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漁村だー

 ぼくが領都に戻り、それからもう一泊してから漁村へと馬車を進めることになっている。

 竹を植えにいったのはぼくだけであり、その間伯父さんは領都で商売の種を探し、リーグにぃは馬車を扱ってる工房に改造依頼に行っていた。

 領主家の口ぞえもあり、他を後回しにしてのその日のうちに馬車の改造は終わらせてもらう手筈である。


 今回の旅は急に決まったので、王都で馬車の改造は出来ていなかったが、ドンツクさんに作ってもらってた魔道具を使えるように、ここで改造してもらうんだ。

 馬車はのろ過ぎる、もっとスピード出るようにしなきゃ。


 作ってもらった魔道具は魔方陣を書き込んだ木の板に魔石をはめ込んだもので、風の生活魔法であるリトルウィンドが出るようになっている。

 普通魔法は唱えると決まった量が発生し終わるが、熟練者は魔力を込める量を増やすことによって威力を増やしたり、効果時間を延ばすこともできる。

 今回のものは魔道具を持ってキーワードを唱えると魔法が発動し、終了のワードを唱えるか手を離さない限り勝手に使用者の魔力を消費し風をおこし続けるという他では聞かない珍しいものだ。


 改造は馬車の荷台部分の両脇から棒を立て、幌の上の部分に帆を張り、そこより少し後ろにまた両脇から棒を立て、帆の後ろ側に人が座れるようにする形。つまり幌の植えに帆があって、その後ろに座席がある形も考えたが、時間的問題もあり結局頼んだのは幌馬車の荷台部分を前後半分に分けて、間に仕切りをつけ後ろ半分の幌は取り払うというものだった。

 後ろ部分に座って風の魔道具を起動させ、その仕切りに風を当てる。つまり風で後ろから押すというものだ。

 イメージ的には軽トラの荷台部分に乗って、そこから前の運転席に向かって風を吹かせるって感じかな。

 魔道具から出るのは生活魔法のリトルウィンドなので風は強くないが、追い風で進めるというだけで馬も楽だし、速度も出るだろう。



 漁村へは爺ちゃんがつけてくれて王都から一緒に来た騎士2名に加えてハルファス伯父さんが騎士1名と騎兵4名をつけてくれた。

 それにいつもの護衛が3人、伯父さんとリーグにぃ、それにぼく。あっ、あとガジローくんね。でもガジローくんをカウントすると馬もカウントしなきゃいけない気も。

 それはいいとしてつまり大所帯での移動だ。



 領都を出て4日目、幌の上で伏せて寝てたガジローくんが頭を起こし、耳をパタパタと動かしてるのが見える。

 そのまま馬車は草があちこち生えてて人があまり使っていないだろうと思われる道を進み、丘を越えた辺りでぼくはこの世界ではじめて海の香りを嗅いだ。

 息を大きく吸い、胸を膨らませた後吐き出す。

 懐かしい潮の香り、悪く言えばちょっと生臭い香りを風が運んでくる。

 向こうの空を飛んでるのは海鳥だろうか。


「ねぇ、ねぇ、目的地は近いの?」


 弾むような声のぼくの問いに馬車に併走していた領都から付いてきてくれてる騎士さんが答えてくれた。


「はい、もう1時間もしないうちに漁村につくと思います。馬車だと通常5日くらいかかるのですが、4日でつくとはその魔道具はすごいですね」


 ぼくとリーグにぃが交代で風の魔道具を作動させている。

 生活魔法は魔力消費が少ないとはいえ、さすがに常時作動させるのは無理だった。

 それでも効果はあるみたいでよかったよ。


 横目に森を眺めつつぼくらは進み、漁村へと到着した。

 そこは簡易な木の柵に囲まれて家が8軒程度あるに過ぎない小さな集落だった。

 出入り口と思しき場所で兵士が馬から降り叫ぶ。


「私どもは領主様の命を受けて参りました。村長に取次ぎをお願いしたい!」


 広くない村なので隅々にまで声が届いたのだろうか、家の扉が次々とバタンバタンと開き、老人から子供までこちらに駆け寄ってきて地面の上に正座したかと思うと皆頭を下げる。

 いわゆる土下座っていうやつだ。


 えっ、こんなことさせてんの?


