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はじめての旅  プックル4歳の秋

 親戚の伯父さんがやって来た。

 ママのお兄さんらしい。

 そのお兄さんと奥さん、僕より3つ上の7歳の男の子の3人だ。

 お兄さんは商人、それも行商人だそうだ。

 秋には近隣の村々をまわり収穫した小麦などの農作物を買い入れ、町から運んでいった品々を売るという定期ルートを持っている。


 定期ルートをもつ行商人は不定期に買い付けたり売りに行ったりする行商人よりは村々からの信頼は高く、一般的にその信頼を損ねないように暴利を貪るような無茶な売買はおこなえない。


 店をもつ商人よりは落ちるが、行商人の中ではランクが高い商人といえる。


 いつもは春と秋に1ヶ月かけて回る定期ルートと、後は町と町を行き来したりと悪くいえばその時の気分次第でよく言えば儲けの匂いのする稼げそうなところを回っている。


 今回は秋の定期ルートを回ったあとなのだが、ルート内のこの町から馬車で2日程度の村からできるだけ早くと

 馬を1頭と家具などのルート巡回中に在庫の無かった商品の注文を受けている。


 村長の息子が結婚するそうでその祝いの品らしい。


 この町で仕入れて持っていくのだが、その準備の暇な時間にうちに挨拶に来たのだという。


 ちなみに父のラパウルはお仕事時間中のため、ママと兄夫婦だけがリビングでお話し中。


 リーグ(にぃ)と僕はうちの狭いリビングを飛び出しお外で元気に、ではなく家のすぐ外に座ってた。


 ちなみに兄夫婦の息子、つまり従兄弟の名前がリーグで僕はリーグにぃと呼んでいる。


 ママはリーグお兄ちゃんと呼ばせようとしたがこっちのほうが呼びやすいのでリーグにぃになった。




「これから行く予定の村は十数戸、100人くらいの村なんだ。今回はお店を開くわけじゃないから手伝いすることもあまりなく暇なんだろうな」



 リーグにぃが少し憂鬱そうに話してくれた。




「村の子供たちと遊んだりはしないの?」


「村に生まれた子供たちは小さな頃から親の手伝いをしながら過ごすことが普通なんだ。それに僕も商売の手伝いをするしね。だから訪れた先で遊ぶなんてことはあまりないなぁ」




 へー、田舎の村とかってどうなんだろ。

 ちょっと興味あるな。



 ちなみにこの世界は安全な世界ではなく危険がいっぱいのため、子供は地球より少しばかし早く精神も肉体も成長するみたいだ。


「ねーねー、僕も付いていっちゃ駄目かな?暇潰しの話し相手とか遊び相手になれると思うよ。うん、そうだ頼んでみよう」


「えっ、いや、ちょっ」





 リーグにぃを置いてリビングに飛び込んでいくと、おしゃべりをしていた3人の話を遮って頼んでみた。




「ま~ま~、ねぇねぇ、僕もリーグにぃたちと一緒に村に行ってみたい。ねぇ~、いいでしょ~」


「あらあら、プックルちゃんどうしたの?急にわがまま言って、だめよ」


「まぁまぁミュレよ、うちのリーグなんか産まれてすぐから行商の馬車旅に連れ回してたんだ。4歳のプックルくんが見聞を広めるために村に行きたいってのはいいことだと思うよ。プックル君は夜ひとりで寝れるかな?途中で帰りたいって泣かないかな?我がまま言わないって約束できてラパウルが許可してくれるんだったら連れていってあげないでもないかな。今回は行って帰って4日程度だしね」




