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干し貝柱って美味しいよね

 酒場への飛び込み営業が終わったぼくは門を抜け貴族街へと行く。

 門の番をしている兵隊さんがいるが、ぼくは顔パスだ。

 普通は身分証だ、招待状だなんてものが必要だが、高位貴族である爺ちゃんからの強いお願いという圧力と、頻繁に出入りしているため兵隊さんたちとは顔なじみになってるんだ。

 みんなで食べてねと賄賂、いや、お土産の干したこを渡し、さりげなく商人の爺ちゃんのお店も紹介しておく。

 足りなくなったら、そっちで買ってね。


「はら、君たちも出ておいで、こっちは庶民外ほど人通りが無いから自分たちの足で歩いても大丈夫だよ」


「「がう」」


 妖精さんもガジローくんの声を真似して二人揃って返事した。


 今回の目的地は貴族街のお店。

 貴族様のお屋敷なんかがある住宅地はほとんど人をみかけないけど、お店があるこの地域はそれなりに人が歩いている。

 そのうちの一軒の店へと入っていく。


「プックル様、お越しいただきありがとうございます。本日はどういった御用向きでございましょうか」


 揉み手をしながら挨拶してくる幻が見えた気もするが、気のせいか。


「えっとね~、この店で売ってもらいたいものがあって来たの」


「本日はおひとりですか? ドワイト殿はご一緒ではないのでしょうか」


「ぼく一人だよ、まずいかな?」


「いえ、滅相もございません。ヴァルツォーク家のお坊ちゃまはいつでも大歓迎でございます」


 血は繋がってるけど、貴族家の一員じゃないんだけどなぁ。

 まぁわざわざ説明する必要も無いか。


「売って欲しいのはこれ」


 ナップザックの中に入れてあった袋を取り出し、さらにそこから取り出したのは、竹の皮に包まれ、僕の手のひらに乗る程度の大きさのもの。

 ガジローくんマークの焼印が押されたそれの紐をほどくと、中から出てきたのは貝柱、それも干したやつ。

 ぼくが抱えるくらい大きなホタテから取れた貝柱。それを塩湯でして干したものがこれ。

 約100グラムごとに分けて売ろうと思ったけど、ひとつひとつがでかいため、割って量を調節している。

 干し貝ひもも作りたかったんだけど、調味料とか無かったんで味付けしないで塩茹でしてそのまま干しただけなんでまだ売り物にはなってない。


「一包み金貨1枚。ぼくが6でそっちが4でどう? あ、ちなみに駆け引きとか好きじゃないんで。販売価格の相談は受け付けるけど、取り分は割合変更は考えてないから。条件があわないのであれば、他にいくだけだからね」


「プックル様のお持ちのものでしたら、是非にとお願いしたいところですが、私にはこれがなんなのかさっぱりわかりませんので、お教えいただけますでしょうか」


 失敗、失敗、ホタテって言葉はあったけど、干し貝柱とかいった言葉はなかったんだった。

 誰もしらないものを売ってくれって言われても困るよな。


「ごめんごめん、これは貝の貝柱を干したもの。一包みは味見用としてあげるから、少し食べてみてよ。お酒のおつまみとしてそのまま食べてもいいし、料理にも使えるよ。値段が高いのは遥々海にまで行って仕入れてきたからだよ。ちなみにどこにも売ってなく、まったく新しいものだからね」


「それでは少しいただきます。んぐっ、小さなかけらを口にしただけだというのに、この凝縮された旨み。行ったことはございませんが、口中に海を感じます。今までこのようなものは食べたことがございません。少々お高いですが、珍しい物好きのあの方なら間違いなく飛びつくに違いありません。そうすればあの方も欲しがるでしょうし……これはいかほどお持ちでしょうか」