 思った言葉は少し口から漏れていたみたいで、騎士や兵士が一斉に手を横に振り違う違うとアピールする。


 少し遅れて来た老人が辺りを見回し、他の人と同じように土下座すると恐る恐る喋りだした。



「漁に出ておりますものを除いてここに村人すべてが集っております。本日はどのような御用でございましょう」


『まず、みんなを立たせて、それから村の中に入れてもらって。いつもこんな対応させてるとかだったらドン引きだよ』


 ぼくは王都から一緒に来て少しは仲良くなった騎士さんに小声で話しかけると、彼も理解不能だったのか固まってたが動き出した。


「村の皆様お出迎えありがとうございます。まずは皆様立ち上がってください、そして村長様、村の中に入れてもらってもよろしいでしょうか」


 騎士で偉いんだけど、この人って結構丁寧なんだよね。


 村人に柵を開けてもらって、ぼくら馬車や馬が中に入っていく。

 そして村の中央にある開けた場所まで案内された。

 そこでぼくは先ほどの騎士の足を小突いて声をかける。


『ねぇ、さっきの歓迎の仕方ってヴァルツォーク領では普通なの?』

『そんなことはございません』


 ぼくの小声に対して騎士は腰を曲げ僕の耳にだけ聞こえるよう小さな声を返してきた。


『ここに来るのが役人か騎士か兵士か知らないけど、いつもあんな歓迎してるのか聞いてみてよ』


「村長、つかぬことを聞くのだが、いつも先ほどのような出迎えをしているのか?」


「はい、お役人様には村人一同感謝しており、精一杯の歓迎をさせていただいております」


『ぼくから言ってもいいけど、ここの領都から来た騎士さん主導でちゃんとハルフェス伯父さんにここであったことを漏らさず報告してね。伯父さんや爺ちゃんがこんなことさせるわけないと思うんだ』


『かしこまりました』


 騎士が集まってる村人に聞こえるよう大きな声を出す。


「先ほどの出迎え感謝する。だが少しやりすぎだと思う、跪かず立ったまま頭を下げる程度でよい。今度からはそのように。それと今回我々が来たのは、領主様よりお主らにやってもらいたい仕事があってきたのだ。詳しくはここにいらっしゃるプックル様が話してくださるので、心して聞くように」


 うわっ、こっちに投げられたよ。

 こんな子供から指示出していいのかいな。

 周囲を見回すがぼくのことを怪訝な目で見るものなんかは見当たらない。

 みな真面目な顔をしてこっちを見ている。


「えー、ご紹介に預かりましたプックルです。今回は皆様に石鹸というものを作る仕事をやってもらいたくて来ました。石鹸というのは汚れたもの、つまり手や体、衣服なんかを洗うときに使うものです。作り方は難しくありませんが、手間がかかります。そしてこの村でお願いする一番の理由ですが、材料に海草を使います。そのためにこの村にやってきました。作っていただいた石鹸は買取いたしますので、この村を皆の力でよりよく、豊かにしていきましょう」


 ぼくの話を聞いて村人たちはぼそぼそと近くのものと何やら話しているが、見た感じネガティブなものではないみたいだ。

 まずは村人には一度解散してもらった。


 この村に数日泊まることになるので、兵士たちは広場に寝泊りできるように準備だ。

 といっても、雨が降らない限り星空の下、マントを敷いた程度でごろ寝だ。季節も夏であり寒いなんてことは無い。

 柵に囲まれてもいるし、移動中の野宿に比べれば安全が保障されているだけ随分ましだ。

 食事については村人共同の煮炊き場があるので、そこを使わせてもらう。


 伯父さんは包丁や鍋釜、布などを無償で提供している。

 いや、無償じゃないな。後で魚とか貰うからってことで、どんどん放出していた。

 もちろん質がそれほどよくない安物だが、それでもとても感謝されている。

 念のため持ってきてもらっててよかったよ。

 予想以上に貧しい村だわここ。

 皆ボロボロの服だし、鍋釜なんかは村で共有の財産ってことになってる。


 今まで税金どうしてたんだよって思ったら、近くの村まで魚を持っていって売って、なんとか税金が払えるだけのお金を工面してたそうだ。


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