 僕のわがままにリーグのおじさんが援護射撃をしてくれる。


「じゃぁ、さっそくパパに頼んでくる」




 話しもそこそこそこに家を飛び出し、町の門へと駆けていく。


 横をリーグにぃが一緒に走ってついてきてくれている。


 4歳と7歳なんでリーグにぃは余裕だ。


 あれだ、朝はラジオ体操をし、ランニング、夜は寝る前に魔力を空にするまで使いきって気絶するように寝るという生活をしなきゃならんのかもね。


 チート能力もらってないから自助努力が必要かも。



 とりあえずターボスイッチオン

 ぶ~ん。




 やっぱ余裕で並走されてる。




 ちょっと走っただけで門に到着。


 町の出入り口からほど近いとこにうちはあったのだ。


 石壁に囲まれた町の門には出入りの順番待ちの行列が、なんてこともなくそこには欠伸をしながら同僚のもう一人の門衛と雑談しているラパウルがいた。




「とうちゃ~ん、お願いがあるんだけど」


「おー、どうしたプックルにリーグ、こんなとこまで来て。働くパパの勇姿がみたかったのか?」

 雑談をやめたラパウルが歓迎してくれる。




「ねぇねぇ、リーグにぃ達についていって近くの村まで行ってみたいんだけど」


「おぅ、行ってこい、行ってこい。何事も経験だ。でも道中パパが恋しくって泣くんじゃないぞ」



 ラパウルが僕の頭を乱雑にワシワシと撫で付けてくる。


 剣ダコなんかとは無縁の柔らかい手だ。

 剣なんか振ってるのみたことないしほんとに門番なんか勤まるのかと心配になってくる。


 おおらかでのほほんと案外抜けた性格しているしな。




 ……数日後、僕は馬車の御者席の脇に座らせてもらっていた。


 ガタゴト、ガタゴト、幌馬車は舗装もされていない土の道をゆっくり進んでいる。


 馬車といってもそれほど速度を出すものではない。荷馬車ならなおさらだ。


 人が歩くよりは早く、走るよりは遅い小走り程度だ。


 馬を走らせるのではなく、歩かせているためだ。


 馬も生き物、長距離をずっと走り続けるなんてまねはできない。


 しかし人より体も大きく歩幅も大きい馬が歩くから人よりも早く進めるのだ。


 荷馬車を引く馬を道中走らせるなんてことはほとんどない。



 前を歩く2頭の馬を操っているのはおじさん。

 隣にはリーグにぃと僕が乗っている。

 大人一人分のスペースに子供二人だから少々狭いが幌のかかった荷台に入っているより御者台は風が気持ちいい。


 ちなみにおばさんは荷台で縫い物をしている。


 一行はリーグにぃ一家の3人と僕だけではない。

 馬車の横。左右に冒険者が二人。

 一人は馬に乗って一人は早歩きで付いてきている。


 そして荷台に乗り後方を確認しているのが一人、計3人の冒険者が同行していた。


 ちなみに荷台の人はずっと荷台で楽をしているわけではなく、ローテーションで位置換えをしている。


 護衛はほぼ必須と言えるだろう。


 狼などの獣に加えて魔物なども脅威だが、なにより野盗が危険なのだ。


 いくつもの村々を行商するため少なくない金品や商品を所持しているからだ。


 現代の感覚で個人商店が一日の売り上げを持ち歩いてるなどといったレベルではない。


 数週間、うまくすれば数ヵ月分の利益や仕入れ代金を持った鴨なのだ。


 それを守るために人数と武力を誇示しながら旅をしなくてはならない。





 はじめての馬車の旅は目新しいことが満載だ。

 移動中馬車にずっと乗ったまというわけでもない。


 途中途中馬を休ませて水を飲ませたりと馬車は思ったほど進まない。


 当然だ、車や電車などの機械ではなく生き物が荷車を引いているのだ。


 馬も疲れもするし、喉も乾く。

 休憩なしで何時間も歩きっぱなしというわけにはいかない。


 馬は価値のある財産でもあるし、長く一緒に旅を続ける家族でもあるのだ。



 今も馬車を停め、馬に水を飲ませている。


 水をやるのはリーグにぃの仕事だ。




「恵みの神よ、我がマナをもちて水を与えたまえ、リトルウォーター」




 リーグにぃの手からチョロチョロと水が流れ桶に注がれていくが2L程度出た辺りで噴出は止まった。


 これは生活魔法のリトルウォーターといって水が出る魔法だ。


 生活魔法といっても誰でも使えるものではなく、普人種であれば全体の2割程度しか使うことはできない。


 あっ、普人種ってのは獣人とかエルフとかの亜人ではなく普通の人のことね。

 それはさておき生活魔法の上に一般魔法というものがあり、こちらも使えるのはその半分、つまり1割程度と言われている。



 母のミュレは一般魔法の中位まで、父のラパウルは一般魔法の下位までは使うことができるが、

 僕はいまだ魔法が使えない。


 赤ちゃんの頃から魔法を覚えて魔力を枯渇するまで使って気絶するように寝るというパターンを妄想していたこともあったが、言葉や文字を覚えないといけないし、ハイハイであれ動けるようになってからは目新しいものがいっぱいで楽しすぎて月日がどんどん過ぎていっていた。


