馬車を改造しちゃおう
「それで、最後はこれね。石鹸」
半分に割った竹の中に納まっている石鹸を取り出し、伯父さんの前へと置く。
ハルファス伯父さんはそれを手にとって、匂いを嗅いで確認している。
「やはりか、厄介な…… いや、言葉が過ぎた」
竹を手に取り、そちらも匂いを嗅ぎ、石鹸と嗅ぎ比べたりしている。
「材料の関係から香りはいまいち良くないけど、竹がなんとかそれをカバーしてくれてるみたいだね」
「竹というのはプックルが近くの村に植えにいったとかいうやつか。これのことなのか。確かにこの香りはよいが、生臭いような匂いも少し感じる」
「そうなんだよね、材料に油を使うんだけど用意して行ってなかったから、向こうで獣を捕まえてもらって、そこから獣脂をとって使ったんだよ。草木の油だとそんな臭い匂いはしないはずだよ」
ハルファス伯父さんは一度肩を落としたようなしぐさをした後、真面目な顔つきになりぼくらに言い放った。
「プックルにドワイト。石鹸事業は接収しヴァルツォーク家にて管理をおこなう。村には急ぎ兵を送り常駐させ、村人の出入り、他所からの出入りの制限をおこなうことにする」
「えー」「仰せのままに」
リーグにぃのとこのおじさんはハルファス伯父さんの言うことを了承したみたいだけど、ぼくは納得いかない。
「そんなに頬を膨らませてくれるな、しょうがないことなんだ。お前の作ってきた石鹸だが、貴族たちの間で取引されているものより若干質は落ちるようだが、話を聞く限りではそれも容易に改善できるように聞こえた。出回っている石鹸がいくらなのか知っているか? 金貨数枚から高いものでは数十枚と聞く。小金貨ではなく金貨だ。作っている場所や作り方は秘匿され、知れ渡ってはいない。そこにこの石鹸を持っていくと面倒なことになるのは明らかだ。かといって売らないという考えは無い。よってお前たちは無関係とし、作っている村も作り方も機密とする。いいなっ!」
膨らませた頬から空気を抜き、ぼくも肩の力を抜いた。
そういう理由ならしょうがない。面倒ごとは勘弁なのだ。
「そういう理由なら否はないよ。でもぼくたちにも利益はちゃんと分けてちょうだいね。改良案とかはちゃんと教えてあげるから。あと、村の人たちに不便を強いるのは可哀想だから、ちゃんとフォローもしてあげてね。石鹸の対価に美味しい食べ物を村に送るとか、物くらいは与えてあげてね」
「分かっている、不満が無いよう注意する。はぁ、王都にも行かねばならないか。しばらく色々やることがあるのでプックルは残ってくれないか」
「えー、嫌だよー。弟か妹が産まれるんだよ。早く王都に帰らなきゃなんだよ」
なんかハルファス伯父さんはどっと疲れたような表情を見せているが、ぼくは帰らなきゃいけないんだよ。
「そういえば、そうだったか。急ぎ仕事を片付けるので2、3日待ってもらえるだろうか?」
「それくらいならいいよ、ねっ、伯父さん」
リーグにぃのとこのおじさんに確認をとったら、頷いてくれた。
「それにしても王都まで馬車か、考えただけで嫌になる」
「もしかして馬車に乗るの嫌いなの?」
「あぁ、あのガタガタ揺れるのが嫌なのだ。尻も痛いし腰にもくる」
「ふ~ん、正式な見積もりではないけど、金貨20枚で今のより快適な馬車への改造を受けるよ、どう?」
ぼくの言葉に驚いていたが、少しでも改善されるならと依頼をしてくれた。
結構な金額だが、それだけ馬車が嫌なのだろう。
ぼくのアイデア料、金貨10枚、材料費金貨2枚、改造費金貨8枚の予定だ。
多少のぶれはぼくの取り分を増減させて調整するつもり。
実際に手を動かしたのは職人だが、僕の指示によって馬車の改造がされていく。
向かい合って前後に二人ずつ乗れる四人乗り馬車を二人乗り用へと変更。
といっても、前側の座席は取り付け取り外しできるようにしてあるので、元に戻すことも可能だ。
それと改造の肝は、ハンモックチェアを取り付けたということ。
ぼくのいつも使ってる馬車―といっても伯父さんのなんだけどね―の荷台にハンモックを取り付けようと以前から考えてたんだ。
ハンモックはまぁ横になって寝転ぶものだけど、それを座るのに適したような形に変更してある。
素材は網ではなく布を選んだ。
というのもちょうどいい網が見つからなかったんだけどね。
御者を二人にして、一人は昼間ハンモックで寝て、夜は交代して夜も進んで速度2倍まではいかないけど、1.7倍くらいも考えたけど、護衛が休みなしとか無理か。
いや、護衛は外に配置ではなく兵員輸送車みたいにして幌馬車の中にはずらっとハンモックってやればできるか。
その場合、馬がネックか。
馬は町や村ごとに交代、いや、そこまでして急ぐ必要ないかとこの考えはなかったことにした。
それはおいておいてハンモックチェア搭載馬車に実際にかかった費用は、お貴族様用にそこそこいい布を買ったので、それが金貨3枚、改造は前の座席の取り外しができるようにと、ハンモックをかけることができるよう、取り付け具をつけた程度なので金貨5枚、残りの12枚がぼくの取り分だ。
ぼくは結構儲かったように思えるが、どうせまた真似されるんだろうね。
あー、やだやだ。
試し乗りしてみたが、ゆったり広々したスペースで気持ちもリラックスでき、振動はハンモックに吸収され、ゆらゆら揺れたりはするが結構快適だった。
今回は時間の関係で無理だったけど、王都に戻ったら伯父さんの馬車もどうにか改造しちゃおう。
余談だが、この後短期間で馬車にハンモックチェアを取り付けるのが貴族、商人にと大きく広まっていく。
それに先がけ王国技術院と呼ばれる組織が作られ、特許に似た制度が整備されていくことになる。
ハンモック式と呼ばれる馬車の座席を作る際は1台につき小金貨5枚がアイデア料として国の組織である王国技術院に収められ、そこから半分の小金貨2枚と銀貨5枚がアイデア登録主である少年に支払われることになっている。
実は大国であるこの王国は周囲の国に同様のシステムを作るよう圧力をかけているだとかなんだとか。
他国の場合は、その国に半分、残りの半分は権利者にいくようにとされている。
そのため、王国技術院では技術の登録管理だけにとどまらず、独自技術を開発し、開発者個人としてではなく国が権利者として登録していこうと画策しているそうだ。
多人数でアイデア出し合ってれば、いい考え出るかもしれないけど、個人でやったほうが儲かるやとか技術流出には注意してね、としか言えない。
あくまで余談であり、この段階では王国技術院は設立されていない。
設立されるのはほんのちょびっとだけ先の話である。




