を止め、耳をぴくつかせる。

 妖精さんも文句の言葉を途中でやめ、辺りをキョロキョロ見回したかと思ったら、ガジローくんに飛び乗った。

 そして遊んでいた風呂場から飛び出し、庭へと走っていく。


「待ってよー」


 ぼくもそれを追いかけて走り出す。

 日本とは違い家の中でも靴を履いているが、さすがに風呂場に靴なんか履いてきてない。

 ぼくは靴も履かずに裸足で庭へと出る。

 ふたりは、あっちか。

 この敷地内で一番大きな木に向かって走っている。


 えっ!?


 木の幹に穴が。いや、丸く黒いものが幹に急に浮かび上がった?


 妖精さんを乗せたガジローくんはジャンプし、そのまま突っ込んでいく。

 黒いのは穴だったのか、ふたりはそこに吸い込まれるように入っていった。

 そしてその黒い穴は徐々に小さくなっていく。


「待ってよー」


 どういうこと?

 置いて行かないでよ。

 いっちゃやだー。


 ダッシュ!

 心の中で呟き、身体強化の魔法をかけ、速度をあげる。


 まだ保って!

 もう少し!


 水泳の飛び込みのように両手を伸ばし、体を水平にした状態で穴に飛び込んだ。





 ぎゅっと(つむ)っていた目を開くと光が入ってくる。

 どうやら木にぶつかることはなかったみたいだ。


 ここは?


 どうやら、うちの庭ではないみたい。

 飛び込んだ姿勢のまま地面に伏せていた体を起こし、服についた土や葉っぱを払う。

 ここは森の中かな。

 周囲には木々が生い茂っており、道といったものはみえない。

 腰に手を当て、ウエストポーチがついていることを確認する。

 そう、母さんに作ってもらったんだ。

 これにちょっとしたものを入れて、いつも見につけている。


 深呼吸して、一度気持ちを落ち着かせよう。


 すー、はー、すー、はー。


 ガジローくん。名前を叫ぼうか迷う。

 見知らぬ土地、森の中。ここが安全かどうか分からず、大きな声を出すことによって獣や魔物、なにか危険なものを呼び寄せたりしないかな。

 でも、ふたりを探さなきゃ。


 しゃがみこんで地面を確認する。足跡が残ってないか、抜けた毛が残ってないかなど。

 トラッキング。日本語で追跡術なんだけど、習っておけばよかった。

 見ても全然分からん。


 落ち葉が散らばっていて、地面は少ししっとりしているみたいだが、足跡らしきものは見つからない。

 ガジローくんは見た目仔狼だが、魂が妖精だそうで、抜け毛なんかはほとんどなく、糞や尿も滅多にすることがない。


 おわた。


 ガジローくん探すより、帰れるのか?


 あっ、なんか聞こえる。


 わーわー言ってる。

 たくさんの人の声かな。


 声のするほうへと歩く。この向こうかな。

 茂みに頭を突っ込み、あちらを伺う。



 えっ!?


 二足歩行の猫と羽が生えた小さな人がそれぞれ20人ずつ位で、わーわー、ぽかぽかやってる。

 両腕を回転させながら双方ぽかぽか殴りあってる。

「覚悟ー」とか「死ねー」とか「なんちゃらの(かたき)ー」とか聞こえる。


 あっ、ガジローくんもいる!!


 体長20センチくらいの立って戦ってる猫陣営とも同じく背丈20センチくらいで地上数センチのところをパタパタ飛びながら腕を振り回している妖精陣営とも別っぽく、うちに居候している妖精さんを背に乗せたガジローくんは一騎当千の武者のごとく、いや言い過ぎた、一騎当三くらいでだれかれ構わず体当たりし、上の妖精さんもぽかぽかやりながら戦場を駆け回ってる。


「ガジローく~ん!」


 茂みから抜け出し、両手を大きく振りながら声を張り上げるが、聞こえてないっぽい。

 それから何度か呼んでみたが一向に気付いてもらえない。


 くそ~。

 ポーチから包みを取り出し、中の粉を宙に撒く。


「泣き風のじゅ~つ~」×3


 一度だと範囲が足らないかと思い、包みを3つ使い、魔法も3度唱えた。

 赤い風が戦場を駆け巡る。


「ぎゃひ~」「目が、めぎゃ」「目が痛い、ていうか熱い」「あひゃひゃひゃ」「み、みず~」「きゃんきゃん」「目が~、あははは」


 阿鼻叫喚というのだろうか。

 皆、顔を真っ赤にして涙や鼻水を垂れ流し状態で地面をのた打ち回っている。


「ガジローくん」


 呼びかけながら、仔狼に近付いていく。

 向こうもこちらに気付いたようだ。

 よろよろとふらつきながらもこちらに歩いてくる。

 隣を歩いているのはうちに居候している妖精さんだろうか。


「もう、勝手に走って行って木の穴に飛び込んじゃうんだもん。心配しちゃったよ」


「がぅ~」


「すまなかったな。ぐすっ。おいらに呼び出しがかかってしまって、そのことを話したらこいつも着いてくるっていうからさ」


 目と鼻から汁を大量に垂れ流し、鼻をぐしゅぐしゅさせながらも妖精さんが話してくれる。


「ガジローくん、おいでっ」


 抱き上げて、目の周りにポーチから取り出した油を塗ってあげる。

 細く小さな竹製の容器に入れて持ち歩いている。

 ガラス瓶のない世界。陶器の容器だと耐久性に問題がある。竹もそれほど頑丈ではないとはいえ、陶器よりは硬く、加工も楽なので重宝してるんだ。


 あっ、ガジローくんは大分治まったみたいだね。

 妖精さんもおいで! えっ、いいって?

 顔を顰めながらも笑っている口からは拒否する答えが返ってきた。


「水で洗ったりしたら、余計に酷く、辛くなっちゃうよ」


「そうなのか?? それじゃぁ、水をちょうだい」


「ぼくの言う事聞いてた?」


「いいから、いいから」


 生活魔法のリトルウォーターで頭から水をかけてあげたら、悲鳴を上げながら笑うという器用な表情をみせつつ、地面をごろごろと悶えている。

 唐辛子の粉が目に入ったり唐辛子を触った手で目に触ってしまった場合は水で洗っても余計つらくなるだけなんだ。でも油を目の周りに塗ると少し治まるみたい。


「あひゃひゃひゃ、いて~、あち~、あひゃはは。仲間にもかけてやってくれ」


「羽の生えた妖精さんだね」


「いや、他のやつらも全員だ。全員妖精で友達だから」


 んん???って思いながらも水をかけて回ったら、皆同じように悶え、のた打ち回っているが、どことなく楽しそうで『ありがとう』の言葉さえかけてくれるものもいた。


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