暑い
「なんか暇だねぇ」
入り口も窓も全開放してあるが、店の中はめっきり暑くなってきた。まだ初夏だというのに、この店は風通しが悪く嫌になってくる。
手にした総竹製の扇子をバタバタと扇ぐがどうもやる気がおきない。
床はひんやりしているようで、ガジローはぐでーっと床でのびている。
「おぉい、こっちも扇いでくれ」
貸板芝居屋がオープンして1週間、興味があって借りたい人は借りて王都から出て行ってしまっている。
彼らはまだ帰ってきておらず、彼らを見た人や噂を聞いた人とかの新規顧客が来るなんてことはまだない。
そんな時でも将来お客がたくさん来てくれることを思って、店の奥で板に絵を描いているラパウルから声がかけられる。
「え~、やだよ~」
「銅貨1枚やるから扇いでくれー」
「やる」
ん?って思ったら、開けっ放しの店の入り口にコンセルくんが立っていた。
「なんだ、コンセルか。四半刻扇いでくれたら銅貨1枚出すぞ」
30分扇いで約100円とか鬼かよ。と思ったけど、そう思わないものもいるみたいだ。
「やる。それ貸す」
ぼくの手から扇子を取ると、店の奥へと勝手に入っていく。
いや、それぼくのだから。ぼくはどうすれば……
しょうがないので、店の前に椅子を置いてそこに座った。建物内より風が吹いてるだけ外のほうが心地いい。
「プックルく~ん」
店の前でぼけーっとしてたら、名前が呼ばれた。
こちらに向かってくる馬車の御者席横からリーグにぃが手を振っている。
ここ数日おじさんと王都から馬車で数日のところまで仕入れに行ってたのだ。
ちょっと違うか。仕入れじゃなく採取かな。
目的のものがある近くの村まで行って、村人に採取を依頼するとか言ってた。
ぼくの使ってる扇子を見ておじさんが同じ用途で使えるんじゃないかって、ある葉っぱを思い出したんだ。
小さな子供が両手に抱えるくらいの大きさの青々とした葉っぱをいくつか持って、リーグにぃは馬車を飛び降りぼくの前に駆け寄ってきた。
「これのことだよ」
受け取ったそれは天狗の葉団扇と言われるヤツデに近いような見た目をしているがもっと硬くちょっとした弾力性もある。
確かに団扇のように使えるみたいだ。
「1ヶ月くらいこのままで枯れないんだって?」
「そうらしいよ。父さんの知識ではそうだっていってたし、村の人にも確認を取ったから間違いないよ」
さっそく受け取った葉っぱでリーグにぃを数度扇いだ後、自分を扇いでみた。
あ~、涼しい。
顔が緩む。
そんなぼくを見て道を歩いていた人が声をかけてきた。
「おい、そりゃなんだ?」
「ん? これは葉団扇っていって風を送るものだよ」
尋ねた人は顔に汗をかいてて暑そうだったので、手にしていた葉っぱで扇いであげた。
「あ~、こりゃいいね~。その葉っぱどこで取ってきたんだい?」
「これは王都から何日も離れた場所まで行って取ってきた売り物だよ」
リーグにぃが口を挟んできた。
「へぇ~、どこで売ってるんだい?」
「ここか、もしくは……でひとつ銅貨4枚だよ。1ヶ月くらいは枯れずに使えるからお得だよ」
商人の爺ちゃんの店の場所を教えていた。
400円って高いようなそうでないような。
でも護衛を三人連れて数日かけて行って、向こうで葉っぱ取るのに村人使ってって、大して儲けないんじゃないかなって思う。
そんなこと考えてる間に声をかけてきた男と、その話を立ち止まって聞いてた人数人にリーグにぃは葉っぱを売っていた。
買った人達は葉っぱで扇ぎながら道を歩いていく。
ぼくとリーグにぃが雑談してる間に、彼が持ってきていた葉団扇は全て売れてしまった。
リーグにぃはすぐに「取ってくるから、ここで少し売ってもらってもいい?」と言って走っていこうとするが、ぼくはそれを止める。
ここはうちの店だから、伯父さんのところから仕入れて売るという形にすべきだと思う。
ということは、値段を相談しなきゃいけないよね。
それと、この店は大きな通り沿いにあって爺ちゃんのとこより立地がいいから、こっちの方が売れるかもしれない。
そうするとお金をかけて苦労して取ってきた伯父さんの儲けが少なくなる。ぼくはそれはいいことだと思えない。
「伯父さんのとこからひとつ銅貨4枚で仕入れて、こっちでは5枚で売るよ。安いほうがいいって思う人なんかは、爺ちゃんの店に誘導するから。そっちはひとつ銅貨4枚、ふたつで銅貨7枚。みっつで銅貨10枚、つまり銀貨1枚って売り方すれば早く売れるかもって伯父さんに助言しておいて」
「まとめ買いの人はお得にということね。どっさり取ってきてるから、早く売れるにこしたことがないから相談してみるよ。それに、値段はちゃんと書いて置くんだよね、分かってるって」
それだけいうと、走っていってしまった。
日頃それほど活発的な感じがしないリーグにぃだけど、やっぱ商人だと思うわ。
この暑さもあったが、通りを歩いてる人が葉団扇を使って涼んでる姿を見た人なんかが自分もと買い求めるケースが多くあったようで、それほど日を経たずに売り切ったようだ。
今はちゃんと売買の記録を残しているようで、1600枚近く売れたという。
その後伯父さんはまた取りにいくか迷っていたみたいだが、売り切れ少し前から真似して葉っぱを取ってきて売る店が出てたみたいなので、止めたほうがいいんじゃないって助言しておいた。
伯父さんって安全にやっていく主義だから、護衛も常に三人連れて行くし経費が他よりかかると思うんだよな。
聞いた話だと、護衛なしで取りに行った人もいるみたいだし、他所と値下げ合戦になったら勝てないもんね。
ヨーロッパで流行した折りたたみできる扇は日本から渡っていったものが元になっているというが、この世界でぼくの使ってる折りたたみできる竹の扇子のようなものは無いみたいだった。
地球のようにこちらで流行るかはわからなかったが、竹で作ったシンプルなものから、布や羽を使ったお洒落?なものまでいくつか作り、貴族街の調理道具を置いて販売してもらってる店にこれも置いてもらった。
ただ置いてもらって売るだけではなく、婆ちゃんにお茶会や社交の場で使ってみてってお願いもした。
口元を隠したりとちょっとした小道具として使ってみてねと。
もちろん他の貴族へのプレゼント兼広める用としてもいくつか渡してある。
リーグにぃのとこのおばちゃんは、うちの母さんと同じく妊婦さんなんだけど、大事をとって伯父さんについて商売に出かけなくなったため暇だとか言って、色んなものをうちで作ってるんだよ。
商人の爺ちゃんとこで売ってるナップザックなんかは結構売れてるらしい。
あれにもブランドマークとしてガジローくんをイメージしたものを刺繍してあるんだよね。
あ、もちろん貴族向けで出してる調理道具なんかとは少し形を変えてあるよ。
貴族向けと庶民向けはちゃんと別なものにしないとね。
そんな手先の器用な伯母さんはマイペースなうちの母さんも巻き込んでやってるけど、人を雇ったほうがいいかななんて話をしている。
だって扇子とかも色々作ってくれてるんだもん。