 魔法を覚えようとしなかったわけではない。

 ミュレに教わって呪文を唱えてみたが発動しなかったのだ。


 貴族なんかでも早い人で5歳くらいから魔法の勉強をするというから、僕も5歳までお預けとうことにしていた。


 てなわけで、いまだ魔法は使えていない。

 大事なことなのでre


 だけど使えるとやっぱ便利だろうな。


 リーグにぃが魔法で水をだしてるのを見てつくづく思う。





「プックル君は疲れてないかい?お尻痛くない?もう少し行ったところに川があってそこでちゃんとした休憩をとるからね。今は小休止」




 伯父さんがはじめての旅の僕を気遣ってくれるが全然問題ない。


 ガタゴト揺れるが幼い僕の柔らかいお尻は振動にも耐えている。


 だがしかしサスペンションや板バネが欲しくなる気もわからんではない。


 かといってスプリングなどのバネを作るのは無理か難しいだろうな。


 中学の時に社会科見学で博物館だかなんだかを見に行ったときにどでかいトラックのスプリングがあって素材がどうとか説明がしてあったのをうっすら覚えている。


 ただ針金を丸めても反発を生むバネになるわけではない。潰れてそのままだろう、素材が問題なのだ。

 昔ミニ四駆を作ったときにスプリング(バネ)を自分で作ろうと棒に針金を巻きつけて作ったことがあるが、見た目バネっぽいものができたが縮めてみると潰れて終わりだった。





 小休止を終え、小一時間も進むと川がありその橋の手前に馬車が数台停まっている。





「こんにちは、私たちもしばらく休ませてもらうよ」




 誰にというわけでもなく声をかけ伯父さんは道からすこし外れ、空いた場所に馬車を停めた。


 リーグにぃはピョコンと御者台から飛び降り慣れた手つきで馬を外し小川の方に連れていく。


 僕も急いで飛び降り後をついていった。




「人も馬も結構水飲むからね。途中の水場などで皆休憩をとったりするのさ。街道の途中途中の休憩できる場所なんかを覚えておくことも旅人には必要なことなんだ。もしも途中で水を補給できなかったとしたら、一日で君がすっぽり入るくらいの樽に一杯の水が必要になってしまう。馬車とはいえ運べる量には限りがあるからそこんところも考えなくちゃいけないんだ」




 馬に水を飲ませる横でリーグにぃも手に水を掬いごくごくと飲んでいる。


 やっぱこういった時代だと川の水飲むよね。(キリッ、生水は腹を壊すので煮沸してからじゃないと飲めない)

 なんて甘いこと言えないわ。


 神様に生水飲んでも大丈夫な胃袋にしてもらってよかったと感謝しつつ僕も川の水を一緒に飲んだ。


 冷たくて美味しかったとだけいっておこう。





「僕も何か手伝うことある?」



 さすがに体は子供とはいえ頭脳は大人なんだ。

 幼児と同じく遊んでいるのは気が引けるので手伝いを申し出てみた。




「うーん、それじゃぁ僕はあっちの草がいっぱい生えてるとこに馬を連れていって食べさせてくるから、君は父さんと母さんから水袋をもらってきて水を汲んで渡してきてもらえるかな。それとこの川は流れは緩やかだけど落ちないように注意するように。それじゃぁよろしく」



「はーい」




 さっそく馬車に行き皮袋を受け取ったら、今度は護衛の冒険者がひとり付いてきてくれた。


 なにも言わないが子供ひとりは不安だろうという配慮からかな。



 うちのパパ、ラパウルよりは大分歳は上だろう。

 普人種のそろそろ中年、30代後半くらいのおじさんだ。


 冒険者の人たちには会ったときに挨拶した程度で、馬車の道中はリーグにぃやおじさんとばかり話してたし、こっちは御者台、冒険者たちは護衛で馬車の横を早歩きで歩いてたので会話は全然おこなってなかった。





