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するめを売りにいこう

 ハルファス伯父さんは馬車の試乗をした後、これなら大丈夫と大量の書類、資料、本などを持ち込み、王都への移動中馬車の中でそれらをずっと読んでるみたい。

 移動の無駄な時間を有効に使えるようになって、お金を払った価値は十分にあったと喜んでいる。


 途中、はじめに竹を植えた村に視察に寄ったりもした。

 ぼくが領都の近くの村に植えた竹の有用性を知りたいとのことだった。

 竹林を見学し、管理している村人に話を聞き、たけのこ料理を口にし、竹ぼうきでの掃除を試したりと実際に自分で確認していた。

 伯父さんはもうふたつみっつ領内に竹林を作ってもいいと判断したようだが、ぼくの利権を奪うことになるのでは、とか、いっそのことぼくが領都に住んでくれればいいのにとか言ってた。

 でも結局、信頼できる商人に竹製品の取り扱い権利を貸すということで進めることになった。

 従姉妹で商人に嫁いだのがいるから、そこに任せるのがいいんじゃないかなって笑みを浮かべていた。

 ハルファス伯父さんの従姉妹ってことは父さんの従姉妹でもあって、ぼくの親戚ということだね。

 信頼できる人であるならば、いいんじゃないかな。





「ラパウル、会いたかったぞー」


 店の前で椅子に座っていた父ちゃんを見たハルファス伯父さんが馬車を飛び降り、がばっと抱きつく。

 抱きつかれた方は何が起こったのかよくわかっていないようで、目を白黒させている。

 あっ、ぼくに気付いた。


「プックル? あれ? ヴァルツォーク家の紋章のついた馬車?」


 ぼくは店の場所を知らない御者さんの横に座って道案内していた。


「ただいま」


「あれ? もしかしてハルファス兄さん?」


「そうだ、6年ぶりか。ほんと久しぶりだ。会いたくてしょうがなかったが、父上に止められていた為申し訳なかった」


「いや、いいんだ。俺の方こそ勝手してすまなかったな」


 身を離し、頭を下げるハルファス伯父さんに父ちゃんも頭を下げる。


「今日は父上と王宮に用があって来たため、急ぎ父上のところに行かなくてはならない。夜にでも家族で父上の屋敷に来てくれないだろうか。ミュレさんといったか、まだ一度も会ったことがなく、挨拶をしたいと思っていたのだ。あっ、うちのも連れてくるべきだったな。お前の息子に馬車を改造してもらったことだし、次は近いうちに一緒に王都に来るとしよう。帆というのもつけてもらえば、より早く行き来できるだろう」


 なんかお前またやらかしたのかって目でこちらを見られたけど、両手のひらを上に向け体の横に固定し、『さぁ?』ってポーズを返しておいた。


「プックルも帰ってきたばかりだし、明日でいいか? よければ晩飯も頼む。久しぶりに兄さんとも今までのこととか話したいしな」


 明日の晩餐の約束だけしてハルファス伯父さんは馬車に戻り、ぼくはリーグにぃのとこのおじさんの馬車へと移った。

 貴族街への門までは一緒だけど、その手前で曲がってぼくらは我が家へ帰るのだ。



 我が家に着くと、母さんと伯母さん、それに働きに来てくれてる人みんなに挨拶をし、その後汗を流すとそのまま眠ってしまった。

 あんまし疲れてないと思ってたけど、体はそう思ってなかったみたいだ。

 行きは野宿も多かったし、宿もベッド台の上のわらにシーツをかぶせただけのところもあったんだけど、帰りはハルファス伯父さんと一緒だったおかげもあり、途中の街では高級宿に一緒に泊めて貰ったり、男爵領と通るときは男爵の屋敷に泊めて貰ったりもした。

 ゆったりと気楽な旅だったと思ったんだけどなぁ。


 12時間以上ぐっすり寝て、朝早く目が覚めたぼくはまだ幼く体が凝るなんてことはあまりないとはいえ、庭で体を丁寧にほぐし柔軟をおこなっていたら、屋敷の皆が集まってきた。

 皆と挨拶をおこない、屋敷の人間が揃ったところで、ふたりを除きラジオ体操が始まった。

 除かれるのは妊婦さんのふたり。

 伯母さんがオルゴールを回し、母さんは負担にならない軽い運動だけおこなっている。ちなみにオルゴールを回す係りは毎日交代してる。

 ラジオ体操が終わり、朝とはいえ夏のため、ぼくらは軽く汗をかき、麦茶を飲む。

 うん、ぬるい。


「今日は何して遊ぶ?」


「父さんが今日は自由市(じゆういち)の方で店を出すっていってたから、その手伝いをしなきゃいけないんだ」


 朝の体操の後リーグにぃに今日どうするか聞いたら、そんな答えが返ってきた。

 自由市とは店を持たない人も自由に露天を出せる場所のことだが、市を管理しているところでお金を払って木札を借り、それを見えるところにおいておかないといけない決まりがある。