「30個だね。必要ならもっと仕入れられるけど、ひと月くらいはかかってしまうよ」


 予想以上の食いつきにびびった。

 王都に持ち込んだ半分は販売用にしたけど、残り半分は自家消費用なんだ。

 もっとも今回持って帰ったものは、向こうにいた期間が短かったためあまり多くなかった。

 そのため、煮干とか干し貝柱とか作って溜めてもらってる。


「まずはあの方のところにお伺いして、次に……」


「えっと、色々予定を立ててるみたいだけど、これ品物ね。数を数えてとりあえず今言ったことを紙に起こしてね」


「はい、ただちに。それと代金は以前と同じようにすればよろしいのですよね」


「貝柱の商売はそのうちドワイト伯父さんにお願いするかもしれないけど、いまのとこはぼくの商売としてやるから、お金は預かっておいてもらえるかな」





「普通なら無礼だとか言って追い返されるところだぞ、わかっておるのか」


 アルル様の屋敷の客間で、主人であるアルル様からチクリと言われてしまった。

 普通は貴族とかお偉いさんに会うときは予めアポを取らなきゃいけないんだけど、貴族街に来たついでにその足で来ちゃった。

 だってプックルくん5歳だも~ん。

 アポ取らなきゃいけないんだったら、めんどいから来ないよ。


「部下として仕事の話をしたくて」


「おぬしは部下になるのを断ったのではなかったか」


「正直なとこ、ヴァルツォーク領の端の海まで行ってきたので、そのお土産を持ってきたの」


 干しイカ、タコ、ホタテを渡し、ついでに取り扱ってるお店も宣伝しておく。


「そういえば、ハルファス・ヴァルツォークから会ってほしいと手紙が来ておったぞ」


 ハルファス伯父さんが?


「へ~」


「それだけか? わざわざ王都までやってきて何用だ。知っておるのなら話さぬか」


「あー、あれかな。ちょっとミスっちゃってぼくの尻拭いかな?」


 口止めもされてるし、ここでぼくがわざわざ言うことでもないよね。


「そんなことより聞いてよ。父ちゃんったら、風が吹いてて涼しいからっていって、店の前でだら~っとしてるんだよ。店番失格だよ、前にいた村で門番してたときもあんなだったけど、駄目駄目だね」


「あいつも幼い頃は将来を嘱望されていたのだがな」


 ぼくは袋から紙束を取り出し、テーブルに置く。


「誰か店番やってくれる人がいればいいんだけど。それに今は王都で手一杯で、他の貴族の領地とかに手を広げられるのはいつになることやら」


 紙を手に取り目を通すアルル様に話を続ける。


「陰ながらお仕事していて、引退した人とかが手伝ってくれるといいんだけどな。話好きな人とかいいな、あっ、でも顔ばれしてる人はパスだよ。まっとうなお店だからね」


 紙には、村で相談された内容、村で聞いた噂、板芝居をみた人の反応などが書かれている。

 商人に訪れた各村(町)ごとに書いてもらい、板芝居の返却、交換時に提出してもらうようお願いしてあった。

 商売に繋がることを洩らすのは嫌だという人もいたが、板芝居を広めるために必要だとか言って書いてもらうことを了承してもらった。

 書かれてるのは今年は豊作になるだろうとか、最近村の外でゴブリンをみかけたとか、行商人が盗賊に襲われたとかいったものだ。


「また面倒なことを。儂ひとりでどうこうできる話ではないわ。せめて兄に話を通さぬとどうにもならぬ。しかし体力が衰え一線を退いたものにも仕事があるというのはよいことやもしれぬ」


 兄ってことは王様か。


「いろんなとこを廻ってる行商人さんと話をすると、いろいろ面白いことが聞けるかもね」


「そのような話を儂にして、お主は何を望む?」


「きちんと働いてくれる従業員? ぼくって基本的に好き勝手気楽に生きていけたらと思うんだ。深読みしなくても大丈夫だよ、長いものに巻かれろって言葉も寄らば大樹の陰って言葉も好きだしね」


 王国の諜報や暗殺などを担う仕事をついていたものが年齢や怪我などで引退した後、情報漏洩を防ぐために殺してしまうというわけにもいかず、今まで隠れ村などで後進を育成していたりしていたのだが、その中から何人か回してもらうことになった。

 諜報員なんかが働いてる店ってばれた時は、ぼくと父ちゃんは逃げれるようにはしておかなきゃだけどね。


「それじゃ、ばいば~い」


「次に来るときは先触れをよこすか、連絡をしてからにするように」


「……ばいば~い。用事があったらサルモさんに話すようにするよ」


 サルモさんってのは板芝居管理部のナンバー2の人ね。

 アポとれって、思いついたときにすぐ行きたいの。

 何日か後とかめんどいわ。


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