「おじさんっていつもリーグにぃのおじさんたちの護衛やってるの?」


「あぁそうさ、といっても3年くらいの付き合いかな。いろんな仕事をこなして冒険者ランクをあげてバリバリ稼ぐってのも悪くないけど、おじさんも若くないから決まった商人さんの護衛をして安定してお金を貯めてもう少ししたら引退して畑でも耕そうかと考えているのさ」




 指で鼻をかきながら答えてくれた。



 冒険者だと歳をとると仕事をこなすのは難しそうだからそれまでに老後のお金をためるか、老いても働ける職にかえなきゃいけないのか。

 冒険者は若いうちだけとは厳しいねぇ。




「足を滑らせないように気をつけなよ」




 護衛のおじさんは仲間達の分、僕はリーグにぃのとこのおじさんとおばさんの分の水袋を並んで汲んで馬車へと戻ってきたが、4歳の僕には二人分の水袋はちょっと重かった。



 この休憩中にお昼ご飯をとった。


 ご飯といっても町から持ってきた蒸した芋と干し肉だけだ。

 火をおこしてスープを作るといった手間はかけない。


 芋も蒸したやつを町から持ってきたもので手早くすませ、1時間ほど休憩の後また馬車の旅に戻った。




 村につくまでモンスターに一度も襲われることはなかったが、一度だけ近くに偵察に来てたと思われる狼に牽制のために弓を一発射って追い払ったらしい。


 その程度だ。

 未だこの世界に転生してから魔物には遭遇していない。


 この世界に魔物が少ないというわけではなく、魔物は森や山などに住んでいる場合が多く、またこの国の主な街道は時々騎士団が巡回し魔物を倒しているため比較的安全なんだそうだ。



 途中野宿で一泊したが特に問題も起こらず翌日昼過ぎには村に到着した。





「ようこそおいでくださいました」




 村の門といっても木で作られた柵程度のものを出入りするために渡してある棒を外して入った村の中央近くにある村長の家で歓迎の言葉を受けた。


 この程度の村に常駐の門番はいない。


 出入りするのに自分で勝手に門を開けて入ってきたのだ。


 村長の家は村の一番奥とかではなく、村と外とを隔てる柵から一番遠く安全な場所。

 つまり村の中央付近であることが多い。


 村長と商人の伯父さんが話をしている間に村のもの数人と護衛を含めた僕たちで荷をおろすが十分程度で仕事は終わったのでリーグにぃとふたり村の中を散策することにした。




「畑って村の中にある訳じゃないんだね」


 村の柵の外で畑仕事をしている人たちを見て言った。


「畑もすべて村の中ってのが安全で理想的なんだろうけど、畑って結構広いから難しいんだ。家々を囲う村の柵は力を入れて頑丈で背の高いものを作り、その外に畑をつくってそこは簡易な柵で囲うって村がみたとこ多いかな」


 まだ子供だけど色々なとこを回ってみてきているだけあってさすがに物知りだ。




「こんにちは」


 僕より少し上、リーグにぃくらいの女の子が赤ちゃんを背負い、僕と同い年くらいの男の子と一緒に水桶を運んでいる場面に遭遇し挨拶した。


 確かに小さな子供でもお手伝いをしている。結構大変なんだな。

 水は井戸ではなく村の中を流れる小川から汲んできているようだ。



 夜は護衛の3人含めて村長の家に泊まらせてもらった。


 小さな村には宿はなく、宿泊客に対応できるように村長の家は少し大きめになっている。


 そこでなんとなくお伽噺の赤ずきんちゃんで狼をライカンスロープ―狼の獣人ではなく2足歩行の狼のモンスター―にしたりと少々改編して話をしたら村長のとこの子供たちだけでなく大人にも大受けだった。



 農家の朝は早く翌朝早くに村長宅を発ち、帰路も特に危険なこともなく無事に町へと戻った。


 どれもこれも目新しく充実した4日間だった。

叔父と伯父

どちらも"おじ"だが伯父は親の兄もしくは義兄(姉の旦那)

叔父は逆に親の弟もしくは義弟(妹の旦那)となる。


叔母と伯母も同じ感じで漢字

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