 しかし自由市以外で露天を開く場合は、もっと面倒な手続きが必要なため、近隣の村などから物を売りに来た人や行商人なんかがここで露天を開くことも多いらしい。

 伯父さんはなんでも干しタコと干しイカをこの王都に広めるんだって意気込んでるそうなんだ。

 商人の爺ちゃんの店に置いて客が来るのを待ってもなかなか売れないだろうから、こういった人の多いとこで宣伝がてら売るつもりらしい。

 ぼくは今日はどうしよっかな……って、ぼくもお金出してるんだから、分けてもらっておかなきゃ。

 ぼくもだけど、伯父さんもその辺ルーズだよな。


 仕入れた干しタコと干しイカの3分の1をぼくはもらった。

 伯父さんの馬車を使ってここまで運んだので送料としていくらか払おうと思ったけど、伯父さんは受け取ってくれなかった。

 この辺りもほんとは最初に話とかなきゃいけなかったね。




 ぼくは冒険者ギルドすぐ側の酒場にやってきた。


「おじさ~ん、ちょっといい?」


「なんだ坊主、厨房に勝手に入ってくるんじゃない。ここは子供には危険なものがいっぱいあるんだぞ」


 お客が飲んでる脇を抜け、店の奥の厨房に勝手に入り込んで、髭面のごついおっさんに話しかけるが追い出されそうになった。


「待ってよ、商談に来たんだ。これ、これ」


 背中のガジローくんが入ってるナップザックではなく、手持ちの袋から干しイカと干しタコを取り出して見せた。

 日本で見かけるそれよりふた回りほど大きく、全体的に平べったくて、細い紐みたいなものが何本もひょろひょろ出ている物体をおじさんは気持ち悪そうに見てる。

 あちゃー、生だとウネウネ気持ち悪いけど、干してもいまいち見た目が良くないか。

 食品はとりあえず食べさせ味見してもらってなんぼだな。


 うーん、固い、やっぱ無理。


「この紐みたいなのを一本千切って、軽く炙ってみてよ」


「これのことか、ほい。どの程度炙ればいい?」


「軽くでいいよ、たぶん見てればどのくらい炙ればいいかわかると思う」


 炙れといったけど、焼き網とかもなく、火の近くに素手のまま手にしたイカの足を近づけ炙っている。熱くないのだろうか。

 そんなことを思ったが、すぐに香ばしいいい匂いが漂ってくる。


「もういいんじゃないかな。おじさん、食べてみてよ。そのままでいけるよ」


「おぉ、こりゃいける。酒のあてにちょうどいい」


「でしょ、これは海からはるばる持ってきたんだよ。こっちはタコを干したもの、こっちはイカを干したものね。値段は遠くから運んできたため、少し高いよ」


 ぼくの提示した金額は干し肉の約2倍。伯父さんと予めどのくらいで売るか打ち合わせをしてあった。

 ここまで運んでくるのに日にちもかかって、その分護衛の費用もあるしで、もう少し高くしないと割りにあわないんじゃないかと思うけど、伯父さんはいつも結構安い値段をつけようとする。

 高いと売れないんじゃないかと、自信が無いんだと思う。

 そんなことを考えていたら、後ろから声がした。


「おっさん、なんか美味そうな匂いがするんだけど、なんだ? おれにもそれくれよ」


 小声でこの店の料理人のおっさんに『今日はお試しで安く卸すよ』といってタコとイカの干したものをそれぞれ5枚ずつ渡すとおじさんは次々に炙り、皿の上に1つずつ丸のまま置いて店の方に出る。


「おい、お前ら、今日は新しくはるばる海から運ばれてきた食材を使ったつまみが入荷した。食いたいやつはいるかー?」


「この匂いは、その手の皿に乗ってるやつか!? どうやって食うんだ?」


「手で食いやすいように千切って食う。それだけだ」


 飛ぶようにというわけではないが、恐る恐る、他のテーブルの知り合いと分けたりしながらもおじさんが焼いてた分はお客の元へ運ばれていった。


「これは手軽にすぐに調理できるから、注文の最初に少量を1回だけ売るって感じでもいいかな。待たせず出せるからね。でもたくさん出しちゃうと他の料理が売れないから少量でいいと思うよ」


 するめをくっちゃくっちゃやってると、他のつまみの売れ行きが鈍るかもしれない。それはよくないよね。

 追加で欲しい場合はといって、伯父さんの、いや、爺ちゃんの店を紹介して、次の店へと行く。

 背負ってるバッグの中から顔を出してるガジローくんと妖精さんには炙ってもらって小さく千切った干しイカをあげるとくっちゃくっちゃやっている。

 なんかこの妖精さんは海からずっと付いてきてるんだよね。

 ガジローくんの背中に乗ったり、ぼくの頭や肩に乗ったりしながら、いつも辺りを面白そうにキョロキョロ見回している。


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