氷を作るのだ
鍛冶屋で上側が開いている薄型の銅の箱を注文したら、少し待ってろって言ってその場で作ってくれたのでそれを持って訓練場へと走る。
まだ訓練やってるといいんだけど。
急ぎ戻ってみたが、さすがに数時間もたってたし訓練場には誰もいない。
しょうがないので寮として使われている屋敷を覗いてみたら、運よく玄関ホールを歩いていたコンセルくんのお兄さんに遭遇できた。
「さっき言った実験なんだけど、これから手伝って欲しいけど大丈夫? 時間とか魔力とか余裕ある?」
「あぁ、君か。練習終わってゆっくりしてたから、魔力は半分ちょいってとこかな。時間はあるから実験とやらを手伝うよ」
よっしゃあ!
ケッセルくんと訓練場に行き、壁際に水を入れた銅の箱を立てかけ倒れないように設置する。
「あれを狙って氷の魔法をよろしく。あっ、魔法の速度とかって遅く出来たりする?」
「う~ん、考えたこと無いけどたぶん無理だと思う」
残念。威力の強弱やスピードの増減の調整とかできそうな気もするんだけどなぁ。
「まぁ、それはいいや。とりあえずあの箱を狙って氷魔法をお願い」
撃ちだされた氷の玉は目標となった箱に命中し『ベコッ』っという音と共に箱を軽くへこませた後霧散した。
それをみてぼくは箱に駆け寄り確認をする。
もうちょっとか。
『ベコッ』『ベコッ』
追加でもう二度魔法を唱えてもらってから、再度駆け寄る。
よっしゃ、できた!
箱を逆さにして底をトントンと叩く。
「つべて」
箱は冷たいが、皮膚が張り付くことはなかったのは助かった。
予定ではストンと落ちてくるはずが、箱が変形していたためなかなか出てこない。
箱を抱きしめ、体温で少し溶かしたりとか出来るかな。
あー、冷やっこい。
しばらくそうしていると、スルッと箱の中から四角い氷が抜け落ちてきた。
おっと、落とさないようにっと。
ナイスキャッチ!
「氷だよ、氷。魔法で氷を作ったんだ!」
「そうだね、氷だね」
どうも反応が薄い。
この世界で冬以外に氷を見たことはない。
料理屋なんかでも見たことないし、冷蔵庫なんてものも知らない。
「もー、お金になるよ。うはうはですぞ~」
「なにがウハウハなんだ?」
またもや会話に割って入ってくるのはハルファス伯父さん。
護衛の兵士は連れず、マーカス君だけをお供にこちらに歩いてきている。
「見てよ、これ!」
「ふむ、氷か。何を企んでる?」
「もー、夏に氷だよ。売れること間違いなしだよ。ついてきてっ!」
ぼくは3人を引き連れ、寮へと入っていく。
よく知らない建物なんできょろきょろしてたら、伯父さんが応接室に案内してくれた。
「それで何がしたいんだ?」
「とりあえずコップにお水を人数分欲しい」
そういうと「ぼくが」とコンセルくんのお兄さんが走って出て行き、トレーに4つの木でできたコップを持って戻ってきた。
「わー、ごめん」
「よい、後で掃除をさせるから気にするな」
銅の箱の中に戻して氷を運んできていたんだけど、中の氷を取り出そうとひっくり返したら溶けた水が氷と一緒にじゃばっと出てきて机の上をびしょぬれにしてしまった。
ぼくが辺りを見回しきょろきょろしてたら、伯父さんがどうしたと声をかけてくれた。
「この氷を小さく割ってコップに入れたいんだけど」
ぼくがそういうと、伯父さんは薄くなった氷を受け取り、力ずくで割って小さくしてくれた。
そしてそれを受け取りぼくは、コップに氷を入れていく。
マーカスくんのコップだけは、勝手にお水を口にしてたので中には半分くらいしか入ってない。
しょうがないので、箱の中に残っていた水を少し追加してあげよう。
「どうぞ召し上がれ」
氷を入れた後コップを軽く振ってから皆の前に置いていき、飲むように促す。
皆言われるままに水を飲むが、驚いた顔の後すぐに嬉しそうな顔になる。
「「「美味い」」」
「暑い夏に冷たい飲み物は美味しいでしょう。貴族様は氷をいくらで買ってくれる?」
「う~む、いくらでも出すと言いたいところだな。実験とやらを他のものの目に触れさせないようにしておいてよかった。氷を本当に売るつもりなのか? いや、そうであれば……。数日待て。しばらく氷の作り方は洩れないようにしろ。他の二人も当然他言無用だ」
「あ、父上」
伯父さんはそれだけいうと足早に部屋を去っていった。
ぼくはというと、びしょ濡れになった机と少しこぼしてしまった床を掃除してから寮を後にし、先ほどの鍛冶屋へと走る。
この鍛冶屋はヴァルツォーク家からぼくの依頼で作ったものについて外部には絶対に漏らさないようきつく言われてるらしいので頼みやすい。
そこで銅の箱の即修理と、急ぎではないともうひとつ頑丈でひと回り大きな箱も作ってもらうよう依頼する。
そしてヴァルツォーク家からの依頼を受けているという家具職人を教えてもらい、そこへと行く。
作ってもらうのは50センチ四方くらいの箱。前面は扉のように開けられるようにとの注文をつけ、出来上がったら鍛冶屋に届けるようしてもらった。
その後の仕上げも鍛冶屋に依頼してある。
中は断熱効果が高くなるようにし、真ん中に網状の棚をつけてもらう予定だ。
錆びにくい素材でとお願いしてある。
後日1週間ほどして出来上がった箱が3つ我が家へ届けられることになる。
我が家用、爺ちゃん家用、アルル様へと思ったけど、アポ取るのは面倒なので他の人用にした。
爺ちゃんが珍しいものは王様に献上しとけば間違いないっていったので、爺ちゃんにお願いしておいた。
後で聞いた話だが、アルル様はとても悔しがったそうで、ぼくにいつでも好きなときに訪ねてきていいって手紙を送ってくれた。
3つの箱は氷式冷蔵庫だ。
日本でも昭和中頃まで使われていたと聞く。
氷屋が氷を売って回り、箱の中に氷を入れることで中のものを冷やすという単純なものである。
氷はそのうち溶けてしまうし使い勝手はいまいちだけど、物を冷やすことができるという画期的な箱であることは間違いないため、とても喜ばれた。
あ、もちろんここだけの話で他には当分漏らさないようにと氷の作り方も教え、王宮では筆頭宮廷魔道師が、爺ちゃんとこでは攻撃魔法を使えるメイドさんが氷を作ってるらしい。




